『中国に呑み込まれていく韓国』序文大公開!|山本光一 多文化社会韓国の今までにないインサイドレポート『中国に呑み込まれていく韓国』が発売されました。韓国の内情を知りつくす専門家が、「チャイナゲート事件」「朝鮮族と脱北者の対立と差別」「袁世凱化する駐韓中国大使」「中国の選挙介入疑惑」などなど、日本では報じられない、深刻すぎる民族問題を分析しています。今回は『Hanada』プラスに序文を公開!

「(中国共産党の)独裁体制に勝利しなければならない」

2020年から、世界は新型コロナウイルス感染症のパンデミック(感染拡大)という大きな災難に苦しんでいる。

中国の武漢が発生源として強く疑われるこの病により、世界各地で多くの人命が失われた。経済は大きく萎縮し、業種によっては壊滅的な打撃を受け、多くの人の生活が脅かされている。先の見えない不安が、世界の人々の胸に重くのしかかっている。

感染症と共に世界に暗い影を投げかけている要因がもうひとつある。中国の脅威、そして米中対立の激化だ。

2020年7月23日、カリフォルニア州のニクソン大統領記念図書館で、マイク・ポンペオ米国務長官が「共産主義の中国と自由世界の未来」という演説を行った。2018年10月にマイク・ペンス米副大統領が「トランプ政権の対中政策」を発表し、米中による新たな冷戦の到来を告げたのに続き、中国との対決姿勢をはっきり示す画期的な内容だった。

ポンペオ長官は「貧しい中国も、豊かになれば、やがて私たちと価値観が共有できる国になるのではないかという楽観的希望があった。しかし、それは間違いだった」とし、「自由主義の世界は(中国共産党の)独裁体制に勝利しなければならない」「私たちが共産主義の中国を変えなければ、彼らが私たちを変える」と強い警戒心を露わにした。

そして、民主主義国家に、新たな同盟を構築して対抗するよう呼びかけた。

1972年のニクソン訪中から半世紀、米国は対中政策の大転換を決断した。 ニクソン元大統領は生前、中国共産党に世界への扉を開いたことで「フランケンシュタインを作ってしまったのではないか」と述懐したが、米国はそれを公式に認め、ついにこのモンスターを退治する覚悟を決めたのだ。

2020年7月22日、米政府は、スパイ活動や知的財産窃取の拠点だとして、テキサス州ヒューストンの中国総領事館の閉鎖を命じ、「24日までに中国人職員は全員、撤収せよ」と通告。時限後は米政府関係者が裏口のドアをこじ開けて館内に入り、確認作業を行った。

中国政府は直ちに対抗措置を取った。27日、四川省成都市の米国総領事館を閉鎖した。同領事館は米国が中国に置いている領事館の中で最も西に位置し、米国が新疆ウイグル自治区やチベット自治区などに行っている情報収集活動に関与していると疑われた。

米政府はまた翌8月から、華為など中国企業5社の製品を使う企業の米政府との取引を禁じる法律を施行した。企業は米政府と中国企業のどちらと取引するのか選ばなければならなくなった。これにより調達体制の見直しをせざるを得なくなった日本企業も少なくない。

ポンペオ国務長官はさらに8月5日、「クリーンネットワーク」構想を発表。米国の個人情報や企業機密が中国に流れないようにするため、中国の通信キャリアや中国製アプリなどを利用できなくするなどし、米国の通信網から中国を締め出すことにした。

そして同様の措置を「新たな同盟」諸国にも求めている。情報通信の分野でも、クアッドのような中国包囲戦略が進んでいるのだ。

世界の各国・地域は、米中のどちらかにつくか、ぎりぎりの厳しい選択を迫られることになった。韓国はここでも米中の板挟みになっている。

たとえば、日韓の大手通信キャリアの中で韓国のLGユープラスが唯一、華為の5G設備を使っており、米国から排除するよう圧力をかけられている。10月14日、韓国政府は「民間企業の取引に関与することはできない」としながらも、「米国と5G技術のセキュリティに関する懸念を解消するための協議を続ける」との立場を表明した。

中国に依存しきった韓国経済

韓国は戦後、長きにわたり、反共を国是として掲げ、韓米同盟を軸に北朝鮮、中国、ロシアと対峙してきた。日韓は同盟関係ではなかったが、日本も日米同盟が安保政策の柱であるため、日韓米の3カ国は軍事的に緊密な協力関係にあった。

