海洋プラ問題の解決策、社会実装目指し高校生が提案

応募数約300人の中から選抜された約100人の高校生が9チームにわかれ、専門家のアドバイスを受けながら海洋プラスチック問題の解決策を社会に提案する「海洋プラ問題を解決するのは君だ!」プログラム。さらに選考を潜り抜けた3チームによる成果発表が、サステナブル・ブランド国際会議2021横浜で行われた。選考では提案の実現性も重要視されている。単なるアイデアにとどまらず、企業や専門家と連携し、自発的なプロジェクトとして動き出した提案も。文系や理系の枠に縛られず、プロダクト、社会システムの構築から、社会の風潮の醸成、啓発まで――。高校生の自由で幅広い発想と行動は、企業や大人たちにとっても刺激的だ。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

関連記事=
高校生による海洋プラ問題解決策の提案目指すプログラムが始動(実行委員長・楜沢さんインタビュー)
高校生による海洋プラ問題解決プログラム運営を終えて「次は何をしよう?」(実行委員長・大森さん寄稿)

昨年8月に始まったこのプログラムは、参加者だけでなく発案、企画、運営を行った実行委員会も高校生。実行委員長の楜澤 哲さん(駒場東邦高等学校3年=学年は当時、以下同)は、デモに参加したり、模擬国連で政策を考えるといった従来の「高校生の環境に対する社会貢献活動」を「どこか一歩足りない」と感じていたという。自身も模擬国連に長く参加していたが「社会に実際にインパクトを残していないのではないか」という思いが拭えず、実効性のある活動として生分解性プラスチックの研究を始めた。そこで気付いたのは、「社会に研究の成果を実装するためには経済や法の観点が必要だ」ということだ。それはまさに模擬国連で話し合っていたことだった。この気付きを経て、文理の垣根を越えて解決策を構築し、社会に高校生のアイデアを羽ばたかせることを目的としたプログラムを企画し、実行した。

同じく実行委員長を務めた大森 智加さん(渋谷教育学園渋谷高等学校1年)は、プログラムのコンセプトを「新結合」「高校生でもできること」「高校生だからこそできること」の3つだと説明。参加者は7カ月間の期間中に取り組む課題を明確化し、具体的解決策を提案する。プログラム中では研究に必要な知識を得るためのワークショップなども企画、運営した。コロナ禍のためにオンラインで実施した「遠足」では、企業の担当者や工場、徳島県やハワイのビーチクリーン活動の現場、運営者と直接意見を交わした。参加者たちは時間をかけてアイデアを練り、9チームそれぞれが個性的、かつ実効性を考慮した海洋プラ問題の解決策を見出した。その中で、サステナブル・ブランド国際会議2021横浜での発表を行ったのは、メンターを務めた専門家や企業人の選考によって選抜された3チームだ。

掃除ロボットで河川のプラごみ除去、海への流出止める

人類が1年間に海に流すプラスチックごみの量は約800万トン、その多くは河川、とりわけ東南アジアの河川からの流出が大部分を占める――。最初に発表したチームの提案はプラごみが海に流出する前に、ユニークな掃除ロボットを稼働して河川でごみを回収する解決策だ。期間中に50回以上、190時間以上ものミーティングを行ったという11人から、代表として柳原 琢馬さん(狭山ヶ丘高等学校 3年)と清水 壮真さん(国際基督教大学高等学校 3年)が発表を行った。

アイデアの核は、全長3.5メートル、高さ1メートルの掃除ロボット「スイシャケ号」。このロボットは河川でのごみ回収、京都の舟屋にヒントを得たステーションへの帰還、ごみ排出を全自動で行う。「産卵を終えて川に帰るサケ」のような挙動と、ごみの回収を水車形状の機構で行うことから名付けた。動力は電気で、充電式。

米メリーゴーランド州の「Mr. Trash Wheel」やNPOオーシャン・クリーンアップの「The Interceptor」など、既存の清掃船も参考にした。スイシャケ号はそれらに比べ、自動走行による清掃範囲のほぼ無制限化や、回収したごみの船体からの排出までを無人化しているなど、独自のメリットを持つという。さらに、排出したごみはステーションからリサイクル工場に運搬し、洗浄、選別の後リサイクル可能なものは企業に卸す構想も。柳原さんは「回収だけでなく処理までの一連の流れがカギになると考えた。東南アジアの河川で稼働し、すべてを現地で行えれば」と話す。

スイシャケ号は実際に製造に前向きな企業もすでにあるが、柳原さんと清水さんは「技術的な支援も求めている。海外でも展開してみたい」と広く連携を呼びかけた。このチームはマクロな視点としてスイシャケ号による河川での海洋プラ除去を提案したほか、ミクロな視点の活動として絵本による啓発も行っている。

