Vol.11 撮影監督、西村博光氏インタビュー~映画作りのためのカメラがそこにある[ARRI my love]

txt:石川幸宏 構成:編集部

ARRI祭には、普段からARRIカメラを使用している映画撮影カメラマンも多数来場した。一線で活躍する映画撮影カメラマンの中で、元機材レンタル店の社員から、いきなり黒澤明監督の現場を経験して、映画カメラマンになったという西村博光氏。これまでの経歴や最近作のエピソード、普段からのARRIカメラの感触などを語って頂いた。

西村博光:撮影監督

「おっぱいバレー」(2009年 羽住英一郎監督)で映画カメラマンとして本格デビュー。その後「闇金ウシジマくんシリーズ(1~3、ファイナル)」(山口雅俊監督)、「百円の恋」「嘘八百」「銃」「嘘八百 京町ロワイヤル」「銃 2020」「ホテルローヤル」など、武 正晴監督作品に数多く参加し、最新作「劇場版 アンダードッグ(前後編)」(2020年)では、第75回毎日映画コンクール撮影賞を受賞。

黒澤明監督「まあだだよ」で現場デビュー

ARRIFLEX 535 image via ARRI©

西村氏:

僕は今村昌平さんの日本映画学校出身なのですが、その前に大学などに通っており、カメラマンになるまで少し遠回りをしてしまいました。

その後色々あり、ある日撮影の佐々木原保志さん(「その男、凶暴につき」など)に呼び出されたので、助手にしてもらえるのかな?と思い、待ち合わせ場所の機材レンタル店に行ってみたら、いきなり「お前今日からここで働け」と言われ(笑)、約1年間そこで働きました。

当時ちょうど、ARRIから、ARRIFLEXの535

という新しいカメラが入ってきた時期だったのですが、これには日本語の取扱説明書なども何もなかったので、僕が翻訳して、なんちゃっての日本語マニュアルを作ったりもしました。

1年後くらいにその店のある方の紹介で、なんと黒澤明監督最後の作品「まあだだよ」の現場に入れてもらうことができました。僕はそれが初めての現場デビューでした。通常であれば、まずキャメラマンが助手を呼んで、その助手からその下が呼ばれるかたちで現場に入りますが、僕は全く違う形で現場デビューとなりました。

周りは本当にプロフェッショナルばかりでしたが、今考えれば黒澤監督最後の作品となり、とてもラッキーでありがたかったです。またそれまで黒澤監督はずっとパナビジョンのカメラを使っていらっしゃったのですが、「まあだだよ」で初めてARRIのカメラ、535を使われました。

そのこともあって僕が呼ばれたのですが、僕を入れて8人の助手がいましたが、皆さん優秀でしたので、あっという間に使い方も覚えてしまって僕の出番はあまりなかったですね(笑)。

※1 ARRIFLEX 535 =ALEFLEX 35BLラインの置き換え機種として、1990年に登場したARRIの小型フィルムカメラ。ARRICAMシステムが導入される前までは、最も人気の高い35mmシンクサウンドムービーカメラとして、劇場用映画を始めミュージックビデオやCMなど幅広い用途で使用された

カメラマンデビューと武正晴監督

撮影監督の藤石修さん(「踊る大捜査線シリーズ」など)に一時期助手でついていたことがあり、それまでの大先輩のキャメラマン方と違って、話しやすい兄貴分のような存在だったので、僕もカメラマンデビューしたいことを相談しました。

そうしたら何本かの作品のBカメを任され、その後2008年の羽住英一郎監督「おっぱいバレー」で、劇場公開作品としてカメラマンデビューすることができました。フィルムカメラを使っていたのはこの「おっぱいバレー」までで、あとはずっとデジタル撮影でしたね。