中国に住む朝鮮族が朝鮮戦争後初めて韓国へ里帰りできたのは1978年12月のこと。朝鮮族の韓国への里帰りは少数ながらその後も続き、これが冷え切っていた韓中関係を少しずつやわらげながら、国際行事、国際会議、スポーツなど、様々な分野で両国の交流が進んだ。

1986年のソウルアジア競技大会、88年のソウルオリンピックには中国も参加。91年1月、両国は貿易事務所の相互設置を認め、92年8月24日、韓中は国交を樹立した。このとき、韓国は「ひとつの中国論」により中華民国(台湾)とは国交を断交した。

以降、韓国は中国の急速な経済成長の波に乗って経済的繁栄を謳歌するようになる。中国は韓国の最大貿易相手国となって久しい。2019年の韓国の対中輸出は日米を合わせた額を遥かに凌ぎ、中国からの輸入も日米を合わせた額と同じくらいになっている。貿易黒字1位の国も09年以降、18年まで10年間、ずっと中国だった(19年は香港)。

一方、中国にとって韓国はEU(欧州連合)、ASEAN(東南アジア諸国連合)、米国、日本、香港に次いで6番目、全体の6.2%だ。したがって中国にとって韓国は大きな相手ではない。むしろ韓国の中国への依存の大きさがよく分かるだろう。

天安門城楼に立った唯一の西側の指導者

中国への経済的依存が進むとともに、韓国では反共の信念が揺らぎだし、韓米同盟や日韓米の協力関係に影がさし始めた。韓国は軍事面で、米中の板挟みとなって苦悩するようになる。

その象徴的な出来事が、2015年9月に行われた中国の戦勝式典(抗日戦勝70周年を記念した軍事パレード)に韓国の朴槿恵大統領(1952年生まれ)が出席したことだった。

習近平、プーチンとともに天安門城楼に立った唯一の西側の指導者、朴槿恵の姿は世界に報じられ、ワシントンからは「ブルーチーム(味方)にいるべき人がレッドチーム(敵方)にいる」と揶揄する声も出た。

以降、韓国は米国と中国の間で揺れ続けるが、サードミサイル(THAAD=高高度ミサイル防衛システム)の韓国内への配備をめぐって中国の逆鱗にふれてしまう。中国はこのシステムを構成する「Xバンドレーダー」で中国内部が丸見えになることを非常に嫌がった。

これは、今もくすぶりつづける韓中間の大きな火種だ。サードミサイルをめぐる韓中の激しいせめぎ合いについては後述する。

ところで、日本の外交青書の韓国の項で、前年まで長く記載されていた「自由と民主主義、基本的人権等の基本的価値を共有」という表現が削除されたのも、ちょうど2015年版からである。

皮肉なことに、日韓国交正常化50周年を迎えた節目の年だった。この「基本的価値を共有」という言葉は、以来一度も復活していない。

日本政府はもう韓国を同じ価値観を持つ相手とは見ていないのだ。中国や北朝鮮に近い、異なる価値観によって動く国として、不信感を募らせている。私たち国民も、韓国とはそういう相手であることをしっかり知るべきだ。

文在寅政権の性格を表現する際、「親中」「従北」といった言葉がよく使われる。しかしこれは文在寅政権に限っての特異なものではない。

冷戦が終わり、韓国で軍政が引かれ、中国との国交が開かれて以降、韓国は政権が主導して、というよりも国全体として徐々にそういう傾向を強めてきたのだ。北朝鮮による核やミサイルの脅威によってしばし立ち止まることはあったものの、大きな流れは変わらなかった。

この変化を推し進めたひとつの大きな勢力が、国交樹立後、大量に流れ込んできた中国朝鮮族(以降、朝鮮族)だ。本書では、まずこの韓国における朝鮮族について説明する。

まず次章では、2020年初め、コロナ禍で韓国社会が揺れるなか、大きな騒動となった「チャイナゲート」という事件について詳述する。この事件を機に多くの韓国民が朝鮮族の存在の大きさと危険性にはっきり気づいたからだ。

山本光一 | Hanadaプラス

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