「アジア人でクィアである」ポップスターの誕生。日本生まれのリナ・サワヤマが次世代に伝えたいこと

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アジアにルーツを持つアーティストが、世界の音楽シーンで大きな存在感を見せている。

その1人が、ロンドンを拠点に活動する、日本生まれのリナ・サワヤマだ。アジア人で、パンセクシュアルであることを公表しているリナは今、イギリスの音楽シーンに変革を起こす存在だ。

1990年に日本で生まれ、5歳の時に家族とイギリスに移住。両親の離婚後、母親とロンドンに残り、10代から曲作りを始めた。名門ケンブリッジ大学で政治学や心理学を学び、卒業後に本格的にアーティスト活動を開始した。

人種やセクシュアリティを理由に差別を受けることも少なくなかったというリナの楽曲には、その経験もリアルに刻まれている。日本とイギリスという2つのルーツ、LGBTQコミュニティと出会い救われた経験、家族との葛藤…アイデンティティをめぐるリナの音楽は、若い世代やLGBTQコミュニティなどから熱い支持を受けている。レディー・ガガやエルトン・ジョン、BTSのリーダーRMなど、第一線で活躍するアーティストも、その才能を絶賛する。

音楽や映画などのポップカルチャーにおいてアジアにルーツを持つ人々が注目される一方で人種差別が顕在化する今、ロンドンでリナは何を感じているのか。話を聞いた。

権威あるイギリス音楽賞の歴史を変えた

2020年〜2021年にかけて、リナの問題提起によって、イギリスの音楽シーンにエポックメイキングな出来事が起きた。

イギリスレコード産業協会(BPI)が主宰する権威ある音楽賞、マーキュリー賞とブリット・アワードには、候補になるための条件の一つとして国籍条項があり、イギリス国籍でない者は除外される。2020年4月発売の1stアルバム『SAWAYAMA』は高い評価を得たにもかかわらず、日本国籍のリナは、マーキュリー賞の候補から外れてしまったのだ。

これは大きな波紋を呼び、2020年7月、リナはカルチャーメディアVICEの独占インタビューに答え、国籍条項のルール見直しを訴えた。SNSでは、「#SAWAYAMAISBRITISH(サワヤマはブリティッシュ)」というハッシュタグが生まれ、国内外の様々なメディアが取り上げた。

リナと所属レーベルDirty HitはBPIと協議し、その結果国籍条項のルールは変更され、イギリス国籍でなくとも受賞候補になることが可能になった。この変更によって、移民など様々なバックグラウンドを持つアーティストが対象となり、イギリスの音楽賞はより包括的な方向へと、歩みを進めることになった。

リナはハフポスト日本版の取材に対し、「賞を獲得するためだけに国籍を移すことは違和感がありました。アートやカルチャーの賞は排他的であってはならず、多様性を重視すべきだと考えました」と話す。

BPIとの協議は「タフで、終わった頃には疲れ果てていた」というが、ルール変更は大きな喜びを感じることだった。

それは、自身のアーティスト活動のためだけではない。この問題提起が、今イギリスで音楽をつくる人々、そしてアーティストを夢見る若い世代にとっても希望をもたらすことになったからだ。

これまで閉ざされていた門が開かれたことが、心から嬉しいです。欧米の社会では、様々な人種やアイデンティティ、バックグラウンドを持つ人たちがいることをあらゆる面で反映させることが大事だと思う。音楽賞もその一つで、マジョリティの属性でなくても、自分がやりたいことを実現できるんだと見せることができたなら、とても光栄です

「自分と同じ容姿のスター」見たことがなかった

日本生まれ、ニューヨーク在住のMitski、中国とジャマイカにルーツを持ち、リナと同じく今イギリスで注目されているGriffなどの女性ソロアーティスト。アジアの音楽を世界に発信する88rising。そして、BTSやBLACKPINKなどのK-POPスター。

アジア系のアーティストの世界的な成功を受け、リナは「まるでこの時期を待ち望んでいたかのように続々と世に出てきて、その才能が認められている。私もたくさんの刺激を受けている」と話す。

しかし、今でこそ活躍が目立つようになったが、リナが音楽を作り始めた2000年代は決してそうではなかった。「自分と同じ容姿のアーティストやスターは、ほとんど見たことがなかった」という。

若い頃は、私は自分はミュージシャンになれるわけない、きっと医者か何かにならなければいけないんだと思っていた。

イギリスで日本の文化が人気になっても、たとえば『Kawaiiカルチャー』のように、誇張されたステレオタイプを感じるようなキッチュなものばかりでした。『素のままのアジア人』は受け入れられにくく、自分の目指す姿をテレビの中に見つけることはできなかった。

でも、これからは、私と同じアジア系の若い世代が、クリエイティブな仕事を最初から諦めるのではなく、一つの選択肢として考えられるかもしれない。

私は音楽を作るだけではなく、自分の政治的な理念や考え方を通して次の世代に何を残せるか常に考えている。若い世代にインスピレーションを与えられる存在でありたいです

マイクロアグレッションへの怒り

リナは作詞作曲だけではなく、ミュージックビデオのディレクションも手掛けており、中でも「STFU!」は鮮烈な印象を残す。冒頭、日本食が置かれたテーブルを挟み、リナと白人男性の会話が繰り広げられる。

