三池崇史(監督)「劇場版 ポリス×戦士 ラブパトリーナ!~怪盗からの挑戦!ラブでパパッとタイホせよ!~」- いろんな面で開放させてくれる

TVシリーズがそのまま劇場版に

──『ポリス×戦士 ラブパトリーナ!(以下、ラブパト)』はTVシリーズ4作目、劇場作としてはシリーズ2本目となりますが、今回の『劇場版 ポリス×戦士 ラブパトリーナ!~怪盗からの挑戦!ラブでパパッとタイホせよ!~(以下、劇場版)』で新に挑戦したこと・取り組んだことがあれば伺えますか。

三池:特に気負ったことはなかったです。スタッフとも劇場版だからということで頑張るということはしないようにということは事前に決めていました。映画化となると普通は頑張ってしまうものですが、それだとTVシリーズは頑張っていないのかという事になりますし、映画を見に来た子供たちが「TVとは違う」と感じてしまうとガッカリしてしまうと思ったんです。

──この劇場版はTVシリーズの延長線上にあるという事ですね。

三池:そうです。ダンスシーンなど映画化という事でプラスされている部分もありますが、子供たちが普段応援してくれているTVシリーズがそのまま劇場版になっています。お話しとしてはラブが無くなって地球がお尻のように割れるのを阻止するという地球規模の事件なので、スケールという面では映画だと言えなくもないと思うんですけどね(笑)。

──確かに地球存亡の危機ですから、スケールの大きなお話ですね(笑)。

三池:子供たちが気持ちのストレスを感じずに観られるようにと意識して作っています。理想を言えばそこからさらに面白いものになっているといいですね。

──純粋に面白いかどうかですからね。

三池:この企画は僕らが思っているものが通用しないので、いろんな面で開放させてくれるのでのびのび自由にやれています。

──男の子に人気の戦隊ものは変身してから戦闘となりますが、『ラブパト』は変身してからも歌を歌って、ダンスシーンもあり戦っているという事を忘れてしまいます。そうやって楽しくその場の雰囲気を盛り上げて解決するというのはこのシリーズらしい演出だと感じましたが、それは三池監督の発想なのでしょうか。

三池:シリーズ1作目『アイドル×戦士 ミラクルちゅーんず!』から、1つのルールとして“暴力で解決しない”という事を決めていたんです。メリハリがつかないので光線らしきものを出しますが、それは痛いものではなく歌の愛情で包む・癒すという形で解決をするようにしています。ただ、その解決方法にすることに最初は不安がありました。

──不安というのは。

三池:悪いことをしている人の中にも良心・優しさはあって、逆を言えば良い人の心の中にもどこかいけない気持ちはあるんです。このシリーズではそこを利用され悪者になってしまった人を元のピュアな自分に還してあげる様子というのは、大人にとっては癒しになりますが子供たちにとっては刺激がなくて、癒すという感覚がどれほど伝わるかということに懸念があったのですが。悪いことをしている側の暴力はほぼゼロでシリーズを通じても出てこないし、癒すという彼女たちの戦い方では今までのヒーローものとも必然的に違ってきますから。

──それが歌やダンスで解決するということに繋がっているんですね。

三池:今の子たちは明らかに踊れるし、歌えるんです。こんな表現ができるんだという驚きもありました。そこが小さい女の子たちから憧れになっていけばいいなと思ったんです。彼女たちは暴力で解決するのではなく、歌と踊りでフニャフニャにして元に戻す。そこはシリーズを通して守り抜くべき点だと思っています。

観てくれる方たちを甘く見るのではなく対等にぶつかっていく

──ゲストの加藤清史郎さんは愛川警部というおっちょこちょいな警察官役を演じられていましたね。

三池:こういった作品だと、普通はイケメンキャラになるんです。ただ、そうしてしまうと女児ものというジャンルにとらわれてしまうような気がしたんです。女の子が気に入るような役柄という発想は、キャスティングには持ち込まないようにしました。と言いながら清史郎くんもイケメンですけどね。

