残り9分でのリスタート。「絶対に前に行かせない!」と首位を守った上村優太【S耐第2戦SUGO】

 4月18日、スーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankook第2戦『SUGOスーパー耐久3時間レース』のグループ1の決勝レースが行われ、最高峰ST-Xクラスは16号車PC Okazaki 911 GT3R(永井宏明/上村優太/中山雄一)が今季初優勝を獲得した。

 コントロールタイヤがハンコックに変わり、初めて行われた第1戦もてぎでポールポジションを獲得した16号車PC Okazaki 911 GT3R。スポーツランドSUGOで開催された昨年の第2戦を制していることもあり、今年の第2戦でも予選から好調をみせてポールポジションを獲得する可能性が高い1台であった。

 しかし、17日に行われた予選がウエットコンディションとなったことでその予測は崩れてしまう。Aドライバー予選で永井が1分34秒688を記録し、2番手を記録するも、Bドライバー予選を担当した上村はトップから2.9秒遅れの6番手、5番手タイムを記録した720号車Floral UEMATSU FG 720S GT3からも1.4秒遅れの1分33秒190がベストタイムとなり、合算でもクラス最下位の6番手という予想外の結果に終わってしまう。

 ハンコックのドライタイヤに早めに適応し、第1戦ではポールポジションを獲得した16号車だったが、ウエットタイヤとのマッチングは暗中模索という状況だった。決勝日が雨であればレース中のポジションアップも厳しくなるかと思われたが、翌18日がほぼドライコンディションに恵まれたことで、ドライタイヤでは引き続き好調をみせる16号車に追い上げのチャンスが舞い込む。

 ポールポジションスタートの31号車LEXUS RCF GT3は小高一斗、4番手スタートの9号車MP Racing GT-Rは影山正美とエキスパートドライバーを投入するなか、16号車を含む4台はジェントルマンドライバーが第1スティントを担当し、第2、第3スティントで追い上げをかける作戦をとった。

 16号車のスタートを務めた永井宏明は2周目に81号車DAISHIN GT3 GT-Rの大八木信行、13周目に777号車D’station Vantage GT3の星野敏をパス。続いて17周目には3番手走行中の290号車の植松忠雄の背後1秒以内にまで接近。さらにジリジリと間合いを詰める永井だったが、ポジションを入れ替えるまでには至らず、2台による3位争いは38周目に永井がピットに入るまで続いた。

 6番手スタートから2つポジションを上げて第2スティントの中山雄一に繋いだ永井は、「スタートから少しでも前にと頑張ったのですけど、植松さんにずっと抑えられちゃうかたちになりました。それでもバトルができて楽しいスティントだったと思います。クルマ的には少し余裕があったのですが、抜くまでには至りませんでしたね」と、自身のスティントを振り返った。

 永井からバトンを受け継いだ中山は49周目に290号車の澤圭太をオーバーテイクし、表彰台圏内の3番手に浮上すると、以降1分23〜24秒台のペースで上位2台とのギャップを徐々に縮める。

 レース開始から2時間が経過し、88周目に2番手の31号車が、89周目にトップの9号車がピットインするなか、3番手16号車も91周目にピットイン、中山雄一から上村優太にドライバーチェンジを行なった。中山の安定した走りの甲斐もあり、上村はトップの9号車に続く2番手でコースに復帰することに成功した。

 52周とチーム内最長距離を走行した中山は「ポルシェはガソリンを積んだときのバランスがそんなに悪くならないので、そこがいい方向に働いたなと思います」と語る。Porsche Center Okazakiが走らせるポルシェ911 GT3 Rでの2レース目を終え、これまで経験してきたGTマシンと比べると、依然違和感は残ると話した。

「やはりリヤエンジンというのはかなり違和感がありますね。まだまだ思ったよりも攻められていないというのはあります。特にSUGOは、道幅も狭くて、コーナーに入ったときにリヤから飛んでいっちゃうような感触なので、その感触がまだ慣れないですね」

