THE SQUAREの名曲「TRUTH」を深掘りし、アルバム『TRUTH』からバンドの特徴を見る

『TRUTH』('87)/THE SQUARE

4月21日、T-SQUAREの通算48枚目(!)となるアルバム『FLY! FLY! FLY!』がリリースされた。長年リーダーを務めてきた安藤正容(Gu)が本作でバンドを引退。つまり、氏にとってこのアルバムはT-SQUAREでの最後の作品ということになる。ファンにとっては残念なニュースかもしれないが、今回の引退は後進に道を譲るという意味合いもあるとのことで、未来志向で考えれば、決して悲しいだけのニュースではないとは思う。新生T-SQUAREを見据える上でも『FLY! FLY! FLY!』は重要作と言えるかもしれない。当コラムでは、そんなT-SQUAREの代表作と言える『TRUTH』を紹介する。

今も多用される名曲「TRUTH」

Wikipediaの『TRUTH』に、[表題曲「TRUTH」は老若男女問わずT-SQUAREの代表曲として広く親しまれており、メディアにおいては、F1はともかく、何らかの疾走感を感じさせるシーンでのBGMとして使用されることが多い]とあるが、まさしくその通りで、TVのバラエティー番組で何かスピードを競うような場面になるとそのバックでは今も「TRUTH」が流れることが多い気がする([]はWikipediaからの引用)。アルバム『TRUTH』のリリースが1987年4月で(「TRUTH」がフジテレビ『F1グランプリ』のテーマ曲になったのも同年)、シングルカットされた1991年10月から数えてもおおよそ30年経っているというのに、F1に留まらず、速さのBGMと言えば「TRUTH」が定番となっていることは、誰も追いつけないT-SQUAREの偉業なのではないかと思う。他に似たような例があるかと考えてみたが、芸人に限らず動物などが暴れている時に、プロレスラー、スタン・ハンセンが入場テーマ曲として使用したスペクトラムの「SUNRISE」が流れることもあったように思うけれども、最近は以前ほど使われなくなった気がする。映画『仁義なき戦い』のテーマ曲も同様。似たようなシチュエーションでは、最近は「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」が使われることも多いようだが、それもそれほど頻繁ではない感じ。布袋と言えば、猥雑な場面のBGMに「スリル」が使われることもあるようだが、あれはほぼ江頭2:50専用。ついでに言えば、マッチョマンを紹介する時によく流れるBon Joviの「It's My Life」も元ネタは、なかやまきんに君だ。芸人がテーマ曲として使用したことでそこから派生するケースはあるにはあるが、“こういう場面ではほぼ必ずこの楽曲が登場する”というBGMは稀であるように思う。

疾走感、スピードに関連したもの以外で…と考えても、言わば定番のBGMはそれほどない気はする。ブライダルに合うナンバーは山のようにあるし、出会いや別れといったシチュエーションにもこれといった定番曲があるわけでもない。そう考えると「TRUTH」がF1はおろか、疾走感やスピードに関連付けられるのは、やはり偉業と言っていいのだろう。今回、調べるまで筆者はその事実を知らなかったのだが、「TRUTH」は[パチンコ店のBGMとして『軍艦マーチ』に取って代わ]ったそうだし、これも知らなかったが、フジテレビ『F1グランプリ』では歴代いくつかの楽曲が「TRUTH」に替わってテーマ曲となったものの、その後は何度かバージョン違いの「TRUTH」が起用され、結局(というのもアレだが)オリジナルに戻ったという経緯があるそうだ([]はWikipediaからの引用)。F1に関しては他に代え難い楽曲であるし、スピードを競うものに被せるにはこの上ないナンバーになっていることもよく分かるエピソードである。

「TRUTH」の巧みさを分析する

それもそのはず…と言うのが適切かどうか分からないが、とにかくこの「TRUTH」はポップミュージックとしてものすごく良くできたナンバーである。そう断言して間違いない。インスト曲を解説するのはなかなか至難の業だが、以下、頑張ってこの楽曲がどう優秀か分析してみたい。