──その考え方は作品の雰囲気にも合っていると思います。

三池:観てくれる方たちを甘く見るのではなく対等にぶつかっていく、そういったことがキャスティングやお話の展開には必要な事かなと思っています。その点は劇場版では少し色濃く出ていますが、シリーズを通しての狙いは同じになっています。

──もう一人のゲスト、柳沢慎吾さんと共演されたラブパトのみなさんは如何でしたか。

三池:柳沢さんは普段も変わらない方で同じようにワーッとされている方なので、4人とも興味津々でしたね。

──(笑)。

三池:柳沢さんにお願いするきっかけは脚本家の加藤(陽一)さんが大ファンだということもありますね。

──加藤さんきっかけだったんですね。

三池:台本の第1稿から“シンゴ署長”と書いてあったんです。これはキャスティングしろという事なのかなと思ったんです。でも、こんな当て書きをされたら本人は嫌がりますよね。

──普通はそうですよ。

三池:怒られるかもわからないと思いながらお声掛けしたら「面白いね、やるよ!」と快諾していただけて、楽しんでやっていただけました。

──柳沢さんは新ネタを持ち込んできたということはあったのでしょうか。

三池:アドリブ好きな方でしたね。台本上必要なことをやった後にプラスαをやるわけです。アドリブは受けてくれる相手がいて成り立つんですが、誰も受けてくれないので1人でずっとやり続けていました。撮影をしていて、満足したかなというところでカットをかけていましたね(笑)。

──相変わらずだったんですね(笑)。

三池:「いいところで切るから大丈夫ですよ。好きにやってください。」とお伝えして、自由にやってもらいました。柳沢さんは本当にエンターティナーで、その場にいる人たち・その空間が一緒に楽しくなればいいという方なんだと思います。本当にピュアな方で、面白くて時間だけが過ぎていってしまって(笑)。

──(笑)。

三池:楽しいので全然平気でした。息子のソウタ役の川原(瑛都)くんは柳沢さんのギャグを吸収していて、自分で言うようになりました(笑)。

──清史郎さんはどうでしたか。

三池:彼はお芝居に関しては天性の才能があるので安心して見ていました。子役であれだけブレイクしてしまった事で、役者として続けていけるんだろうかという迷いもあったと思うんですけど、腹は決めたんだなという事をあらためて感じました。一緒に仕事をしていて、役者って凄いエネルギーあるんだな、僕らでは理解できないことを経験しているなという事を改めて感じています。

彼女たちをリスペクトする気持ちを持っている

──スタッフのみなさんはTVシリーズと同じ雰囲気を出すことを意識されたとのことでしたが、ラブパトの4人にとっては劇場版という事で力が入ったという部分はあったのでしょうか。

三池:彼女たちも劇場版だからという気負いはなく、自信を持って演じていたように思います。同じスタッフで撮っていますし、1年やり通したということで彼女たちがやればそれが正解・本物なんです。

──そこも安心して任せることが出来ていたんですね。

三池:その自信は元々持っていたというわけではなく1年やったという事から来ているもので、自身の性格を通して演じればいいんだという事を彼女たちもわかっているんです。僕たちもいつもと何も変わらないようにやれる雰囲気をつくりましたが、そういった気遣いも必要ないくらい堂々としていました。

──1年を通して成長を感じられた部分はありましたか。

三池:例えば、前後のシーンで感情を繋げたりということが出来るようになったりと、現場での立ち振る舞いは成長していますが、根っこにあるキラキラした部分は変っていなくて、いい意味で失われていない魅力もあります。

──良くも悪くも知ってしまうことで失ってしまうことはありますよね。

三池:それが全然ないんです。そこが魅力ということに本人たちは気付いてないんですよね。例えば、はにかんでふっと笑う一瞬が良いんです。本人が意識していない無垢な部分、そこから抜け出そうと大人になろうとしている部分の両方を持っているんです。経験していくとどんどん無垢な部分が薄れていって、女優として表現しようというところが上手くなっていくんですけど、それも寂しいですよね。

