横浜市立大学が赤血球1個だけの “一細胞ネイティブ質量分析”に世界で初めて成功

横浜市立大学のグループが、たった一つの赤血球の“一細胞ネイティブ質量分析”に世界で初めて成功した。国際総合科学部理学系4年生 坂本和香さん(現博士前期課程1年)が中心となり卒業研究で行ったもの。

タンパク質をありのままの状態で分析するためには、機能に重要な構造をなるべく変性させずに保ってイオン化し、その質量を測定する“ネイティブ質量分析”が用いられる。一般的な質量分析では、酸や有機溶媒を加えてイオン化しやすい条件を整えて感度を上げるが、ネイティブ質量分析では、感度をある程度犠牲にしても、中性の水溶液として試料を調製する。通常は数多くの細胞をすりつぶして集めたタンパク質を精製して実験に用いるが、機能しているタンパク質の質量を“細胞ごとに”分析できれば、様々な状態の細胞を一つずつ比較できるようになることから、本研究では、たった一つの赤血球をそのままネイティブ質量分析に供してデータ取得することに挑戦した。

研究グループは、分子量数百の小さな化合物の網羅的分析に用いられる、先行研究で開発された実験手法を参考にしながら、顕微鏡下、赤血球のサンプリング方法や測定のために添加する試薬、条件などの精査を続けた。その結果、様々な条件を最適化することで、30個、10個、そして最終的には1個の赤血球から、再現性良く、ありのままのヘモグロビンをサンプリングし、ネイティブ質量分析で検出することに成功した。その実験操作は、極細のガラス管に赤血球1個を素早く吸い込み、タンパク質を変性させずにイオン化を促進する酢酸アンモニウム水溶液をほんの少し加えてから、ヘモグロビンのイオンをネイティブ質量分析で観測するというもので、ポイントを押さえて手際よく進めたことが成功の大きな決め手だとしている。

「ネイティブ」、すなわち自然の状態での「一細胞」の質量分析は、一つ一つの生きた細胞内のタンパク質の状態をより正確に捉え、比較することを可能とし、生命科学研究の発展に大いに貢献することが期待される。

論文情報:

【Analytical Chemistry】Single cell native mass spectrometry of human erythrocytes

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