まずイントロ。歌もないのにイントロというのは何か変な気もするけど、“序奏”という意味ではそれでいいはず。キレのいいリズムに乗せられ、抑揚はさほど激しくないものの確実に上へ昇っていくエレピの旋律が鳴り、ギターがそれを追いかける…と認識したのも束の間、パンチの効いたユニゾンの2連が4連発。いきなり目を覚まされるような迫力がある。ここのエレキギターはわりとディストーションが深めで、さながらレースカーのエキゾーストノートのようでもある。そのパートが3回リフレイン(“そのパート”もメロディーが微妙に違うので、厳密に言えば同じパートのリフレインではないのですが、そこは汲み取ってくださるようにお願いします)。否応にも何かが始まる期待感が高まる序章だ。しかもここまで30秒。どこまで意識したのか分からないけれど、TVサイズにもしっかりと合っている。

31秒から主旋律はリリコン≒ウインドシンセサイザーへと移る。電子楽器とはいえ、奏法は管楽器とほぼ同じなので、シンセ特有のデジタル感はありつつも、平板さはまったくと言っていいほどに感じられない。流れるようなメロディラインは爽快さを感じさせ、アナログっぽさの薄い音色は、全体のドンシャリ感も相俟って、未来をイメージさせるような清々しさがあるように思う。56秒からは所謂Bメロになるだろうか。主メロでは長めの音符が目立つので、やや落ち着いた雰囲気にはなるけれども、スネアが相変わらずグイグイと(…というかキンキンとかパンパンと言った感じで)リズムを引っ張って進むので、緊張感は持続したままだ。それが1分5秒頃から、本格的にスリリングに展開していく。ここではイントロで見せた2連に近い展開があり、リスナーは自然とこのあとで何かが始まる予感を得るのだと思う。イントロでの演出が伏線回収とでも言うべき形で活きていると言える。

1分14秒からサビだが、そこにつながる1小節に満たない箇所で聴かせるドラムのフィル、鍵盤のグリッサンドも素晴らしい。次に起こる何かを想起させ、短いながらも実にドラマチックに機能している。で、サビで転調してメロディーが昇っていく。決して音符が詰まっているわけでも数が多いわけでもなく、もちろんテンポが変わっているわけでもないのだが、Bメロが活きているのか、メロディーがコンパクトにまとまって疾走感を醸し出している感じ。F1中継のテーマ曲であることを知った今となっては、レースカーがデッドヒートしているようにしかイメージできない。スピード感はベースラインの刻み方が大きく関係していると思われる。ここまでで大体1分39秒。尺も見事だ。いわゆるJ-POP的な展開の妙味があると言ってしまえば簡単だが、それだけではなく、各パートが自身の持ち場をわきまえた上でしっかりと楽曲に寄り添うことで、不可逆に進む楽曲をカラフルに、ふくよかに、また、緩急を感じさせるように仕上げている。ものすごく巧みな作りであることは疑うまでもない。

サビを終えると一旦イントロに戻るが、聴きどころはまだまだ続く。というか、本格的な聴きどころは、1サビが終わってからと言ってもいいかもしれない。1分58秒頃からはギターソロが始まる。これがまた超絶テクニカル。音符を細かくギターならではの奏法で鳴らしていく。HR/HMほどの見せつけ感はないが、それでも十分すぎるほどにギターの存在感を示している。そのギターソロが25秒ほど続いたあと、シームレスにキーボード(シンセ)ソロにバトンタッチ。ピロピロとした速弾きで、油断している時なら“ギターのライトハンド?”と思うような音色だ。これもまた圧巻のプレイを魅せたあと、タイムラグなく再びウインドシンセサイザーへ戻り、Bメロ→サビとつながっていく。伊東たけし(Sax)だけでなく、安藤まさひろ(Gu、現:安藤正容)、和泉宏隆(Key)というメロディパートの3名の演奏がちゃんと入っているのが面白くもあり(ご丁寧なことに、ギターソロ、キーボードソロはほぼ同タイム!)、このバンドのスタンスを表してもいるようだ。キャッチーなメロディーラインを、疾走感を際立たせるバンドアレンジで支えることによって、聴く人に高揚感をもたらす「TRUTH」。楽曲そのものの優秀さもさることながら、それを再現出来るメンバーであったからこそ、時代を超えても輝きを失わない名曲中の名曲となったのだと言える。