「君、歌手なんだって? 驚いたよ。英語で歌うんだね」

「『キル・ビル』のルーシー・リュー(※中国にルーツを持つ俳優)は好き?」

「『グレイズ・アナトミー』の彼女(※韓国にルーツを持つ俳優サンドラ・オーを指す)に似てるよ。でも…君はもっとセクシーなバージョンだね」

「君はミックスルーツ? (目を横にひっぱる動作をして)日本人っぽくないよね」

ビデオの中の白人男性は、リナの返事には興味もない様子で、「日本」や「アジア」をめぐる定番のステレオタイプを一方的に押し付けてくる。

この曲で表現したかったのは、マイクロアグレッション(意図的かを問わず日常的に発せられる差別的な言動)への怒りだ。白人男性との会話は、実際に結婚式に出席した時の会話を再現した。タイトルの「STFU!」は、「黙れ」「うるさい」を意味するスラング「Shut The Fuck Up!」の頭文字をとった。

ロンドンは様々な人種や宗教を受け入れる部分もあるけれど、それでも時々、自分にとって居心地が良くない場所もあります。『STFU!』は、共感したという声がたくさんあり、きっと私の母親やアジア系の女性も似た経験をしている。これまで体験したマイクロアグレッションを癒すような、自分にとってセラピーのような曲です

アジア系差別。欧米で生きる当事者として

コロナ禍で顕著なのが、アジア系を標的とした差別やヘイトクライムだ。アメリカ各地で抗議デモが行われ、SNSでは「#StopAsianHate」というハッシュタグデモが起こっている。著名人も参加し、抗議は大きなうねりを見せている。

アジア系へのヘイトクライムは、イギリスに住むリナにとっても決して他人事ではない。

アジア系差別の問題がようやく広く知れ渡り、重視されるようになった。抗議活動も活発で、今こそアジア系の連帯が重要だと思います。

『アジア』といっても様々な国や文化があり、国同士が対立している地域もある。イギリスでもアジア系の移民同士が敵対する光景を見たことがあるけれど、今は団結して抗議し続けることが、現実を変える一つの手がかりになると思います

「選ばれた家族」に出会い、救われた。

アジア系であること、そして、リナのもう一つのアイデンティティはクィアであることだ。2018年に楽曲「Cherry」でパンセクシュアルであることを公表し、2020年には、LGBTQコミュニティに捧げた「Chosen Family」を発表した。

「We don’t need to be related to relate, we don’t need to share genes or a surname(和訳歌詞:共感のための共感はいらない 苗字や遺伝子を共有しなくたっていい)」と歌われる「Chosen Family」。

リナが出会ったLGBTQコミュニティの中には、性的マイノリティであることやカミングアウトが理由で、家族や友人、地域から疎外された人々もいた。血縁を重視するのではなく、自分の意志で繋がり合う「選ばれた家族」と出会い長い時間を過ごすことで、傷ついた心が癒されていった。

コミュニティに救われたリナは今、自らもコミュニティをつくりだす存在になった。リナが感じてきた痛みや不安は、音楽を通してパワフルなものへと変わっていき、それに今多くの人々が熱狂している。

私のライブには、アジア系の人々や、クィアの人たちも多く来てくれます。それが本当に嬉しく、アジアのクィア・コミュニティが、『自分たちを代表してくれる存在を待っていた』と、私を暖かく迎え入れてくれる空気を感じます

エルトン・ジョンとのコラボ

「Chosen Family」を発表してから1年、エルトン・ジョンをフィーチャリング・ゲストに招いて新録することになった(4月15日より配信中)。

エルトンは、『SAWAYAMA』を「今年一番のお気に入りのアルバム」だと称賛し、中でも「Chosen Family」が好きな曲だという。

ゲイであることを公表しているエルトン・ジョンは、エイズが「死の病」と言われていた80年代〜90年代にかけて多くの友人を亡くし、その経験から「エルトン・ジョン・エイズ基金」を設立。作品の印税収益を寄付し、長年LGBTQコミュニティをサポートしてきた。

そんなエルトンを迎えて「Chosen Family」を新録するにあたり、何を感じたのか。

エルトン・ジョンは、エイズが猛威をふるっていた時代を生き抜いてきた人です。

いまだにエイズに対する偏見はありますが。今は治療しながらHIVとともに生きることも可能な時代になった、しかし80年〜90年代にエイズに罹った人たちは、実の家族に言えなかったり疎外されたり、感じる必要のない『恥』を感じさせられたりして、死ぬ間際は自分たちの『Chosen Family』しか周りにいてくれなかったという時代でもあった。

そうした時代背景をふまえると、エルトンにとっての『Chosen Family』という考え方は私とはまた違って、彼とのコラボで、より私自身の考えやこの曲のメッセージが深まったと感じています。この曲を通して、私とエルトンもChosen Familyになれたのだと思うと、とてもマジカルな経験でした

「私たちの権利は絶対に認められるべき」

イギリスでは2014年に同性婚を認める法律が施行された。エルトン・ジョンはその年に、市民パートナーシップを結んでいた同性パートナーと結婚し、今は2人の息子がいる。

現在、29の国・地域で同性婚が可能になっているが、日本は主要7カ国(G7)で唯一同性婚を認めていない国だ。その中で、3月に札幌地裁が「同性間の結婚を認めないのは憲法違反」という歴史的な判決を言い渡し、結婚の平等への大きな一歩となった。

この取材は、その判決が言い渡された数日後に行われた。リナは最後に、日本で権利のために闘うLGBTQコミュニティの人々に向け、こうメッセージを残した。

日本で闘っているLGBTQの人たちがいることが私はとても嬉しく、同じクィアとして誇りに思います。日本のように、歴史が長く、伝統が深く刻まれている国では、マイノリティであるということは、様々な点から尊厳を傷つけられることもあるだろうと想像します。

でも、私たちの権利は絶対に認められるべきで、自分が愛したいと思う人を愛すべきだし、愛されるべきで、自分らしく尊重されるべき権利がある。悪いことをしているわけでは決してないのだから。私もあなたたちと共に立ち続ける、だから一緒に闘い続けてほしいと心から思っています

(取材・文=若田悠希 @yukiwkt