北朝鮮の金属大量密輸、摘発のきっかけは「お国訛り」

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脱北男性のチェ・クムナムさんが最近、韓国のケーブル放送「チャンネルA」に出演して語ったとこでは、彼は北朝鮮にいた時、同国では個人の所有や売買が禁じられた金(ゴールド)の密売を、国家保衛省(秘密警察)に勤務する兄と共に行なっていた。しかし2012年11月、密告により兄が逮捕されてしまったという。

金正恩総書記が直筆でサインを入れた「金を売買する者を根絶やしにして、金を回収せよ」との親筆指示により、兄は壮絶な拷問を受け、3ヶ月で獄死した。もはや北朝鮮で生きてけいないと悟ったクムナムさんは、家族を連れて脱北し、韓国にたどり着いた。

このようなリスクを犯してまで金の密売に手を出したのは、それだけ儲かるからだ。当時は金1キロが100ドルで取引され、月に15回ほどの取引で、最高6000ドルまで儲けていたと、チェさんは語った。(参考:2012年当時、1ドルは80円前後)

儲け話の少ない北朝鮮で、巨万の富が得られる金の密売に手を出して摘発される事例は後を絶たない。昨年7月と12月にも、国境警備隊や保衛指導員(秘密警察)が関与した大規模金塊密輸事件が摘発されている。

刑法附則第6条では「貴金属、有色金色密輸、密売行為の罪状が極めて重い場合には死刑および財産没収刑に処す」と定められているが、これは金だけに適用されるわけではない。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によれば、先月中旬に穏城(オンソン)に住んでいた夫婦が、保衛部(秘密警察)に逮捕された。

有名食堂の責任者を務める妻と、郡人民委員会(郡庁)の幹部を務める夫は、資産家として名の知られた夫婦だった。ところが、当局が、新型コロナウイルスの国内流入を防ぐとして国境を閉鎖したことで、生活苦に陥っていた。富裕層でも生活が苦しいのだから、一般庶民の困窮ぶりは推して知るべしだろう。

そこで夫婦は、ポストとコネを最大限に使って、大きな賭けに出た。金属製錬工場の多い咸鏡南道(ハムギョンナムド)から10トンもの金属をかき集め、工場の名義で登録された車両で、国境を通じて密輸したのだ。

ところが、夫婦の犯行は思いもよらぬところから発覚した。夫婦の家には連日、多くの人が車で乗り付けていたのだが、それを見ていた近隣住民が怪しいと感じた。それは「訛り」だ。

咸鏡北道の中でも、中国との国境に近い穏城などでは特殊な方言(六鎮方言)が使われるが、夫婦の家に出入りしていた人々の使う言葉は、咸鏡道全体で一般的に使われている方言だったのだ。コロナ対策で移動統制が行われているのに、他地方の訛りを使う人が大勢いるのはおかしいと見た近隣住民が、安全部(警察署)と保衛部に密告した。

このような「お国訛り」がきっかけで、摘発に至った事例は他にもある。

保衛部は当初、妻の犯行と見て妻だけを逮捕したが、これほど大規模な犯行を知らなかったはずはないとして、夫も逮捕した。

しかし、夫は本当に知らなかったようで、1ヶ月間の予審(捜査後の証拠固め)の後に、事件への関わりはなかったとして釈放された。しかし、党の防疫対策に誰よりも従うべき立場にあるのに、妻の行動を止められなかったとして、出党(朝鮮労働党からの除名)と解任の処分を受けた。

一方の妻だが、とてつもない量の金属を密輸した上に、党の防疫規則に違反したとして、釈放される見込みはなく、極めて厳しい処罰が下される見込みだ。