雪でそばが旨くなる?豪雪地帯の不思議な話 土曜旅館 北海道そば巡り合い旅②

全国3位のそばの生産地の旭川市。その北西部にある江丹別地区は、冬は氷点下30度以下に冷え込む一方、夏は30度を超える日もあり、年間気温差が70度近くなるという土地です。春から夏にかけて昼夜の寒暖差も大きく、良質なそばの産地としても知られています。

そして今年の冬もそうでしたが、大雪に見舞われる豪雪地帯でもあり、取材に訪れた3月末でも山や畑は雪に覆われ、あちらこちらに雪山が。そんな雪を美味しいそば作りに生かせないかと考え出されたのが「自然雪蔵熟成そば」です。

自然雪蔵熟成そば

考案者は谷口博志(たにぐち ひろし)さん。乾麺などを製造するメーカーで長年、麺職人として商品開発を手掛けた経験を持ち、地元産のそばを使った乾麺を商品化したこともあります。

考案者の谷口博志さん

ルチンなど健康に良い成分が注目されるそばですが、「そばが特に注目を集めるのは年間に2回しかない。ひとつは新そばが出回る秋。もうひとつは年越しそばの時期。12月末から秋までの間に注目される機会を作りたかった」と谷口さんは話します。初夏は、収穫から半年が過ぎ、そばの香りが少なくなり、そば好きにとっては新そばの季節を待ち焦がれる時期。そんな時期に新そばの風味豊かな江丹別産のそばを提供できれば、そば好きにも産地にとっても良いことばかりと雪の利用を思い立ったのです。

そばの実

雪を使って一定の温度と湿度で貯蔵することで、新そばの風味を長持ちさせながら、そばの味自体は熟成させることで甘みが増し、いいとこどりのそばができるといいます。江丹別のそばは土質からわずかに苦みがあるといいますが、貯蔵によって苦みが消えるから不思議。

「雪蔵」のそばの実をしまうのは12月。
雪を入れた箱をコンテナの中に置き、その上にそばの実を載せます。最後にそばの実が詰まったコンテナの周りに大量の雪を積み上げます。

蔵に入れたそばの実の袋
重機を使って蔵を雪で覆う

コンテナ内の温度は0度前後、湿度は80%の中でそばの実を「仮眠」させ、ひと冬を越します。氷点下30度以下に冷え込む江丹別では、寒さから守るという「意外な」効果もあるんです。

そばの実を取り出すのは、江丹別に遅い春が訪れる5月の下旬。取り出したそばの実は、地元の「江丹別蕎麦製造」で製粉し、「自然雪蔵熟成そば」として出荷します。そば粉は、関東の有名店が太鼓判を押すという香りと味。90%は関東に出荷され、店頭では6月上旬から味わえます。そば店の前に「自然雪蔵熟成そば」の幟を見かけたら、店内に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか?

(2021年4月24日放送 テレビ北海道「北海道そば巡り合い旅」でご協力いただきました)

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