コインランドリーに新たなシステムを

日常生活と、その中にある企業活動に着目して新たなシステムを提案したチームも。代表として登壇したのは山岸 あやのさん(桐蔭学園高等学校 1年)と阿部 慶汰さん(玉川学園国際バカロレアコース 2年)。取り組んだ提案は「コインランドリーにおけるマイクロファイバーの削減」だ。

海洋汚染の要因のひとつに洗濯排水があると言われる。現在多くの服に使用されている化学繊維は丈夫で低コストな一方、乾燥と摩擦に弱く、洗濯時にマイクロファイバーが流れ出してしまう。

このチームがこだわったのは「実現性が高いこと」と「即効性があること」。当初は洗濯機自体の改良策を模索したが、普及などの課題をクリアすることができなかった。そこで着目したのがコインランドリーだ。コインランドリーの店舗数は年々増加傾向にあり、デザイン性が高くカフェやパン屋を併設した店舗が登場するなど、静かなブームとも言える。

具体的には、共用で既存のマイクロファイバー削減グッズを設置し、ポイントシステムを導入し、企業と利用者の利害を一致させるという。グッズは国内ではパタゴニアが販売する「グッピーフレンド・ウォッシング・バッグ」や、米NPOロザリア・プロジェクトが開発した「コーラボール」など。利用者はこれらを利用すれば貯まるポイントによって、店舗内でのグッズやコーヒーなどの割引販売を受けられる。

チームでは実際にコインランドリーブームの火付け役とも言えるOKULAB(東京・渋谷)とコンタクトを取り、プロジェクトについて説明。フィードバックを受けながらブラッシュアップした。コインランドリーオーナーへの具体的なメリットが不明といった手厳しい意見もあったが、「グッズの製造・販売元に対して、現地販売を含める製品デモンストレーションとして提案すれば、店舗オーナー側のコストゼロになるのではないか」といった前向きな解決策を導き出し、実験的に導入が可能か検討段階にあるという。

「企業と個人は密でいい」課題解決の風潮つくる取り組みとは

コロナ禍にあっても「企業と個人は密でいい!」と元気に訴求したチームは、海洋プラ問題の根本的な原因を「人々の意識にある」として社会の風潮を変えるためのアプローチを提案した。代表で発表したのは櫻井 ひろ花さん(東京学芸大学附属国際中等教育学校 2年)と半田 かのんさん(鴎友学園女子高等学校 2年)。

「商品の購入時に、環境面と価格面のどちらを重要視するか」。チームで独自に行った275人に対するアンケートで、75.7%の回答者が「価格面」と答えた。一方で、既存の調査によれば、経営方針などに環境への配慮や取り組み、目標を盛り込んでいる企業は70%以上だった。

「企業が取り組みをしてもその魅力が個人に十分に伝わっていない。企業活動は個人のニーズに左右される。個人の情報不足は企業の取り組みのブレーキとなってしまう。その一方で、個人の環境に対する意見も企業に伝わっていないのでは」――。このチームが提起したのは、環境課題の解決に向かう上で、企業と消費者の繋がりが薄いという問題だ。双方が密接な関係を構築することで、海洋プラ問題の解決がしやすい社会をつくることができる。

解決策として提案したのは、企業と個人の対談の場を設ける団体「PTOP(プトップ)」の設立だ。PTOPでは、企業と消費者が向き合う90分のワークショップを行う。課題について話し合いながら企業の顧客獲得、商品開発のアイデア獲得の場としながら、個人の意見を企業に伝え、参加しているという意識を育てることを狙う。

もうひとつの取り組みはアプリによる小学生を主とした子どもたちの環境教育だ。考案したアプリ「プラフォト」は、ARカメラを活用。目の前の風景の過去、現在、予想される未来を映し出すことによって、子どもにプラスチックごみ問題を学んでもらう。またアプリ内には世界各国のプラごみ問題の現状を写真で閲覧できるPraPhotoMuseumを設置。アプリによる学習から実際のアクションに繋げる教育プランを提案した。

「個人は企業に意見を伝えることで自分が参加しているという意識が芽生え、企業は個人の意識が変わることで取り組みを推進しやすくなる。双方に変化を起こし、海洋プラ問題を解決しようという風潮ができる。それが『海洋プラ問題をストップ=PTOP』することに繋がります」(半田さん)

高校生たちは提案するだけでなく、それぞれのプロジェクトの社会実装を目指し、社会の一員として動き始めている。その鼓動を十分に感じられる3チームの発表だった。

© 株式会社博展