どこにでもいるビール好きが、ビール職人になったわけ

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「拝啓、ビール職人になりました。」

先週からはじまった新米ブルワー(ビール職人)の週イチ連載コラム。

記念すべき初回は「めちゃくちゃ温かくてかっこいい先輩ブルワーのみなさん」について書かせていただきました。

↓前回の記事
https://beergirl.net/brewers-story_c

この連載を見るのは今日が初めて、という方もいらっしゃるかと思いますので、今回も簡単に自己紹介をさせてください。

髙羽 開(たかば かい)と言います。職業はブルワー。現在は、自身のビールブランドとブルワリー(醸造所)の立ち上げを目指し、高知県の『Mukai Craft Brewing』で働いています。

連載第2回の今日は、「知識も経験もないどこにでもいるビール好き男子が、そもそもなぜビールづくりをお仕事に選んだのか?」について、書いていきたいと思います。

つくり手の人生を歩みたくて

現在暮らしている高知県日高村に移住をしてきたのが、2020年12月。

それまでの僕のキャリアはと言うと、新卒で関東に出て、歴史もあり規模も大きな日本企業に入社して貿易のお仕事をしました。その後、地元のローカルベンチャーへ転職するために岡山県倉敷市にUターン。メインの業務は商品企画と出来上がった商品の県内外への卸営業でした。加えて、県内の生産者さんや職人の方々がつくるこだわりの商品を仕入れて販売する、ライフスタイルショップの運営もしていました。「地域商社」などと呼ばれるお仕事です。

商品企画のお仕事の中で県内の生産者さんやつくり手さんにOEM(委託製造)をお願いしたり、バイヤーとして県内の魅力的な商品を発掘したりする中で、「ものづくり」の世界を知りました。また、つくり手さんの顔や人柄、半生を知った上で、その方がつくった商品や作品を暮らしの中で消費したり使うことの楽しさを知り、人や自然に敬意を持ってものづくりをするつくり手の方々を心から尊敬するようになりました。社内にすばらしい料理人やパティシエ、陶芸家がいたことも大きかったと思います。

家族や親戚にも、公私ともにものづくりをしている人がたくさんいました。上に書いたショップをリニューアルしたときに、店内の什器(商品棚やカウンター)一式をつくってくれたのは、大工をしているぼくの兄でした。ものづくりが比較的身近な環境で育ってきたことに自覚はありましたが、「自分の手を使って何かをクリエイトする」という、人類が長い長い時間をかけて磨きあげてきた能力や欲求を社会のために使うつくり手の世界に自然と憧れるようになり、自分自身の手でも何か創りたいという思いが、ふつふつと大きくなっていきました。

じゃあ何をつくろうか?

そう考えたとき、ビールが真っ先に頭に浮かんできました。

自分の人生に最も辻褄が合うのが、ビールでした

大学時代にビールを飲み始めて以降の自分の人生を振り返ったとき、そこに「幸せな思い出」や「豊かな人とのつながり」がたくさんあるのは、ビールのおかげだと個人的に思っています。

カナダの大学に留学したときに出会った、人種や文化の異なる友だちや、苦楽をともにした日本人の友だちと今でも関わりを持てているのは、留学期間中に『Molson Canadian』や『Budweiser』をこれでもかと飲みながら、たくさんの学びや刺激的な体験を共有したからです。

友だちと旅行に行ったときのハイライトといえば、荘厳な建造物や著名な絵画、圧倒されるような自然美もそうですが、1番鮮明に覚えているのは、1日の最後にヘトヘトになりながらやっとたどり着いたパブで飲んだ、感動するほど美味しかった1杯のビールでした。

社会人になって同期のみんなと週末に遊んだり、これからの自分たちのキャリアについて真面目に話したりするときも、右手には大体ビールがありました。

両親とはじめて政治の話をしたときも、ご多分に漏れずビールを飲んでいました。

ほかにも、数え切れない、それでも鮮明に覚えている大切で楽しい思い出の中には大概ビールがあるように思います。
(念の為書いておきますが、シラフのときの素敵な思い出もたくさんあります)

28年というまだまだ短いぼくの人生をもし年表にしたとして、「※このときビールを飲んでいます」という注釈をつけていいのであれば、「出来事」の列に明記したいイベントの横にはその変な注釈が溢れています。

そんな、何よりも身近で、かつ実体験として自分の人生を豊かにしてくれたビールをつくることが、自分の人生を考えたときに1番辻褄が合っていて、頑張ることを楽しめると思った。というのが、ぼくがビールづくりをお仕事に選んだ理由です。

