グランジに立ち向かったミスター・ビッグ、ハードロックの狼煙を上げろ! 1991年 3月26日 ミスター・ビッグのアルバム「リーン・イントゥ・イット」が米国でリリースされた日

グランジやオルタナへのカウンターカルチャー、ミスター・ビッグ

今から30年前の1991年、ロックは新しい時代を迎えた。その象徴としてグランジやオルタナティブロックがオーバーグラウンドに顕在化し、ついにはニルヴァーナの『ネバー・マインド』がチャートの1位を獲得した。

オルタナティブロック革命から30周年を迎える2021年。今こそ1991年のロックの名盤を振り返り、いくつかの作品を本サイトでリマインドしていきたい。

とは言うものの… グランジやオルタナだけに焦点を絞っても1991年のロックシーンのリアルな姿を捉えることはできない。グランジが80年代のキラキラしたロックへのカウンターカルチャーであったように、グランジへのカウンターカルチャーが存在しても何ら不思議ではないのだ。

そんなわけで、今回は番外編として1991年に大ヒットしたミスター・ビッグのセカンドアルバム『リーン・イントゥ・イット』を取り上げよう!

ミスター・ビッグ、ハードロックシーンの凄腕プレイヤーたちが集結

ミスター・ビッグはビリー・シーンが中心となり、当時のハードロックシーンの凄腕プレイヤーにより結成されたスーパーグループだ。デビューアルバム『MR.BIG』は1989年にリリースされ、メンバーのテクニカルなプレイを存分に聴くことができる作品だ。ハードロックのテクニカルな側面が重要視される日本では大きな注目を集め、オリコンチャートで22位を記録し、洋楽ロックとしては大ヒットした。しかし、本国アメリカでは、ビルボード46位とスーパーグループのデビューアルバムとしては地味なチャートアクションにとどまっている。

続いて1991年にはセカンドアルバム『リーン・イントゥ・イット』がリリースされ、こちらはオリコン6位、ビルボード15位の大ヒットを記録した。また、本作からのシングル「トゥ・ビー・ウィズ・ユー」がビルボード1位の大ヒットとなったことによりアルバムセールスを後押ししたことは間違いないだろう。

本作『リーン・イントゥ・イット』は、デビューアルバムに顕著だったテクニック至上主義的な作風から楽曲至上主義に大きくバンドの方向性が変わった作品だ。この2枚を聴き比べると、楽曲のクオリティが飛躍的に高くなっていることが一目瞭然だ。テクニカルなハードロックバンドから王道感溢れるアメリカンハードロックバンドへとミスター・ビッグは飛躍したのだ。

根強かった潜在的人気、王道感溢れるアメリカンハードロック

1991年のロックシーンはオルタナティブロック革命の嵐が吹き荒れていた。当然のこと、ミスター・ビッグのようなハードロックバンドにとっては風当たりの強い状況だった。しかし、ミスター・ビッグは王道感溢れるアメリカンハードロックを思い切り鳴らすことで逆風に逆らい大ヒットを手に入れたのだ。

この頃のハードロック事情を見てみると、ヴァン・ヘイレンはサミー・ヘイガーを迎えての3作目『F@U#C%K(For Unlawful Carnal Knowledge)』をリリースし、ビルボード1位を獲得。ガンズ・アンド・ローゼズは『ユーズ・ユア・イリュージョンⅠ&Ⅱ』を2枚同時発売し、1位、2位を独占し、こちらも大ヒットしている。

このようにハードロックへの潜在的な人気は根強く、オルタナティブロックがハードロックをシーンから追いやったかのように見えるのだが、そんなことは全くなかったのだ。

ただし、世間の喧騒は、寝ても覚めてもオルタナティブで、ハードロックファンは相当にストレスを感じ、イキの良いニューカマーの登場を待望していたことだろう。

そんな腹ペコ状態のハードロックファンの目の前にリリースされた作品がミスター・ビッグの『リーン・イントゥ・イット』だったのだ。また、「トゥ・ビー・ウィズ・ユー」というバラードがシングルヒットしたということも王道ハードロックというイメージを強く印象付けることに繋がったと言えるだろう。

70年代ブルースロックに立ち返って楽曲を制作したミスター・ビッグ

ミスター・ビッグのバンド名は、フリーが1970年にリリースした歴史的名盤『ファイヤー・アンド・ウォーター』の収録曲「ミスター・ビッグ」から拝借したことは有名なエピソードだ。

ミスター・ビッグは『リーン・イントゥ・イット』の制作にあたり、バンド名の由来である70年代ブルースロックに立ち返り、アーシーな色合いを強め、エリック・マーティンのボーカルを際立たせる楽曲制作にシフトしている。

こうしたシフトチェンジに際し、「トゥ・ビー・ウィズ・ユー」や「60’s マインド」をアルバムに収録すべきかどうかがメンバー間で問題となった。しかし、ラジオフレンドリーなこれらの楽曲を収録したことでアメリカでも大きな成功を掴むことができたのだ。

しかしこの後、ミスター・ビッグはレーベルから第2の「トゥー・ビー・ウィズ・ユー」を期待され、バラードや不本意なカバーの制作を強制され、徐々にバンドとしての勢いを失い、メンバーの脱退や解散と再結成を繰り返すという残念なパターンに陥ってしまう。

グランジ・オルタナという逆風に逆らい大ヒット!

それでも、グランジ・オルタナの嵐が吹き荒れる1991年のロックシーンにおいて、王道ハードロックを爽快に鳴らし、大ヒットさせたことは大きな意味を持ち、快挙と言えるだろう。

そして、鬱屈とした空気感が蔓延するコロナ禍の現在こそ、ミスター・ビッグの肯定感はリアルに響き、私たちの背中を押してくれる。うつむいてばかりはいられない日常を爽やかに刷新してくれる音楽が、現在の私たちには必要なのだ。

グランジという逆風に立ち向かったミスター・ビッグの『リーン・イントゥ・イット』を聴いて、みなさんも明日への活力を養ってみてはいかがだろうか!

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追記
私、岡田浩史は、クラブイベント「fun friday!!」(吉祥寺 伊千兵衛ダイニング)でDJとしても活動しています。インフォメーションは私のプロフィールページで紹介しますので、併せてご覧いただき、ぜひご参加ください。

カタリベ: 岡田浩史

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