「TRUTH」の要素はアルバムにも

「TRUTH」がタイトルチューンなだけあって、アルバム『TRUTH』の他の収録曲にも、「TRUTH」に注入されたエッセンスを見出すことが出来る。何と言っても特徴的なのは、どの楽曲にもJ-POP的な展開の妙味があるということ。どれもこれもメロディアスで、中心となるサビメロがちゃんとある上で、そこまで持っていく流れがしっかりある。本来であればここで、例えば…と具体例を挙げるところだが、どれもこれもそうなのだからサンプルを示す必要もなかろう。ラジオ番組『歌のない歌謡曲』で流れるような…というと語弊があるかもしれないが、歌詞のあるポップスやロックのヴォーカルパートを、ウインドシンセやギター、キーボードに置き換えたかのような分かりやすさがある。歌詞がなくとも♪チャララ〜と口ずさんでしまう親しみやすさと言い換えてもいいかもしれない。T-SQUAREをまったく知らない人に、M2「CELEBRATION」でもM3「BEAT IN BEAT」でも聴かせて、「これ、もともと歌詞があったんだよ」と嘘を教えたら結構信じる人がいるのではないか。マジでそう思うほどにポップだ。

アレンジ面においても、「TRUTH」で見せた編曲の妙が随所で見られる。ウインドシンセ、ギター、キーボードのメロディパートが、楽曲によって主メロの割合が高いパートもあるけれど、いずれかが完全に主役というわけではなく、言わば3トップ体制であること。これもアルバム『TRUTH』の特徴であり、(少なくともこの時期の)T-SQUAREというバンドの特徴と言えるのではなかろうか。これまた、どの楽曲でも見受けられる特徴なのだが、M4「UNEXPECTED LOVER」で示すのが分かりやすいだろうか。イントロではサックスが鳴き、Aメロの主旋律はギター。そこから再びサックス→鍵盤→ギター→サックス…とつながっていく。後半(アウトロ?)ではサックスが厚めで、そのテンションも熱めに感じられるのだが、ギター、鍵盤(エレピ)もとてもいい演奏を聴かせてくれる。「TRUTH」などに比べれば比較的落ち着いた印象のナンバーではあるので、サックスのみで主旋律を奏でていっても良さそうなものだが、そうしてないのは、やはりこのバンドならではのこだわりであろう。ひとつ思うのは、ヴォーカルがいるバンドであれば、歌詞を変化させていくことで、楽曲が進行していく中で世界観を変えていくこともできるけれども、インストではそうもいかない。楽曲そのものを単調に聴かせないために、「TRUTH」がそうであったように、そこにストーリー性を与えるべく、3トップを駆使して楽曲をバラエティー豊かに仕上げているのではないか。そんな気がしないでもない。

あと、本作の特徴として感じられるのはAORの香り。前述のM4「UNEXPECTED LOVER」もそうだし、M6「BREEZE AND YOU」やM9「TWILIGHT IN UPPER WEST」もそうだろうか。アダルトというか、アーバンな雰囲気を漂わす。この辺は1980年代らしいところでもある。イギリスのバンド、ShakatakやSadeといった“スムースジャズ”の影響も少なからずあったのだろうか。また、M3「BEAT IN BEAT」で民族音楽的なリズムを取り入れていることからは、わりと実験的な姿勢があったことも分かる。[初めて全面導入したデジタル機材による実験作であった前作のノウハウを活用し、本作では1990年代に繋がる新たなスタイルを確立することに成功した]との寸評もある([]はWikipediaからの引用)。『TRUTH』は全体的な聴き応えがポップであるから大衆的なアルバムと言って差し支えないとは思うが、だからと言って、決して大衆に阿った作品ではなく、バンドとしての探求心が発揮されたアルバムでもあったようだ。

TEXT:帆苅智之

アルバム『TRUTH』

1987年発表作品

<収録曲>
1.GRAND PRIX
2.CELEBRATION
3.BEAT IN BEAT
4.UNEXPECTED LOVER
5.TRUTH
6.BREEZE AND YOU
7.GIANT SIDE STEPS
8.BECAUSE
9.TWILIGHT IN UPPER WEST

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