吹屋案内所 下町ふらっと ~ ベンガラ色のまち並み、吹屋で体験するベンガラ染め

標高550メートルという高梁市の山中にある吹屋。緑豊かな山道を抜けると突如現れる、赤いまち並みに驚かされます。

吹屋は江戸時代から明治時代にかけて、銅山と赤の顔料「ベンガラ」で栄えたまちです。

財を成した豪商たちはベンガラで建物を彩りました。そのまち並みが当時のまま残っているのです。

吹屋を繁栄させた「ベンガラ」がどんな顔料なのか、気になりませんか。

吹屋案内所 下町(しもまち)ふらっと」(以下「下町ふらっと」)では、古民家を改装したノスタルジックな空間で、ベンガラ染めの体験ができます。

真っ白な布が、どんな色に染まるのでしょう。

下町ふらっとの小倉 邦子(おぐら くにこ)さんに吹屋のお話を聞きながら、ストールのベンガラ染めを体験しました。

ベンガラ染めの洋服が素敵な小倉 邦子さん

ベンガラ色のまち並み 吹屋

吹屋の赤いまち並み

赤茶色の石州瓦と、ベンガラで赤く染められた格子と壁。

独特の建物が立ち並ぶ吹屋のまち並みは、ベンガラで巨万の富を築いた豪商たちが作り上げました。

吹屋のベンガラ産業自体は、1972年の銅山の閉山後、1974年に製造が終了しています。

現在、吹屋でベンガラは作られていないものの、1977年に国の重要伝統的建造物群保存地区に認定され、吹屋で暮らす人たちは歴史あるまち並みの保全に取り組んできました。

2019年6月には、「『ジャパンレッド』発祥の地~弁柄と銅の町・備中吹屋~」として日本遺産に認定されています。

赤いまち並みには飲食店やお土産屋が軒を連ね、歴史深さに新しさが融合しているのです。

吹屋郵便局も、まちになじんだ趣ある姿。

吹屋にはかつてのベンガラ産業について知ることができる観光スポットが充実しています。

下町ふらっと

下町ふらっとは、吹屋のまち並みの南端にある古民家を改装した観光案内所です。

内装は九州新幹線のデザインを担当した水戸岡 銳治(みとおか えいじ)さんが手がけたそう。

天井の梁が見事です。

店頭にはベンガラ染めのハンカチやマスク、お守りなどが並んでいました。

吹屋のベンガラ産業について知ることができる資料の展示もあります。

大きなのれんには、ベンガラの製造が盛んだったころの賑やかなようすが描かれていました。

2021年現在、吹屋でベンガラは作られていないものの、下町ふらっとでは工業用ベンガラを使った染め体験ができます。

吹屋はなぜベンガラで繁栄したのか

ベンガラは、土からとれる酸化鉄をおもな成分とする粉状の顔料です。

インドのベンガル地方より製法が伝わったことから、その名がついたといわれています。

現在、流通しているものは化学合成により作られた工業用のベンガラです。

一方、吹屋では1974年まで、天然の鉱物からベンガラが作られていました。

ベンガラは土の中にそのままあるわけではなく、原料の硫化鉄鉱からローハ(緑礬)という鉱物を製造し、さらに石臼でひき、水の中で酸を抜き、乾燥させるといった手間を経て作られていたのです。

ベンガラの製造工程はベンガラ館で見学できる

豪商たちのほかに、多くの労働者が製造に関わり、吹屋で暮らしていたことでしょう。

吹屋のベンガラが特別だったのは、江戸時代、良質な硫化鉄鉱が産出する鉱山が発見されたからです。

鉱山の知識が豊富な原 弥八(はら やはち)さんを山口県から招き、ローハ(緑礬)の製造研究を行ない、開発に成功しました。

高品質のベンガラを大量に生産する技術を得た吹屋は大きく繁栄したのです。

吹屋の良質なベンガラは瓦や日用品ではなく、九谷焼や伊万里焼など焼き物をはじめとした芸術品に使われました。

高温で焼いても、赤の鮮やかさはそのままで黒くならないためです。

今は製造されていない吹屋のベンガラですが、吹屋には大切に持っているという人も多いそう。

小倉さんは「本ベンガラは特別。染めで使っても工業用とは色が全然違うんですよ」と話します。

思い思いに彩る 下町ふらっとのベンガラ染め体験

ベンガラ染め体験メニュー

下町ふらっとでは、型紙を使って染める「ステンシル」と、布に糊を置いた部分を染める「型染め」、ベンガラ液に浸して染める「ベンガラ染め」が体験できます。

所要時間はいずれも約30分。作品は当日、持ち帰ることが可能です。

予約は、下町ふらっとのFacebookか、じゃらんからもできます。

ステンシル・型染めコース

  • コースター 880円(税込)
  • エコバッグ 2,300円(税込)

ベンガラ染めコース

  • ハンカチ 1,800円(税込)
  • Tシャツ 2,500円(税込)~

ベンガラ染めコースは布の持ち込みも可能です。その場合、生地の大きさや重さで値段が変わります。

染めてみたい洋服などがあれば、問い合わせてみてください。

今回、私が染めるのは、下町ふらっとで用意されていた真っ白なストール。肌触りのいい柔らかい素材です。

どんな色に染まるのでしょう。

以下の工程でベンガラ染めを行ないました。

  • 色選び
  • ベンガラ液で染色
  • 完成

色選び

まずはどんな色に染めていくかを決めていきます。

ずらりと並んだカラフルな布を指さし、「ここの色、模様、なんでも作れるよ」と小倉さん。

さまざまな色にびっくり!

