三宮逍遥 EKIZO HOPPING

2021年4月21日
株式会社ジオード フードコラムニスト 門上武司

Trend Report
三宮逍遥 EKIZO HOPPING

料理は時と場合によってコースを選択したり、また単品で味わうなど、その愉しみ方は様々です。コースで味わうことの素晴らしさは、料理人がこれは食べて欲しいというメッセージがそこには最大限に込められていることです。しかし、食べる側は、その日誰と食べるか、どのような目的で食べるのかによって胃袋の状態も気持ちも変わってきます。
自分の好きなものだけ食べるという気持ちを優先するという行動がより目立つようになったのは、バルの出現が大きな引き金になっていると思います。

元々はスペイン・バスク地方のバル巡りが世界に影響を与えました。ピンチョスやタパスを食べ、グラスを傾けながら仲間とワイワイ楽しむ。
数年前に、美食都市・サンセバスチャンで、現地に長年住む日本人女性に案内され、バル巡りを経験した時のことです。「この店から始めましょう」と連れていってくれたのは、陽気なスタッフの笑顔が印象的なバル。カウンターにはタラのグラタンなど魅力的なピンチョスがずらりと並んでいました。まずはチャコリと呼ばれるスペインの発泡酒をグラスに注いでもらうことから始まります。そこで20分ほど数品つまみながら、バル事情の話を聞いた後、そこから近くの次の店、次の店へと一軒あたりの滞在時間は長くても小1時間。一晩に数軒はしごするのがバル巡りの醍醐味と知りました。以来、このちょこっと飲食にすっかり魅せられてしまっています。そして、それはわが国で古くからある横丁文化にも共通して見られる魅力だと思いました。

神戸三宮に4月26日に開業する「EKIZO神戸三宮」は、まさにこの横丁文化の新たなスタイルだと思うのです。ここは店内だけでなくテラス席がふんだんに用意されているところも特徴の一つ。テラスがあるということは、横丁の表情が豊かになるということ。だからそこに集まる人たちは、楽しさや快適さを、街という空間と共に感じことができるのです。そんな横丁を何軒か訪ねてゆく。「EKIZO神戸三宮」は多くの人たちの溜まり場となり、そこから何かが生まれる予感がするのです。

KOBE YAKITORI STAND 野乃鳥

「安くて美味しい、楽しい」がモットーの「鳥、まるごと」の「野乃鳥」が新たに展開する「焼き鳥・鶏だしおでん」の店。オーナーの野網厚詞さんは、生産者と会話を重ねるところから料理が始まると考える人です。
巡り合ったのは「播州百日どり」や農業高校と連携し復活させた「ひょうご味どり」をメインの食材として扱います。食材は当然のことですが熱源は最高級品・紀州備長炭を使用、大切な調理については「雄と雌では調理も変え、温度管理にもっとも気を使います」と話すのです。そこにプロフェッショナルの誇りを感じざるを得ません。
焼き鳥一つひとつに合わせてスパイスを変えるなど、味の追求にも余念がありません。加えて鶏だしおでんは、鶏出汁をベースとします。またワイン、日本酒、フルーツサワーなどのドリンクもグラス290円からとし、カジュアルに楽しんでもらいたいという気持ちが満ち溢れています。昼には播州地卵を使った多彩な卵かけごはんも登場します。

酒場 酒ト魚ト汝ト私

オーナーの毛利良介さんは「うまけりゃいい」と自らの仕事についてこう話してくれました。魚をメインの人気店で働いた経験を生かし、独立を果たした大阪・福島の「割烹もう利」は食いしん坊が憧れる店です。今回は店名にも現れているように酒と魚を軸として、とにかく楽しめる店つくりをしたいという思いに満ち溢れています。
魚の醍醐味はまず造りから。神戸ならではの昼網で揚がる魚もうまく取り込んだ献立が用意されています。酒場なので、和の調理法を基本として「うまけりゃいい」精神で、イタリアンや中華のエッセンスを巧みに取り込んだ料理に期待は高まるばかりです。
「料理は煮る、焼く、揚げるが大事。それをもう一度きちんと考え、そこに何をプラスするか。また器によって印象は変わります」とも付け加えてくれました。魚も酒もカジュアルから王道まで、様々なプレゼンテーションが楽しみです。

スタンド JAPA SOBA HANAKO

グルテンフリー、国産そば粉の十割そば、と書くだけで気持ちが揺れるのです。なんとそれが機械押し出しというからなおさら。オーナーの後藤雄一さんが「そばは健康にいい食べ物。ヘルシーファストフードの最前線だと思うのです。これを世界に広げるのが最終目的です」と力強く語ってくれました。
そばの世界に新風を吹き込んだ東京麻布十番のSOBA STANDは一つのブームを作り、そのスタイルが神戸に上陸です。といってもスタートは三宮、つまり凱旋というわけ。おまけに灘五郷の酒とそばの相性を「そば前酒」というコンセプトで提案します。そこにヘルシーという視点が新たに加わることで、イメージはぐっと変わります。そばとともに食べる天麩羅までグルテンフリー。サラダ仕立ての「ソバボウル」は確実に世界に拡散したいメニューです。

ここで紹介した3軒の共通点は、自分たちの店が流行ること以上に、三宮界隈の盛り上がりを願っていることなのです。そんなエネルギーが詰まった「EKIZO神戸三宮」に期待が高まります。

門上武司(フードコラムニスト)
大阪外国語大学露西亜語学科中退。料理雑誌『あまから手帖』の編集顧問を務めるかたわら、食関係の執筆、編集業務を中心に、プロデューサーとして活動

株式会社ジオード
関西を中心に、料理人を始めとして、食にかかわる多種多様なプロジェクトを行う。企画力とネットワークを駆使し、地方公共団体、飲食店、企業など、多岐にわたるクライアントと共に仕事を進める。