<書評>『これが民主主義か? 辺野古新基地に“NO”の理由』 閉塞する日本を開くカギ

 安倍・菅両政権下で民主主義は傷つき、権力の集中は独裁に向かっている。その象徴が原発維持政策であり、森・加計学園問題、桜を見る会に関連した不正支出など不祥事の数々だ。象徴の一端でもある辺野古新基地建設問題に関し、本書は「日本の民主主義の問題だ」と、読者の視野を広げてくれる。
 前名護市長の稲嶺進は「アメとムチ」政策にあらがう自治体の苦闘を振り返る。高里鈴代は殺人、暴行などおびただしい数の女性被害事件を基に米軍の「構造的暴力」を告発する。チョウ研究者・宮城秋乃は世界自然遺産候補地でもある北部訓練場跡地の残留汚染を報告している。軍隊の存在は女性の尊厳、地方自治や希少な自然を破壊し続けている。
 軍用地強制使用や爆音差し止め、知事代理署名、辺野古埋め立て承認取り消しなどの各訴訟で、多くの県民にとっては不当とも言える判決が続いてきた。高木吉朗、木村草太、紙野健二ら法曹関係者は「憲法の上に地位協定、安保条約がある」などと法治国家の崩壊だと警鐘を鳴らす。不条理は沖縄だけの問題ではない。日米の軍事一体化による「本土の沖縄化」、米軍機の低空飛行など基地被害の本土への拡大は、国民に問題意識の共有を促している。
 独裁、差別社会は批判者を排除する。在特会やネット右翼批判で矢面に立つ安田浩一は「ヘイトと沖縄バッシングは地下茎でつながっている」と指摘する。安倍政権を追放された元文科省事務次官前川喜平は教科書の「集団自決」削除をただし、歴史教育の偏向と安保法制、敵基地攻撃論、中国敵視戦略が根底でつながっていることを示唆した。
 アンカー役の琉球新報政治部長、新垣毅が説く沖縄の自己決定権実現は日本の民主主義復権につながる。「沖縄問題」の処方箋は、閉塞(へいそく)する日本の未来を開くカギとなりうる。そのための視点を本書は与えてくれる。
 (新垣邦雄・東アジア共同体研究所琉球・沖縄センター事務局長)
 新垣毅(琉球新報政治部長)、稲嶺進(前名護市長)、高木吉朗(弁護士)、高里鈴代(基地・軍隊を許さない女たちの会共同代表)、宮城秋乃(チョウ類研究者)、木村草太(東京都立大教授)、紙野健二(名古屋大名誉教授)、前川喜平(元文部科学事務次官)、安田浩一(フリーライター)の9氏が執筆した。

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