テンセントが出資する『水滴』が逆風の中で米IPO申請決行!どんな企業?中国当局の動きは?

中国のインシュアテック(※)企業である水滴(ウォータードロップ)は、米国でのIPO(新規株式公開)を申請しました。水滴は米証券取引委員会へ16日に提出した届出で、IPOの規模を1億ドルに設定しています。
※インシュアテック(InsurTech)…保険(Insurance)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた造語。テクノロジーを用いた保険領域における新たなビジネスモデルを指す。

目論見書によると、水滴の2020年の営業収入は30.3億元(485億円)で、損失は6.6億元(106億円)を計上、損失は昨年より増加している状態です。

IPO前の水滴は、主な株主に中国の巨大テック企業テンセントがおり、株式の持ち分は22.1%を占めています。過去何度も水滴に対して資金を供給しており、その関係性も強いと言えるでしょう。

しかし中国内では、当局が様々な規制を始めているとも言われています。事実、フィンテック企業の上場申請取り下げなどが相次いでおり、水滴には“逆風”の状況です。今回は、国内外で注目されている水滴のIPOについて解説します。


経済的・社会的弱者に寄り添う「保険×Tech企業」

水滴の事業は、所得が相対的に低い経済的な弱者や社会的な弱者に手を差し伸べている点に特徴があります。

内容としては、治療費が高くて払えない患者の状況をネット上で紹介し、患者ごとに寄付を募る(1)クラウドファンディング事業の「水滴筹」、(2)保険の仲介・代理販売のプラットフォーム「水滴保険商城」、(3)ヘルスケア・健康管理事業の「水滴健康」、「好薬付」があります。

今後は、医療に関する保険商品や治療費の調達、治療薬の提供、更には健康管理といったヘルスケアに関するワンストップのプラットフォーマーを目指すとしています。なお、2016年5月に最初に開始した、所得が相対的に低い層に対する癌など重大疾病を給付対象としたP2P事業の「水滴互助」については2021年3月に閉鎖しています。

収入の柱は保険販売の仲介業、収入の9割を占める。

事業を継続していく上で、収入の柱となっているのが、(2)保険の仲介・代理販売のプラットフォーム「水滴保険商城」です。自社が抱える会員や一般向けに保険商品を取り扱うことで、提携先の保険会社から手数料収入を得るというものです。

今回のIPOで公開された目論見書によると、2020年の営業収入30.3億元のうち、この手数料収入は27億元(長期契約と短期契約の合計)と89.1%とおよそ9割を占めました。

2021年3月に閉鎖した水滴互助は、給付金総額の8%を管理費として徴収していましたが、その収入は全体のわずか3.6%でした。

水滴保険商城では、2020年12月31日時点で62社の保険会社と提携し、200種類に及ぶ医療保険、生命保険などを取り扱っています。第三者のプラットフォーマーとの連携を強化したことから、2018年から2020年にかけての契約者も170万人、880万人、1920万人と飛躍的に増加しています。

<写真:AFP/アフロ>

水滴の米IPOには中国当局が難色?

2016年の創業以降、水滴のこれまで事業の継続・拡大を大きく支えたのは、各投資ラウンドにおける資金調達でしょう。その規模は合計でおよそ40億元(640億円)にのぼります。

テンセントからは、2016年のエンジェル期以降、シリーズAから事業の拡大や経営の安定化を経てシリーズDまで、更にはIPO準備に向けた2020年11月にも追加投資を受けています。米IPO前の株主構成をみると、水滴の経営トップ(沈鵬氏、楊光氏、胡堯氏など)が26.4%を保有しているのに対して、テンセントの子会社がそれに次いで22.1%を保有しています。

水滴による米国でのIPOには、既存投資家へ収益化の機会を提供し、中国における今後のヘルスケア事業や保険事業におけるサービス・技術の更なる研究・開発、事業拡大、台頭する同業他社に対する競争力の強化といった目的もあるでしょう。

しかし、中国内においては当局が規制を強めています。2020年11月には、テンセントと並ぶ中国の巨大テック企業アリババの傘下にあるアントグループが香港と上海市場への上場を予定していましたが、突如延期となりました。これには、中国当局の介入が噂されています。

今回のIPOについては、このアントグループなどの件もあり、中国の当局が難色を示しているという報道もありました。テンセントはこれまでアリババと同様の金融事業戦略をとってきました。今回の水滴の米IPO申請の決行が今後、水滴やテンセントの事業にどのような影響が及ぶのか、注視する必要があるでしょう。

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