【高校野球】継承90%+「自分の色」10% 甲子園常連校に就任した新監督のチーム作り

静岡高・池田新之介監督(左)【写真:間淳】

静岡の名門・静岡高で新監督に就任した池田新之介氏

春季高校野球静岡県大会は25日、2回戦が行われ、静岡高は掛川東に7回コールドで勝利した。今月からチームを指揮する池田新之介監督は、甲子園常連校の伝統を引き継ぎながら、自らの色を加えて新しい静岡高校を作っている。

ベンチの奥から遠くまで良く通る声がする。その声で選手たちのスイッチが切り替わるように、ベンチが活気づく。声の主はムードメーカーの選手ではない。今月就任したばかりの池田新監督だ。

初回1死二塁のチャンス。二塁走者に向けた池田監督の声が球場に響く。

「一発牽制、注意して!」「見るのはショートだけ」

その声にナインが反応する。

「一発牽制、注意」「ショートだけ」「ショート入ってないよ」

静岡県内では「静高(しずこう)」の愛称で親しまれている静岡高。野球部は創部120年を超え、県勢最多の春夏通算42回の甲子園出場経験を誇る。近鉄で守護神として活躍した赤堀元之氏や、オリックスの増井浩俊投手、西武の鈴木将平外野手ら多数のプロ野球選手を輩出し、県内屈指の進学校でもある。

静高最大の特徴は「考える野球」も…

静高最大の特徴は「考える野球」にある。練習から常に試合を想定し、無駄のない走塁や隙のない守備をチームに浸透させている。試合でも1つ先の塁を狙う意識や、失点を最小限に防ぐベストな方法を導き出す。今年3月まで13年間、チームを指揮した栗林俊輔前監督も「考える野球」を磨き上げてきた。2015年のセンバツでベスト8に入るなど、静高の監督として歴代最多の春夏通算7度の甲子園に導いた。

そのバトンを受けた池田監督はチーム作りについて、こう話す。

「目指すのは負けない野球。大きくチームを変えようとは考えていない。栗林監督が築いてきた隙のない野球を90%継承して、残りの10%に自分なりの色を出せていければと思っている」

池田新監督の色、その1つがベンチでの声だ。指揮官は静高の長所が時に弱点になると考えている。「選手たちは考える能力が高い。だからこそ、用心深くなりすぎることがある。選手たちがアグレッシブにいけるように、後ろから鼓舞するのが自分の役割」。比較的おとなしいイメージの静高に、新たな色を加えようとしている。

「アグレッシブにいけ!」

「ベンチから圧かけようぜ! 弱いよ、ベンチ」

掛川東戦でも、池田監督の声が合図となり選手たちが呼応した。「アグレッシブにいこうぜ」。これまでの静高ベンチではあまり見られなかった光景だ。

選手には積極的に声かけ「選手には馴れ馴れしいと思われているかも」

池田監督は試合中、選手に話しかける場面が多い。積極的な走塁でアウトになった選手がベンチに戻ってくると「いいチャレンジ。試合の序盤で、ああいう走塁は相手にプレッシャーをかけられる」と他の選手にも聞こえる声で伝える。バッテリーや凡退した打者にも、ベンチで何度も声をかけた。

選手の呼び方も「池田流」だ。多くの選手を下の名前で呼んでいる。監督に就任してから、まだ3週間。しかし、常に結果が求められる伝統校では言い訳にならないと理解し「勝つためには短い期間で選手のことを知り、自分の考えを知ってもらわないといけない。こちらから積極的に動かないと。選手には馴れ馴れしいと思われているかもしれませんね」と笑う。

池田監督は静岡高OBで、当時は野球部の主将だった。進学した中京大では4年生で学生コーチとなり、指導者の道を歩み始めた。2001年から5年間は静岡高のコーチに就き、その後は別の高校で監督を務めた。2018年夏には島田商を率いて静岡大会準優勝、翌年にはベスト4と、甲子園へあと一歩のところまで近づいている。

掛川東に7回コールドで勝利し、夏の静岡大会にはシード校として臨む。甲子園に向けて1つ目のハードルをクリアし「試合数が変わってくるので、ホッとしている」と安堵した。と同時に、シード権獲得で満足できないことも分かっている。常に勝利を求められる伝統校の宿命を背負いながら、池田監督は新しい色を加えていく。(間淳 / Jun Aida)

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