つくる側になって気づいたこと

これまでに書いた「ブルワーを目指したわけ」は、ビールに関する知識なんて何もなかった飲み手のぼくが、ブルワーを志した当時考えたことです。

つくる側の立場となり、日々ビールの勉強をしながら4ヶ月弱経った今のぼくが、「自分に1番辻褄が合うものがなぜビールだったのか?」を考えると、そこにはビールをビールたらしめる3つの要素があるような気がします。

それは、(そんなの当たり前じゃんと思われるかもしれませんが)「ビールがお酒であること」、「炭酸ガスをふくむおいしい液体であること」、「大衆に飲まれるお酒として世界、そして日本に広まったあとに自分が生まれたこと」です。

まずひとつ目は、「ビールがお酒であること」です。

ビールという飲み物をお酒たらしめる成分は、「エチルアルコール」という分子です(いわゆるアルコールのことです)。脳科学の話を深堀りするととんでもなく長くなるので省略しますが、このエチルアルコールが体内に吸収され血液に入って脳に到達することで、理性をつかさどる「大脳皮質」の活動が低下し、本能や感情をつかさどる「大脳辺縁系」の活動が活発になります。いわゆる「酔った状態」のことです。

大脳辺縁系の活動が(適度に)活発になって、目の前の人との感情の結びつきがいつもよりも強くなりやすくなることで、ぼくは両親と普段はしない政治の話もできましたし、できるだけ末永く関わっていきたいと思える友だちがたくさんできました。

ふたつ目は、ビールが「炭酸ガスをふくむおいしい液体であること」です。

ビールを飲んだときに「くうぅぅぅっ」とか「ぷはあぁぁぁっ」ってなるあれですね。あの快感を味わうことができるのは、ビールづくりに用いられる「酵母」という微生物(菌)が麦汁に含まれる「糖」を食べて(アルコールと)「炭酸ガス」を発生してくれるおかげです。

旅先で心地のいい疲れの中友だちと一緒に感動したあのビールの味や、仕事終わりに同期と集まって乾杯したときのあの多幸感を今でも鮮明に覚えているのは、ビールを喉に通すときに炭酸ガスのおかげで感じられる「のどごし」の気持ちよさが大きな役割と果たしてくれたように思います。

そしてみっつ目は、ビールが「大衆に飲まれるお酒として世界、そして日本に広まったあとに自分が生まれたこと」です。

江戸時代に日本人がビールと出会い、明治時代に一般の人たちにも飲まれるようになって以降、ビールは長い間比較的お金がある人の嗜好品でした。そんな中、国内外たくさんのブルワーやビール会社がたゆまぬ商品開発を続けたり、鉄道(物流)が発達したり、ビアガーデンやビアホールが誕生したりと、経済成長の追い風を受けながらビールは少しずつ日本中に広まっていきました。

キリンビール株式会社著の『図説 ビール』に記されていた明治時代のビアホールの描写が、ビールがいかに当時の人たちから愛されていたかを表していたのでご紹介します。

「車夫と紳士と相対し、職工と紳商と相ならび、フロックコートと兵服と相接して、共に泡立つビールを口にし、やがて飲み去って共に微笑する処」

馴染みのない単語もいくつかありますが、とりあえず、ビールを飲む場所では身分や職業に関わらずいかに人々が同じ空間と時間を楽しんでいたか、という様子がとてもよく伝わってきます。

そして、高度経済成長期に『三種の神器』のひとつでもある冷蔵庫が普及されるなどしてビールが一般家庭でも飲まれるようになりました。

このような流れは、多少の違いはあれど世界中で起きていて、ビールが他の多くの国で、そして日本であらゆる層の人に飲まれるお酒になった現代に生まれたからこそ、人種問わずぼくの周りにビールが好きな人がたくさんいて、ぼくの思い出や大切な人たちとのつながりの中でビールの存在感がこれだけ大きいんだろうなぁと思うんです。

「ぼくがブルワーになったわけ」という個人的な体験と思考の裏側には、「ビールをビールたらしめる当たり前のようで当たり前じゃないさまざまな特徴があるよなぁ」と、ブルワーになって思う場面が何度かありました。なので今日は、「飲み手の自分が感じていたことをつくり手の自分が振り返る」というちょっと変わったことをやってみました。

僕がビールづくりをお仕事にした理由は、「自分の手を使ってものづくりがしたいから」というのと、「人とのつながりや幸せな体験という(僕にとって)この世で一番価値のある恩恵をビールからたくさん受けてきたから」です。

これからも「ビール」という「炭酸ガスを含む黄金色・褐色・黒色の大衆酒」が持つ魅力を日々探求し、その中で学んだこと、気づいたこと、感じたことをまたこの連載で書いていければと思います。

今日の記事の最後も、前回に引き続き、この言葉で締めくくらせていただきます。

Cheers(乾杯)!!
(これ恒例にしていくつもりです)

【第一回】拝啓、ビール職人になりました。

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