「TRDさんからも許可をいただいてこのポルシェ911 GT3 Rに乗らせていただいてますが、ドライバーとしてすごく勉強になっています。次戦の富士24時間では31号車のレクサス RC F GT3に乗る予定ですが、いざRC Fに乗ったときに、ほかのGT3車両との違いをフィードバックできればと思っています。ただ、やはりリヤエンジンというのはなかなか動きが特殊です(笑)」

 トヨタのドライバーとしてスーパーGT GT500クラスに参戦し、今季は代役ながらスーパーフォーミュラでもドライバーを務める中山雄一。スーパー耐久でのポルシェの経験が、また一つトップドライバーとしての階段を上るきっかけとなるかもしれない。

■「絶対に行かせない」という想いでリスタートから首位を守った上村

 中山からバトンを受け取り、2番手でコース復帰となった上村。まだタイヤが温まり切らないなか、上村の背後に777号車の近藤翼が接近する。ST-X全車が2回目のピットストップを終え、レース時間も残り45分となると、2番手16号車から5番手290号車までの4台が3秒以内を走るという大接戦が繰り広げられた。

 一方、首位9号車のJOE SHINDOは16号車を15秒先行するも、JOE SHINDOは1分25秒台、上村を筆頭にエキスパートドライバーたちは1分23秒台で周回を重ねたことから、終盤にコース上での直接対決が繰り広げられることが予想された。

 しかし、95周目に9号車とST-Zクラスのマシンが絡むクラッシュが発生、残り40分を残してセーフティカーが導入。さらに残り33分となったところで赤旗が提示されレースは一時中断される。この予期せぬアクシデントにより、16号車がトップとなった。

 残り15分のところでセーフティカー先導でレースは再開。セーフティカー先導のまま2周を走行したのち、残り時間9分弱のところでリスタートを迎えた。

 コース上の緊張感が最高潮に高まるなか、トップから抜群のタイミングでリスタートを決めた上村は、2番手に続く近藤とのギャップを広げるべくハードプッシュにかかると、翌周には1.2秒のリードを築いた。さらに104周目には自己ベストとなる1分21秒859を記録する走りで首位を守ると、最終109周目には5秒までギャップを広げ、今季初のトップチェッカーを受けた。

「僕がバトンタッチを受けたときには2番手でした。ニュータイヤでまだタイヤが温まっていないグリップしないなかでコースインしたら、ちょうど後ろから31号車と、777号車がきて『うわぁ、やばいなぁ』と思いました。向こうはタイヤも出来上がった状態でがっつりとアタックしているときなので、僕はアウトラップでタイヤが苦しい状況でしたけど『とにかく守ろう、抜かれないようにしよう』と思いましたね」と、上村は短いながらも大きなプレッシャーを感じながらの走行となった自身のスティントを振り返る。

「必死に守って、なんとかその場は2番手のポジションを守ることができました。その後、9号車のアクシデントで赤旗中断になり、残り9分くらいでトップからリスタートを迎えました。ああいう状況って前だけを見て自分のペースで走るしかないのですけど、2番手ですぐ後ろにいたのが777号車の近藤翼選手でした。近藤選手は今季のPCCJポルシェカレラカップジャパンでもめちゃくちゃライバルで、この前のレースでは近藤選手に負けてしまったということもあり『今度は絶対に行かさんぞ!!』って気持ちで走っていました」と上村は笑顔で語った。

 スーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankookも次戦はいよいよ5月21〜23日に開催される第3戦『NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース』となる。獲得できるポイントも多いことから今シーズンのタイトル争いを占う重要な一戦であり、そしてハンコックタイヤで迎える初めての24時間となる。今後の戦局を占うためにも、4月28日に富士スピードウェイで行われる『公式テスト2』から注目しておく必要がありそうだ。

ウエットのなか、予選では6番手に沈んだPC Okazaki 911 GT3R
リヤエンジンというのはなかなか動きが特殊と感触を語った中山雄一(PC Okazaki 911 GT3R)
決勝中、ドライバー交代を待つ上村優太(PC Okazaki 911 GT3R)
セーフティカー導入で16号車と777号車のバトルは仕切り直しとなる
決勝後、お互いを讃えあう上村優太(PC Okazaki 911 GT3R)と近藤翼(D’station Vantage GT3)

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