ベンガラというと、赤のイメージがありますが、黄色のベンガラに火を入れると赤に、赤に火を入れると黒に変色する性質があるのだそう。

実際に小倉さんはフライパンで黄色いベンガラを熱したことがあり、ちゃんと赤になったそうです。不思議ですね。

下町ふらっとでは赤に加え黄色のベンガラを仕入れています。

黄色のベンガラ液と黒のベンガラ液を混ぜると、になるのだとか。

そのほか、色を組み合わせることで赤・ピンク・黒・黄色・緑・橙・紫・茶といった色が表現できるのです。

また、薄め具合で濃淡を調節可能。

色を薄めるのは、小倉さんお手製の、大豆と吹屋の湧き水を混ぜて作る呉汁(ごじる)です。

呉汁で使う湧き水は、雨の日の翌日に小倉さんが山を走り回り、汲みに行くのだとか。

「吹屋の水は、ベンガラと相性がいいんよ。ミネラル豊富で、ベンガラが喜ぶよ」と小倉さん。

私は濃い赤、薄い赤、濃い緑、薄い緑の4色でチャレンジすることにしました。

ベンガラ液は「もう少し薄くする?」と聞きながら、小倉さんが作ってくれました。

模様を入れる準備

色を選んだら、スカーフに模様を入れる準備をしていきます。

スカーフのところどころを輪ゴムで縛ると、輪ゴムの部分が色の境目になるのです。

輪ゴムが外れないように、きつく巻くのが大切!

大きな輪にするか、小さな輪にするかを考えながら縛っていきますが、なかなか想像がつかないので、私は適当になりました。

ランダムな模様を楽しむことにします。

一方で、「こんなのできますか」と仕上がりの理想を図にして持ってくるこだわり派もいるそう。

どんな柄にするか狙って下準備する人も、私のようにイメージできていない人も、ベンガラ染めは楽しめるので大丈夫。

結び目がたくさんできました。どんな柄になるでしょうか。

いよいよベンガラ液で染めていきます。

染色

ベンガラ液で染める前に、まずは定着剤にひたします。こうすることで、ベンガラの色が入りやすくなるのです。

しっかりしぼって、水気をタオルでとります。

ベンガラ液を刷毛(はけ)でとり、スカーフに当てていくと、色づいていくのです。

刷毛でちょんちょんと色をつけて、手で揉んで、水分をとる、この工程を繰り返していきます。

色をしっかり入れたければ、同じ場所を複数回繰り返して色づけ。

そうすることで色の濃淡の調整ができるのです。

黄色と黒を混ぜている緑のベンガラ液は、分離しやすいから混ぜてから刷毛にとります。

最初はおそるおそるでしたが、慣れたらペタペタと色づけできるように。

輪ゴムを目印に単色できっぱり変える部分と、複数の色をランダムに置いていく部分を作ってみました。気分は芸術家です。

染色が終わったら、布を傷めないよう、ていねいに輪ゴムをとっていきます。

さて、どんな柄になっているでしょうか。

天日干し

外で干して乾いたら完成です。

自分でも楽しみにしていた柄は、広げてみるとこのとおり!

縛っていた部分は円のように。うっすらと輪ゴムの型が残り、繊細なニュアンスになりました。

ランダムに刷毛を落とした部分はまだら模様に。ユニークな仕上がりになりました。

完成

天気のいい日は10分程度で乾き、その日のうちに持って帰ることができます。

帰宅したら、1週間から10日ほど、屋外で干すのがおすすめとのことです。

ベンガラはお日さまと風が大好き。干して、機嫌を見てあげて」と小倉さん。

ベンガラ染めは「布が朽ちても色は朽ちない」といわれるほど、色落ちしづらいそう。太陽にさらすことで、より長く使えるようになるのです。

最後に広げるときまでどんな作品に仕上がっているか想像できていなかったので、天日干しの瞬間はとても感動しました。

小倉さんが「素敵!グラデーションがあっていいね」と一緒に喜んでくれたのもうれしかったです。

ベンガラ染めは色選びや柄づくりによって、まさに十人十色の仕上がりとなるところがおもしろいと感じました。

首にまくとテロンとした着け心地が気持ちいいです。

オリジナルの柄が服装のアクセントになるので、たくさん使っていきたいと思います。

おわりに

一枚の布に向き合い、ベンガラの色が入っていくようすを観察しながら染めていく時間がとても楽しかったです。

ベンガラが大好きな小倉さんとの会話も、体験の醍醐味。

「みんな忙しそうだから、下町ふらっとに来たら、ゆったり過ごす気持ちを味わってほしいな」と小倉さんが話すとおり、吹屋にはのんびりとした時間が流れていてほっこりしました。

吹屋の歴史に思いを馳せながらのベンガラ染め。とっておきの作品を作ってみませんか。

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