ちょうど同じ頃、武 正晴監督の短編作品も同時に何本か撮っていて、正式なカメラマンデビューはどちらが先か覚えがないのですが、そこから武監督とはずっとご一緒させてもらってます。残念ながら「全裸監督」(Netflix)には参加できませんでしたが、役者にとってはやりがいのある監督かもしれませんね。スタッフにとっては厳しい監督ですが良い緊張感を与えてくれます(笑)。

武監督作品では、昨年公開の「ホテルローヤル」では、北海道の釧路湿原が舞台でした。その風景がキレイに撮れればいいな、というのがあの作品における僕の中でのテーマでした。それもあって僕自身初めてのシネスコサイズで撮影しています。シネスコといっても上下を切ったレターボックス仕様のものなど色々ありますが、この作品ではKOWAの古いアナモフィックレンズ、35-BEを使用して4:3のスクイーズで撮影しています。カメラはALEXA Miniを使いました。35-BEはクランクイン前に、ハレーションの出方をチェックさせて頂いてこれに決めました。

KOWAのレンズは、最近のクリアなレンズと違って、ちょっとクセがあるんです。カラリストは、東映ラボ・テックの佐竹宗一さんで、ここ最近作は彼にお願いしています。「ホテルローヤル」では、ほんとに短いシーンなのですが、友近さんが主人公のおばあちゃんを演じているシーンがあり、あのシーンではパッと見た瞬間に過去の昔の話だ、というイメージを出せないかと相談しました。

最近流行りの、モノクロ写真に着色しているような質感を出せないかと思い、色々とイメージを探っていました。そして一度ALEXA Miniで撮影した素材を一度モノクロにして、そこに着色したような質感を出すという手法を提案したところ、それを上手く実現して頂きました。

映画人とARRI製品

デジタルになってからは、一時期REDも使うことがありましたが、作品のバジェットにもよりますが、大体の作品ではARRI ALEXAを使うことが多いです。特にここ最近では、ALEXA Miniがほとんどかな。

最新作で賞も頂いた「アンダードッグ」も、もちろんALEXA Miniで撮っています。ALEXA LF/LF Miniはなかなか予算が合わないので使う機会がまだありません。またシグネチャーレンズもラインナップが揃っていなかったのもありますが、ようやく今回のイベントで実機を見られたシグネチャーズームレンズも揃ってきたので、これからぜひ使ってみたいと思いました。

ARRIのカメラや周辺製品が他メーカーと違うのは、やはりフィルム時代からカメラを作ってきた会社なので、ムービーカメラマンが使いやすいと思うポイントをよく知っているカメラ設計になっているのがいいですよね。例えばフィルムのカメラは、ファインダーで撮影するのが常で、ファインダーから目を離してしまうとフィルムに光が入ってしまうので、撮影中はずっとファインダーから目が離せないのが僕らもクセになっています。

それがデジタルのALEXAになっても、EVFに受け継がれており、やはりARRIのファインダーで覗きやすいんですよね。モニターだけで撮影するのは僕はどうも苦手ですね。

日本メーカーのシネマカメラもいいカメラだとは思いますが、やはりファインダーが弱いんですよね。レンズもARRIのシグネチャープライムなどは作り自体が映画用のレンズという感じで、触った時の手のフィット感や操作感が何か違います。

日本製のレンズの多くは、ルックについてはシャープネスとか少し硬すぎるかな?と思ったりすることもあり、操作感もどこか放送業界の流れから生まれて来た感じがあって、映画の現場では違和感、というかどこか使いにくさを感じます。もちろん(描画が)嫌いとかではなく、作品にもよるので、撮る作品にあっていれば良いレンズは沢山あります。

「ARRI祭」会場の様子

今回のARRI祭のようなイベントは、新しい製品が実際に触れるという機会としてはカメラマンにとっては良いイベントでしたね。これまでもこうした機材の展示会イベントはありましたが、どこかビジネス向けというか、実際のユーザーであるカメラマン向けになっていないので、今回のARRI祭のような、カメラマンにダイレクトに訴えてくるような内容のイベントは本当にありがたいです。

txt:石川幸宏 構成:編集部


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