車いすラグビー・倉橋香衣 格闘球技の紅一点は笑顔がトレードマーク

トレードマークの笑顔を見せる倉橋。日本のキーマンだ(JWRF/ABEKEN)

【Restart パラヒーローズ その壁を乗り越えろ(30)】体育館に響く衝突音。その激しさから「マーダーボール(殺人球技)」と呼ばれる車いすラグビーは人気競技の一つだ。東京大会で優勝候補の一角に挙げられる日本代表では、唯一の女性選手である倉橋香衣(30=商船三井)がキーマンになっている。 (随時掲載)

活発な少女だった。小学校1年から「母親が疲れさせて寝かせるためにやらせた」という体操に熱中。高校でいったん区切りをつけたが、大学入学後に「やっぱり回ったりしたいな」とトランポリンをスタート。ところが、大学3年時に悲劇が起きた。試合前練習で着地に失敗。「首が折れてガンってなった。やってしまった」と気づいたら意識がもうろうとしていた。

ICU(集中治療室)での手術が成功して一命を取り留めたが、頸髄を損傷。車いす生活を余儀なくされた。しかし、倉橋は負けなかった。「なってしまったものはしょうがないので、できることをやるしかないなって。友人が『ケガしたことを後悔しないためには動けるようになったらいいねん』って。それを聞いて、できることを見つけたら後悔はそんなにしないかなっていうのは思った」。リハビリは決して楽なものではなかった。それでも、地道に歩みを進めていった。

そんなときに出会ったのが車いすラグビーだ。1年ほど悩んだが「やっぱり何かスポーツをしたいな」と一念発起。「全部が難しかった」とゼロの状態から努力を続け、2017年に日本代表入りした。

車いすラグビーは、選手の障がいの重さによって、0・5点~3・5点までの7段階にクラスが分けられている。コートに立つ4人の合計点を8点以内に収める必要があるが、女子選手が出場する場合、0・5点の加算が許されることから、ケビン・オアー監督(52)が大抜てきしたのだ。

倉橋は「早くみんなに追いつけるようになりたい」と持ち前の負けん気を発揮し、18年世界選手権では日本の初優勝に貢献。ただ、満足はしておらず「振り返ると反省だらけ。常に課題を改善していきたい」とさらなる高みを見据える。

東京大会までは残り約4か月。「金メダルを目標にやっている。金メダルを取ってみんなでコートで喜びたい」。笑顔がトレードマークのヒロインが日本を頂点に導く。

☆くらはし・かえ 1990年9月15日生まれ。兵庫県出身。小学校1年から高校まで体操に取り組み、大学入学後にトランポリンを始めた。大学3年だった2011年に試合前練習で着地に失敗。頸髄を損傷し、鎖骨から下の多くの機能を失った。リハビリの過程で車いすラグビーに出会い、15年から本格的にスタート。17年4月に女性選手として初めて日本代表に選出された。18年世界選手権では日本の初優勝に貢献。東京大会でも活躍が期待される。

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