平尾昌晃&畑中葉子「カナダからの手紙」は元祖ソーシャルディスタンス・デュエット! 1978年 1月10日 平尾昌晃・畑中葉子のシングル「カナダからの手紙」がリリースされた日

__メロディが9割 Vol.3
カナダからの手紙 / 平尾昌晃・畑中葉子__

40年ぶりの “聖子ちゃんカット” に重なった伝説の歌姫・畑中葉子

先のエイプリルフールの4月1日、ひとつのニュースが “ヤフトピ” を飾った。

40年ぶり“聖子ちゃんカット”に――。

僕は「またまた~」と言いながら、その見出しをクリックした。その瞬間、1枚の写真が目に飛び込んできた。淡いピンクを背景に、椅子に座って微笑むワンピース姿の1人の女性、松田聖子サンだ。問題はその髪型である。なんと、往年の聖子ちゃんカットだ。驚いた。あれから40年も経つのに、まるでお変わりないのである。

記事を読むと、聖子サンは41回目のデビュー記念日(4月1日である)に、初のセルフカバーとなる「青い珊瑚礁~Blue Lagoon~」をリリース。そのミュージックビデオ内で、例の聖子ちゃんカットを披露したという。

その日、ツイッターのタイムラインには様々な感想が飛び交った。

「懐かしい~」 「これが聖子ちゃんカット?」 「私もしてたわ!」 「若い! いくつよ?」

―― そんな中、不意に僕はあるつぶやきに目が止まった。

「畑中葉子さんかと思ったわ」

―― その瞬間、思わず僕は膝を打った。「似てる! 確かにデビューしたばかりの畑中サンもこんな感じだったわ!」

そう、畑中葉子サン――。1978年1月に作曲家の平尾昌晃先生とのデュエットシングル「カナダからの手紙」で彗星のごとくデビューし、一躍トップアイドルに躍り出た伝説の歌姫。実は彼女と聖子サンの共通点は思いのほか多い。

畑中葉子と松田聖子の共通点とは?

まず、前述の聖子ちゃんカット。70年代後半にファラ・フォーセットのロングレイヤードが流行って、その亜流でミディアムにレイヤーを入れたスタイルがアイドルの間で広まり(キャンディーズのランちゃんもそうだった)、それが1980年にボブをベースとした「聖子ちゃんカット」にブラッシュアップされるんだけど―― 1978年にデビューした畑中葉子サンは、なんと2年も前に聖子ちゃんカットを先取りしていたのだ。

また、聖子サンの代名詞とも言える “キャンディボイス”。これもまた、元々は畑中葉子サンの歌声を評したワードという説がある。言われてみれば、その艶のある歌声と抜群の歌唱力は、まさに元祖キャンディボイスの称号こそ相応しい。加えて、聖子サンも葉子サンも、共に平尾昌晃音楽学校の出身である。

さらに―― 僕が先の40年ぶりの聖子ちゃんカットを見て、「畑中葉子サンに似てる」と思った決定的な証拠がある。“二重まぶた” だ。リアルタイムの聖子ちゃんカットの聖子サンは一重まぶたで、一方の葉子サンはデビュー時からくっきりとした二重だったのである。

そう、畑中葉子サン。少々前置きが長くなったが、今日、4月21日は、そんな彼女の誕生日。類稀なるメロディラインで大ヒットしたデビュー曲「カナダからの手紙」を検証しつつ、伝説の歌姫の波乱の軌跡も合わせて振り返りたいと思う。

平尾昌晃と畑中葉子のデュエット「カナダからの手紙」

 ラブ・レター・フロム・カナダ
 もしもあなたが 一緒に居たら
 どんなに楽しい 旅でしょう
 ラブ・レター・フロム・カナダ

「カナダからの手紙」―― 作詞・橋本淳、作曲・平尾昌晃。歌うは、作曲家の大家・平尾昌晃と弱冠18歳の新人歌手・畑中葉子である。同曲は1978年1月10日にリリースされると、瞬く間にヒットチャートを駆け上がり、2月27日付のオリコンランキングで1位に。翌週もその座を守った。ちなみに、3週連続1位を阻んだのが、キャンディーズのラストシングル「微笑がえし」である。

同曲をググると、一番にヒットするYouTubeの動画がある。フジテレビの『夜のヒットスタジオ』に2人が出演した時のものだ。ちなみに、その日は1978年1月16日―― なんとリリースから1週間も経たずして、テレビで披露したことになる。プロモーションとして最高のタイミングだ。その辺り、同番組の名物プロデューサー・疋田拓サンの目利きぶりにも驚く。

それにしても、畑中葉子サンはドキドキものだったろう。デビューしていきなり、テレビ界の最高峰の音楽番組に出演し(ちなみに、TBS『ザ・ベストテン』が始まるのが、この3日後)、しかも師と仰ぐ大先生と一緒に歌うのだ。これが緊張しないでおられようか。ところが―― 内心はともあれ、彼女の歌声は最初から完璧なものだった。

艶のある歌声に完璧な歌唱力、10年に1人の完璧な新人アイドル

 色づく街を
 歩いていると
 涙がほほに こぼれてきます
 あなたの声を想い出して
 カナダの夕陽 見つめています

もう、透き通るような艶のある歌声に完璧な歌唱力。顔も可愛い。ここまで完璧な新人アイドルは10年に1人、現れるかどうかのレベルだった。加えて、この回の『夜ヒット』の演出も面白い。まるで、43年後の今日の世界を予見したかのように、2人はデュエットなのに思いっきり前後に離れて歌うのだ。カナダと日本の遠距離恋愛を表したものだろうが、その距離、推定4メートル。元祖ソーシャルディスタンス・デュエットだ。