──1年いっしょにいると余計にそう感じてしまいますよね。

三池:彼女たちが普段から先輩たちを見ていて、歌のトレーニングをして、リハーサルをしているから保てている部分かもしれないですね。どこまでも先生・先輩が居るわけですから。僕らから見るとよく踊れているなと思えても、本人たちはまだまだと感じているみたいです。そういう意味では僕らよりも厳しい中にいるんだと思います。そういう所からも僕らスタッフみんなが彼女たちをリスペクトする気持ちを持っているので、その輝きを保っているというところもあるのかもしれないですね。

──劇場版では家族愛を強く描いているように感じたのですが、いくつもの愛の中でも家族愛を前に出したのは何故ですか。

三池:最初はそこまで家族愛を意識していたわけではなくて、シンゴ署長に子供がいるという設定もなかったんです。

──そうなんですか。

三池:ラブを失うと地球が破壊されるというのは、見方によっては自然破壊という事でもあるだろうし、戦争にも繋がるかという事ですけど、そこに嘘はないと思うんです。

──確かにその通りですね。

三池:ラブが無くなるという事はそういう危険性も含んでいるということだと思うんです。人間は怖い部分も持っているけど、ラブを取り戻せば解決に繋がる。それは立派なテーマですがあまりにも漠然としていて、言葉でなんとくなくはわかるんだけど目では見えてこないことですよね。

──心で感じることですから、具体的に何かというのは難しいですよね。

三池:シンゴ署長の話で言うと、実は凄く気が弱いお父さんが子供の前でそんな姿を見せられないとがんばる。一見すると何の役にも立たない空回りしている姿ですが、前に進もうとするお父さんの姿を見てやっぱり凄いと思う。それは全然スケールは違いますが、地球を守ることと同じだけの価値があると思うんです。何かをしようというのではなくそれぞれの場所で1つでも愛情をもって接することが出来れば、きっと地球は大丈夫なんだと思っています。地球を守るという漠然としたものだけではなく、小さなリアルも入れるべきだよねと脚本を作っていく中で考えたんです。それをキャラクターを通して表現してもらったという事です。

──本当に大事なことだと思います。

三池:『ラブパト』は家族で観に行く人の方が多いと思うんです。そこも意識にはあったかもしれないですね。友情の話は4人がやるので、ゲストにはお父さん・お母さんとも共鳴しやすい人たちということでキャラクターを寄せた形です。

──本作で4シリーズ目という事で、三池監督が『ガールズ×戦士シリーズ』を撮り続けてきた思いやこれからの思いについて伺えますか。

三池:続けられているのは作品の結果によってなので僕たちで決めることが出来るわけではないですが、自分たちからもう終わらせる理由は何もないのでこれからも続けて行ければいいなと思っています。でも、続けたい気持ちが勝って、撮り続けるための作品作りとなってしまうとそれは不純なのでそうならないようにとは常に気を付けています。

──その気持ちを保ち続けられているのが素晴らしいです。

三池:子供たちが「日曜の朝は楽しいよね。」となればいいなと、漠然とした使命をもってみんな頑張っています。

──それがこの作品にとっても大事なものの1つだと思います。

三池:僕たちも凄く楽しいんです。何かが発信できたらいいなとは思っていて、それは観てくれている人たちはもちろん、出ている子供たち、一緒に作っているスタッフたちの中にあってもいいなと思っています。このシリーズを続けていくことによって何かに気づいたり、喜びを感じたりという、近辺に対するエンターテイナーでもあらなければいけないということはいつも考えています。そう考えながらも僕たちは、シリーズに出演してくれている彼女たちによって癒されていて、与えられてばかりなので、返せるものがあるはずだと常に思ってます。それが続けていくモチベーションになっています。

──本当に『ガールズ×戦士シリーズ』に対する熱い思いを伺わせていただきありがとうございます。映画はもちろんですがこれからのシリーズも楽しみにしています。

三池:今回は「心の中で」となりますが、ぜひ劇場でも応援してください。

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