のこぎり演奏から自然との交響へ 新楽器「オッカサン」も製作 おちょやんの劇中音楽家

 放映中のNHK連続テレビ小説「おちょやん」の劇中音楽を作曲しているミュージカルソー(のこぎり)奏者、サキタハヂメ(49)。テレビドラマやCMの作曲、ライブ演奏にとどまらず、活躍の場を広げている。

 拠点とする大阪・河内長野では、緑あふれる地の山や森そのものと交響する音楽に挑戦している。(文中敬称略、音楽ジャーナリスト=原納暢子)

河内長野の大自然に、のこぎりの幻想的な音色が響き渡る

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 サキタは「おちょやん」の劇中音楽作りの過程をこう説明する。

 「監督から、泣き笑いをはっきり出した曲がほしいと言われました。音響デザインチームさんがヒロイン・千代の人生を深く掘り下げて、例えば、今はとても悲しいけど、きっと先でいいこともあると感じ取れるように、といったオーダーを出してくれたので、キャッチボールしながら作りました」

 もちろん台本も読んで想像した。「このタイトル、このシーンならバイオリンで切なくとか、ここはバルカンブラスのクセのある音かな、とか」

 その曲を弾いてほしい人の顔も、すぐに思い浮かんだという。そして、楽器の編成数の多い管弦楽などは東京で、大阪のニュアンスを出したい曲は大阪で録音した。

 「例えば、管楽器を大阪の演奏家が吹くと大阪弁の音になるんです。だから全部大阪でとるとコテコテになる(笑)」

 音楽演奏には、風土や文化がおのずと色濃くにじみ出るのだ。

 今年1月に発売されたオリジナル・サウンドトラックで、それを聴き比べることができる。テーマ曲「Life is Comedy!」は3バージョンが収録された。オーケストラ、ストリングス、コミカルなコンボアレンジのそれぞれが味わえる。

 では、サキタの奏でるミュージカルソーはというと、千代が亡き母の形見のビー玉を月にかざして、来し方行く末に思いをはせる「かぐや姫」、泥沼の中でも天に向かって花を咲かせる「はすの花」といった曲で、ヒロインの心情や人生の機微を美しく切ない音色でかきたてる。

 「笑うしかしゃーない」では、トロンボーンがブワッブワッと間抜けなため息をつき、のこぎりがビヨ~ンと情けない曲線を描き、「笑うしかない」あきれた事態が、理屈抜きで目に浮かぶ。

 サキタの作る音楽には鼻歌を歌うような気楽さがある。心がほっこりする。美しい旋律もお高くとまらず、誰もが味わう人生のほろ苦さや切なさをそっと慰め、ほろりとさせる。

 張り詰めた場面を「大阪人独特の会話のオチ」で和ませるようなユーモラスな表現は今や「サキタ節」と呼ばれる。弦や管の音が伸びたり曲がったり、膨らんだりしぼんだりする遊び心。呼応や対比が楽しいアレンジも魅力だ。

 しかも、自身の弾くのこぎりの音色は、美しく揺らぎながら聴衆を包み込み、ときに神々しい響きとなって広がる。心を浄化するかのようだ。

 数年前からサキタは、大阪・河内長野市を拠点にしている。くしくも「おちょやん」のモデル、浪花千栄子の出身地にほど近い。市の7割が山林という緑豊かな環境だ。

 本来、のこぎりは木を切ったり、枝を打ったりして自然を相手にする道具だから、山や木を鳴らそうと、地元の「奥河内の音プロジェクト~山を丸ごと鳴らす~」などで、既存の音楽の枠を超えた「音楽と自然が呼応する」表現にも取り組んでいる。

 地元の愛奏者も育て、イベントで協奏する。

 それに合わせて、地産の木材で新たな楽器も作った。三弦楽器の「オッカサン」はその一つだ。「奥河内三弦」の「お」と「か」と「三」を取って「オッカサン」。

オッカサン(奥河内三弦)。地産のスギとヒノキを交互にはり合わせた角材から作られたスリムなボディー。奥河内で出土した刀をモチーフにしたフォルムだそう

 「弓で弾くと馬頭琴のような独特の音が出ます」とサキタ。「おちょやん」の音楽でも活躍した。サントラ盤では、ろくでもないおやじを表現した「くずのエレジー」で聴ける。この曲ではオッカサンの弦を弾(はじ)いて、不気味なフレーズを繰り返している。

 ドラマはいよいよ終盤。サキタの曲作りは、やっと区切りがついた。

 「『おちょやん』の音楽は、収録の進行に合わせて3期に分けて、全部で150曲近く作りました」。1月に出したアルバムは、1期の約80曲から選んだ曲。4月28日に発売される2枚目のアルバムは、その後の曲から収録した。

 「千代の成長とともに音楽も変化しているので、聴き比べてもらえるとうれしいです」

「おちょやん」オリジナル・サウンドトラック2。千代の成長ぶりは、ジャケットからもうかがえる。4月28日発売予定(VPCD-86370、バップ)

 本当は、全曲をアルバムに収めたかった。だから「新型コロナの感染が収まったら、ライブで演奏したいと思っています」。

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