そう言えば、2人が初めて『ザ・ベストテン』に出演した時も、遠距離恋愛を生かした演出だった。時に1978年2月23日―― 第10位にランクインした同曲は、畑中さんが甲子園球場から、一方の平尾先生がTBSのGスタにいて、番組初の二元中継で “遠距離デュエット” を披露したのだ。

橋本淳のワードセンスと並ぶ、卓越した平尾昌晃のメロディライン

 息が止まるような
 くちづけを どうぞ私に
 投げてください
 ラブ・レター・フロム・カナダ
 あなたの居ないひとり旅です

同曲が70万枚もの大ヒットを記録したのは、ひとえに作詞家の大家・橋本淳先生のワードセンスにあると、よく言われる。確かに、1978年は成田空港が開港した年であり、海外旅行ブームが幕開けたタイミングでもある。あの時代、海外への女性のひとり旅は時代の少し先を行っていた。加えて、ヨーロッパでも西海岸でもなく、カナダというちょっとマニアックなチョイスも聴き手の想像力を掻き立てた。

でも―― 僕は、同曲の卓越したメロディラインこそ、ヒットした最大の要因だと思う。なんたって平尾昌晃先生だ。振り返れば、日本の音楽シーンが盛り上がるのは、日本歌謡大賞がテレビ中継されるようになった1971年からだが、同年から平尾先生の快進撃も始まる。

■ よこはま・たそがれ / 五木ひろし(1971年)
■ わたしの城下町 / 小柳ルミ子(1971年)
■ 瀬戸の花嫁 / 小柳ルミ子(1972年)
■ 草原の輝き / アグネス・チャン(1973年)
■ 夜空 / 五木ひろし(1973年)
■ うそ / 中条きよし(1974年)
■ 二人でお酒を / 梓みちよ(1974年)
■ グッド・バイ・マイ・ラブ / アン・ルイス(1974年)
■ 赤い絆 / 山口百恵(1977年)
■ カナダからの手紙 / 平尾昌晃・畑中葉子(1978年)
■ ぼくの先生はフィーバー 『熱中時代』主題歌(1978年)
■ 銀河鉄道999 テレビ版『銀河鉄道999』主題歌(1978年)
■ カリフォルニア・コネクション / 水谷豊(1979年)
■ Eighteen / 松田聖子(1980年)

―― と、これらは平尾作品のほんの一例。並べて分かるのは、演歌・歌謡曲・アイドルソング・テレビ主題歌などのジャンルを越えて連綿と横たわる、その卓越したメロディラインだ。

誰の耳にも馴染みやすい平尾昌晃メロディの原点、アメリカンポップス

平尾先生の原点は、自身がアイドルになった「ロカビリー三人男」に端を発するアメリカンポップスにある。それは、ポール・アンカを始め、ニール・セダカやコニー・フランシスらが活躍したメロディの時代の曲であり、平尾先生の体に終生宿ったレーゾンデートルに他ならない。一聴して、平尾メロディが誰の耳にも馴染みやすいのは、そういうことである。

実際、「カナダからの手紙」は極めて覚えやすい。Aメロからサビまで、終始メロディが立っている。デュエットソングとして、それはアドバンテージになる。ただ、逆に言えば、同曲はデュエットソングであるため、歌謡曲としてくくられがちだ。だが、僕は明確にポップスだと思う。昨今、再ブレイクしているシティポップというよりは、平尾先生の原点であるアメリカンポップスの流れにあるが――。

2番の冒頭2フレーズ目で発揮、畑中葉子キャンディボイスの真価

ここから先は、僕の妄想になる。
if もしも――「カナダからの手紙」がデュエットソングじゃなく、畑中葉子サンのソロ曲になっていたら、同曲はどんな軌跡を描いていただろう。平尾先生がデュエットの相手として、生徒たちの中から畑中サンを選ぶのではなく、最初から畑中サンを売り出すために書いたとしたら――。

まず、第一次カラオケブームの網を逃れ、いわゆるスナックソングを回避できたのは間違いないだろう。そうなると、セールス面は下がるかもしれないが、良質なポップスとして、別の意味でロングセラーになっていたかもしれない。畑中サンのキャンディボイスと歌唱力も、よりクローズアップされただろう。

そもそも歌詞を読むと、これは往復書簡ではなく、カナダでひとり旅をしている女性目線しか描かれていない。つまり、畑中サンが全編1人で歌っても、何ら違和感はないのである。そうなると、特に男性の聴き手は、自分を手紙の相手に重ねることもできる。

同曲で畑中サンの歌唱がひと際輝く部分がある。それは2番の冒頭だ。ここは1番と違い、畑中サンから歌い出す。そして2フレーズ目にキャンディボイスの真価が発揮される。「あなたの愛を」を、彼女は「♪ 愛うぉ~ん」と歌うが、当時18歳で、この表現はなかなかできない。世の男性たちは9割方、ここでノックアウトされる。

 ラブ・レター・フロム・カナダ  あなたの愛を たしかめたくて

時に、彼女が「後から前から」でソロとしてスマッシュヒットを放つ、2年7か月前の話である。

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