景気引き締め?景気支援?まだら模様な政策を展開する中国当局の真意とは

3月に開催された全人代(全国人民代表大会)で中国当局は、今年の方針として政策の急転換を避け、景気の安定化を最優先する姿勢を示しました。一方で、当局は景気支援策を打ち出しながらも景気に悪影響を及ぼしうる政策も相次いで発表しており、その動向からは当局の意図が分かりにくい状況となっています。

中国当局の真意はどこにあるのか、足元の中国景気と政治スケジュールから探ります。


中国当局の動きはまだら模様

3月に開催された全人代において、中国当局は今年の方針として政策の急転換を避け、景気の安定を最優先事項に掲げました。その上で、今年の主要政策として、減税による製造業の設備投資支援やサービス消費の下支え、インフラ投資などの景気支援を行う方針を示しました。

しかし、足元では不動産政策の厳格スタンス維持や銀行への融資抑制を求めたとの報道があります。その他にはIT企業への独占禁止法適応やIPO規制など、経済活動を抑制する政策を相次いで導入しており、当局の意図が見えにくい状況です。

足元の中国景気は引き締めを急ぐほど良い訳ではない

中国当局の真意を考えるため、まずは足元の景気を見てみます。

中国では、新型コロナウイルスの感染拡大をいち早く抑制したことで景気の回復が進み、昨年の実質GDP成長率は前年比+2.3%とコロナ禍にありながらもプラスを維持しました。今年の1~3月期も前年同期に大幅な落ち込みがあった反動で前年同期比+18.3%と、四半期の統計開始来最大の伸びを記録しました。

2桁の成長率は景気が良好のように見えますが、前期比でみた実質GDP成長率は+0.6%と、コロナ禍前の平均的な伸びを下回っています。先進国のように年率換算を行うと、1~3月期の成長率は前期比年率で約2.4%です。

コロナ禍前には6%程度の成長をしていたことを鑑みると、1~3月期の中国景気は実態としてはあまり良くなかったと考えられます。

1~3月期の中国経済は、1月に国内一部都市で感染が再拡大したことで導入された行動制限の影響を強く受けています。制限期間が春節に重なったこともあり、サービス業中心に景気を下押ししました。

行動制限は感染の落ち着きと共に現在では緩和が進んでいるため、筆者は、景気の鈍化は一時的なものであったと考えています。しかし、依然として消費の伸びが低いなど、中国経済は回復余地がある状況であると言えるでしょう。こうした点を考慮すれば、当局が引き締めを開始するような局面ではなかったと考えられます。

景気と政策姿勢のズレに見える当局の真意とは

このように、中国経済はまだ回復の途上にあり、全般に政策の引き締めが必要な段階ではないと考えられます。しかし、こうした状況下でも当局が引き締め的な政策スタンスを見せている理由は、その対象分野に隠されていると筆者は考えています。

足元で引き締め的な政策が実施、報道された不動産やIT企業、銀行融資といった分野はいずれも、コロナ禍の悪影響が少なく既に回復がある程度進んだ分野に集中しています。

不動産投資は昨年、景気回復を支える要因となりましたが、足元では当局の抑制にもかかわらず住宅価格上昇が加速するなど過熱感がみられます。IT企業はハイテク企業向けの取引所にて緩い審査基準の下でIPO(新規株式上場)を行う事が可能で、投資家の利益を損なう懸念がある分野でした。銀行部門の融資は昨年コロナ対応で拡大しており、野放図な信用拡大を容認すれば、資産バブルへとつながる懸念もあります。

つまり、充分に回復した分野への支援を抑え、将来的なリスクの芽を取り除くということが足元での当局による一連の引き締め的な政策実施の意図であったと考えられます。その上で、ハイテク製造業内製化といった成長分野や、中小企業などのコロナ禍の影響が残る分野へ政策支援を集中させるという、メリハリの利いた政策対応を行うことこそが当局の真意である、と筆者は考えています。

党大会を来年秋に控え、景気安定化を目指す動機は強い

中国では2022年の秋に5年に1度の党大会が開催され、次期指導部が選出される見通しです。しかし、現時点では後継者候補が現指導部におらず、習近平総書記(国家主席)が異例の3期目に突入する可能性が高いとされています。

党大会で習氏の3期目を決定するにあたっては、国家運営手腕が問われることになります。こうした政治的なスケジュールも考慮すれば、中国指導部は、今年は、過度な引き締め政策の実施に伴う景気不安定化も、引き締めを行わないことによる景気の過熱も望んでいないと考えられます。

筆者は、中国当局は景気への悪影響を限定的な範囲に抑えた上で、懸案となっている構造改革を進めていくと見込んでいます。従って、今後も不動産や銀行部門融資などに関する引き締め的な姿勢はある程度続くとみられ、それに伴い、不動産投資の鈍化や企業のデフォルトが発生するとみています。また、IT企業への統制を巡る動きも続くとみられ、これらは資産市場では悪材料視される可能性があります。

こうした悪材料が散見される一方で、当局が景気の安定化を最優先に掲げていること、そして政策支援の恩恵を強く受ける分野もあることは、留意しておく必要があると考えています。

<文:エコノミスト 須賀田進成>

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