デビュー戦は11のアウトを全て三振 前田健太、千賀滉大らを彷彿させる台湾の20歳右腕

味全ドラゴンズ・徐若熙【写真提供:中華職業棒球大連盟CPBL】

初登板から3試合、12回1/3で26三振を奪った

開幕から1か月あまり経った台湾プロ野球から注目のトピックをご紹介しよう。台湾の野球ファンの間で最もホットな話題となっているのが今季から1軍に参入した味全ドラゴンズの新人右腕、20歳の徐若熙(シュー・ルオシー)だ。

台湾原住民族であるプユマ族の血を引く徐若熙は2000年に北部・桃園で生まれた。地元の強豪、平鎮高校の主力投手の1人として活躍。卒業後、2019年の台湾プロ野球ドラフト会議で味全から1巡目全体6位(味全は4巡目まで1巡につき各2名の指名権を保有)指名された。

昨年4月、肘の骨棘を切除する手術を受けて秋に復帰したため、昨季は2軍公式戦以外を含めても約40イニング投げたのみ。しかし、リハビリ期間のウエートトレーニングとフォーム改造により平均球速はアップ。10月の2軍チャンピオンシップでは台湾プロ野球所属の台湾人投手最速タイとなる157キロをマークし、注目を集めた。そして、元メジャーリーガーの王維中に次ぐチーム2番手の先発として、開幕2戦目の中信兄弟戦(3月17日)を託された。

徐若熙は期待に応え、3者連続三振の立ち上がり。2回に2本の内野安打、3回には三塁打を打たれたものの、平均約150キロの直球、スプリットチェンジを主体にカーブ、スライダーを交えて三振を積み重ね、4回2死、62球を投げた場面で降板するまで無失点、11のアウト全てを三振で奪うという衝撃的なデビューを果たした。味全は抑えの田澤純一まで4投手が無失点リレーをみせて4-0で勝利。7819日ぶりの1軍公式戦勝利をあげた。

3月23日は楽天モンキーズ戦に先発。2回に連打で迎えたピンチも併殺打に仕留めて1失点に食い止め、4回を54球、3安打、1失点、5奪三振と好投した。テンポのいい投球に打線も乗せられ4回までに7得点。この日もチームは白星をつかんだ。

最速157キロ&平均150キロ、スプリットチェンジが武器

そして3月28日、本拠地の天母球場で行われた富邦ガーディアンズ戦に中4日で先発すると、またしても三振の山を築いていった。4回まで1安打8奪三振。この時点で55球を投げていたが続投し、初めて5イニング目のマウンドに立った。その5回、先頭打者を三振に仕留めた後、一、二塁のピンチを招いたが、高校の先輩である戴培峰を150キロで三振に仕留めた。ここで上限の70球に達したため降板。この時点で2-0でリードしており、あと1人抑えれば勝利投手権利を得られる場面だったが、笑顔でマウンドを後にした。4回2/3を2安打、2四死球、10奪三振、無失点という内容だった。

デビューから3試合で12回1/3を投げて8安打、3四死球、26奪三振(奪三振率18.92)、防御率0.73という驚くべき数字を叩き出した徐若熙。最速157キロ、平均球速約150キロの直球が投球の軸だが、高い奪三振率を支えているのがスプリットチェンジだ。昨年10月に郭勝安投手コーチのアドバイスで覚えたというスプリットチェンジは、握りはかつて投げていたというフォークと同じながら、フォークのように意識して挟んで落とそうとはせず、ストレートのように素直に投げるのだという。

平均135キロ前後と一定のスピードがあり、ベースに近いところで変化するため見極めが難しく、横への変化も大きいことから特に左打者に有効なボールとなっている。初戦の11奪三振のうち左打者から9つの三振を奪ったが、このうち6つがスプリットチェンジだった。

他球団の首脳陣も賛辞を惜しまない。中信兄弟の林威助監督は打者から踏み込み足の足の裏が見える徐若熙のフォームについて、千賀滉大(ソフトバンク)、山岡泰輔(オリックス)、さらには前田健太(ツインズ)らの名前も挙げ、「股関節の使い方が日本の投手のようだ」と指摘。柔軟な股関節が直球の伸びを生んでいると評価した。そして、「将来、日本でプレーする可能性もある」とさらなる成長を期待した。

球数を制限、3年計画で育成中

徐若熙をなぜ早く降板させるのか、「過保護」ではないかと疑問を持たれた読者もいるだろう。実際に台湾でもそうした声は出ている。味全では徐若熙がまだ若いこと、高校時代と昨年の2度、肘の骨棘を切除する手術を行っていること、高校時代も救援が主だったことなどを考慮した上で、概ね1試合4イニングないし70球まで、多くても5イニング80球とする方針を定めている。こうした球数の制限についてはグレッグ・ヒバード投手コーチに一任されているというが、葉君璋監督も「今季は年間100イニング以上投げさせることはない」と明言。「3年計画で一般の投手並みに球数を増やしていく」と述べている。

しかし、上限を「75球、5イニング」に設定して先発した4月3日の統一ライオンズ戦で予期せぬ事態が起きた。初回、2三振を含め3者凡退に抑えたが、冴えない表情でベンチに引き上げると、葉監督、ヒバード投手コーチ、トレーナーらが徐を取り囲んだ。2回も続投したものの、連続安打でピンチを招き、3人目の打者への初球が外角に大きく外れると、葉監督はベンチを飛び出し、ブルペンで準備させていた廖文揚にスイッチした。

試合後に発表された交代理由は左膝の「膝蓋腱炎(ジャンパー膝)」だった。葉監督によると、3月23日の楽天戦で違和感を覚えたといい、ほぼ回復したため先発させたが、2回以降は制球が乱れてベースカバーもできなかったため、交代を決断したと説明。「膝を痛めたまま無理させると、今度は肩を痛めることになる」と述べた。

登録抹消と休養を経て中10日での先発となった14日の中信兄弟戦は70球を上限として登板。速球主体の組み立てで2回までに3つの三振を奪い、最速153キロをマークしたものの、3回途中から速球が高めに抜けるようになり、甘いコースに入った球もあった。また、初登板で三振の山を築いたスプリットチェンジもほとんど投げなかった。4回は球速も落ち、先頭打者に四球を出したが、次の打者を併殺打に打ち取った場面で降板。3回2/3を48球、無安打、1四球、3奪三振、無失点という内容だった。本人は試合後、身体は問題ないと強調。「ブルペンでの調子は良かったものの、久しぶりのマウンドで制球に苦しんだ」と語った。

本人にとって、この2試合はいずれも納得のいかない内容だったといえそうだが、プロでのキャリアは始まったばかりだ。今後、大きな怪我にはくれぐれも気をつけながら、先発として十分な球数を投げられるようフィジカルを強化してもらいたい。そして、台湾プロ野球を代表する投手に成長し、国際大会で活躍する姿も見てみたい。何よりもこうした見る者をワクワクさせるスケールの大きい投手が生まれたこと、特に復活した味全ドラゴンズに新たなスター選手が生まれたことは、台湾プロ野球全体にとってもすばらしいことだといえる。今季は各チームで2000年以降生まれの若い投手が活躍している。彼らが互いに刺激を与え合うことによって、リーグ全体のレベルアップにつながることを期待したい。(「パ・リーグ インサイト」駒田英)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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