氣志團から筒美京平へのラブレター、トリビュートアルバムにして集大成! 2021年 4月28日 氣志團のアルバム「Oneway Generation」がリリースされた日

デビュー以来貫くスタンス、氣志團が提唱するヤンク・ロック

「不良とは、優しさの事ではないかしら」と言ったのは太宰治だが、リーゼント、革ジャンといったワルのベールで身を包んだプロトタイプのロックンロールバンドは、みんな優しくて繊細だ。たとえばキャロルにしてみても、“僕” を一人称とした内省的な歌詞は、硝子細工のように壊れやすい不良少年の心情を甘く切なく描き出している。それは、マキシマムなロックンロールに内包されることにより、不良少年たちのバイブルとなっていった。

この系譜は40年以上経った今でも脈々と受け継がれ、2021年の現在、そのフレーバーを漂わせているのが氣志團だ。変形学生服にウルトラリーゼント。その佇まいは登場以来変わることがない。1997年に結成。2001年のメジャーデビュー前には「氣志團現象」と書かれたBOØWYのアートワークを元ネタにしたステッカーを街中あちこちで目にした。“~現象” とは、これもまた、「バクチク現象」からの愛すべきオマージュ。

こうした自らの根源を十二分にアピールしながらパンクとヤンキーを融合した “ヤンク・ロック” を自ら提唱。結成10周年を迎えた2011年には、『極東ロックンロール・ハイスクール』と題した対バンシリーズを企画、THE MODSや吉川晃司といった大御所を相手に堂々と渡り歩き、近年では『氣志團万博』の成功と大きな足跡を残しつつも、その変わらないスタンスで20年経った今も走り続けている。

自らのルーツを惜しげもなくさらけ出しながらも、その敬愛の念、熱量が半端でないところに彼らの繊細さがあった。BOØWY、BUCK-TICK、さらには、彼らのリーゼントには、70年代B級SF映画をモチーフにR&Rリバイバルを継承したポップでキャッチーなサウンドで人気を博したUKバンド、ザ・レジロスの影響が見られたりもする。また、アートワークに原宿フィフティーズブームから生まれたロカビリーレジェンド、ブラックキャッツをモチーフにしたりと、R&Rカルチャーへの造詣も深い。

また、これまでリリースされたアルバムの中の楽曲には、ネオロカビリー、サイコビリーを元ネタにした楽曲があるなど、アンダーグラウンドなクラブカルチャーに精通しているところも興味深い。

氣志團と筒美京平、極めて近い音楽に向き合うスタンス

このような側面を持つ氣志團だが、彼らの楽曲は非常に歌詞を大事にし、そこにいかに親しみやすいメロディを乗せていくか… という部分に注力していたように思う。これは、紛れもなく歌が大衆に寄り添っていた昭和歌謡の世界そのものであり、作曲家・筒美京平氏の影響を垣間見ることができる。

「俺は筒美京平でできていたんだ」

―― これは氣志團團長、綾小路翔のコメントだが、筒美京平もまた、氣志團のように自らのルーツ、影響を受けた楽曲のエッセンスを自らの楽曲へのオマージュを大切にしてきた作曲家だ。そして、オマージュを深化させ、時には大胆に、どのようなギミックを施せば大衆の心に突き刺さるかに注力し、多くの楽曲を遺してきたと言えるだろう。そしてこの作曲過程の中に潜む繊細さこそが、名曲を生み出した肝となっていると思う。

すなわち、氣志團と筒美京平は、極めて近いスタンスで自らの音楽と向き合っていた… と僕は思う。だから、「氣志團から筒美京平先生への渾身のラブレター」とされるトリビュートアルバム『Oneway Generation』をリリースすると聴いた時は、まさに氣志團の真骨頂だと思わずにいられなかった。

筒美京平愛に溢れた、今の氣志團の集大成「Oneway Generation」

『Oneway Generation』に収録されている楽曲は、往年の “筒美京平節” をポップでキャッチーにアピールしながら、氣志團のバックボーンを知ることができる大胆なアレンジが施されていることが魅力だ。

1曲目「Romanticが止まらない」では、C-C-Bのテクノポップ的なアレンジとは対極のワウのエフェクト処理を効かせ、2本のギターのアンサンブルが衝撃的な音作りでアウトプット。

また3曲目「花とみちばち」では、イントロで、ザ・ダムドの「ニュー・ローズ」をガレージ的な音作りで引用されているなど、“思わずニヤリ” を超え「やってくれたな!」という躍動感に溢れている。

そして6曲目、レゲエ解釈の「夏のクラクション」や90年代メロコアシーンを彷彿させる7曲目の「夏色のナンシー」… もう、一曲一曲書き出せばキリがないほどのギミックの数々。そこには愛が溢れていた。筒美京平へのトリビュートにして、今の氣志團の集大成ともいえる内容となっている。

特筆すべきは11曲目、ドラムレス、アコースティック主体でメロディの繊細さをアプローチした「強い気持ち・強い愛」だ。この曲ではラウンジミュージックの趣を見せながら、楽曲の優雅さ、センチメンタリズムを全面に打ち出した仕上がりを見せる。

そしてラストは、最も彼ららしく、表題曲にもなっている「Oneway Generation」だ。ここではオリジナルに忠実に、歌詞の世界観が時代を超え突き刺さってくる。

 僕らはOneway Generation Oneway Generation
 もう地図など必要ないから
 Oneway Generation Oneway Generation
 もうまわりを気になどしないさ
 青春の終点に着いた時
 何が待っているのか

そう、これが氣志團。まさしく、彼らの代表曲である「One Night Carnival」の一節であり、彼らを見事に体現している「行こうぜ ピリオドの向こうへ」というキメ台詞に内包された精神性にも相通じるものだ。

これこそが、このトリビュートアルバムで伝えたいメッセージであり、筒美京平へのラブレターだ。20年以上ブレることのない精神性と、筒美京平への誠実かつまっすぐなリスペクト。繊細で純情な不良気質。彼らの “らしさ” が溢れた1枚であるとも言っていいだろう。

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カタリベ: 本田隆

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