「南北統一」を果たした鉄路

 【汐留鉄道倶楽部】「南北統一」。そう聞くと海の向こうの話にも聞こえるが、日本の鉄道業界では悲願の南北統一を果たし、利便性が大幅に改善された場所がある。富山市だ。

 同市はかつて、富山駅を境に、県庁や繁華街がある南側エリアには富山地方鉄道(地鉄)の路面電車網が広がり、北側エリアにはLRTの富山ライトレール線が日本海沿いまで伸びていた。JR富山駅が地上駅だったことから、南北の両路線はJRを挟んで「分断」。乗り換えるには、必ず富山駅前で降り、JRを越えて反対側の乗り場まで行く必要があった。

最古参の7000型

 そんな中、2015年の北陸新幹線開業に向け、富山駅の高架化事業が進むことに。それを見越し、高架の下で南北両線の線路を接続し、直通運転する案が浮上。新幹線開業から5年遅れること2020年3月、悲願の「南北統一」を果たした。

富山駅を境に左右両側の区間が直通となった

 統一に伴い北側線は、南側の地鉄に吸収合併された。そもそもライトレール線は、旧JR富山港線を一部ルート変更した上で2006年に引き継いだもの。また戦前に国有化されるまでは地鉄の路線だった時代があり、南側は半世紀以上の時を経て地鉄に「カムバック」することになった。

地鉄富山駅のホーム

 南北の接続部となる富山駅は、新幹線・在来線と地鉄線が高架の上下で垂直に交わるような構造。新幹線の改札口を出てすぐ、駅コンコース内を貫くように線路と地鉄ホームが設置されている。したがって、駅ナカ施設の行き来で線路をまたぐ人のために、電車が通る際には警報音が鳴る踏切のようなものも存在。他の駅ではあまり見られない独特の景色だ。

富山駅へ入線する列車、上は新幹線ホーム

 だがこの南北統一、単に鉄道が便利になるという点にとどまらず、富山市のまちづくり政策とも関わっている。人口減少と少子高齢化という社会の変化に対応すべく、市はいわゆる「コンパクトシティ構想」を提唱。その施策のひとつで市内の公共交通網を充実させ、沿線への定住人口増や都市機能の集積をはかることを掲げている。

 その目玉のひとつが、100年以上前に富山駅ができて以降「駅裏」と呼ばれ開発が停滞した北側からのアクセス改善、つまり南北の直通運転だったのだ。昨年の開業時は「100年越しの夢が実現した」とも語られたという。富山のケースは、人口減少社会に合わせて鉄道網が変わっていく一例なのかもしれない。

 ☆加志村拓(かしむら・ひろし)…1992年生まれ。共同通信社記者。

 ※汐留鉄道倶楽部は、鉄道好きの共同通信社の記者、カメラマンが書いたコラム、エッセーです。

© 一般社団法人共同通信社