送球が顎を直撃する“珍事”にめげず粘投 西武今井の危うい魅力と潜在能力

ロッテ戦に先発した西武・今井達也【写真:荒川祐史】

1回に送球を顎に受け、プロ野球10年ぶり6度目の1イニング2併殺打を演出

■西武 3ー2 ロッテ(28日・メットライフ)

危なかっしさも魅力のうちなのかもしれない。西武・今井達也投手は28日、本拠地メットライフドームで行われたロッテ戦に先発し、6四球を与えながらも7回2安打2失点の粘投。勝利投手にこそなれなかったが、チームを勝利に導いた。同日現在、5試合1勝2敗、チームトップでリーグ6位の防御率2.40をマークする一方、23与四球と4暴投はリーグワーストである。

いきなり波乱を巻き起こした。1回、先頭の荻野を四球で歩かせるも、続くマーティンには一ゴロを打たせた。普通なら3-6-1のゲッツーとなる所だが、一塁ベースカバーに入った今井は脱げた帽子を右手に持っていた。帽子に気を取られていたからというわけではないだろうが、なぜか遊撃手・源田からの送球が顎を直撃。マーティンを一塁に生かしてしまった(記録は併殺打とエラー)。

続く中村奨に適時二塁打を浴び、安田にも四球を与え1死一、二塁としたが、角中を投ゴロ併殺に。図らずも「1イニング2併殺打」というプロ野球で10年ぶり6度目の珍事を演出したのだった。

ちなみに、今井は長髪を押し込んでいるせいか帽子が脱げやすい。送球を捕り損ねたエラーに、辻発彦監督は「ふかふかした頭をしているから帽子が脱げやすいんだろって! 帽子を気にしている場合じゃないだろって! 顎だから(怪我などが)怖かったよ」と目を白黒させつつ、「顔に当たってちょっと目が覚めたかな。よく投げたと思うよ」と続けた。

「細ダルビッシュ」の異名、潜在能力は折り紙付き

その後は最速154キロの速球を軸に圧倒。2回には振り逃げで出塁させた高部を、一塁牽制球で刺す技も見せた。5回には先頭の高部を四球で歩かせたが、続く藤岡にカットボールを打たせて遊ゴロ併殺に仕留めた。「今日は真っすぐというよりもカットボールが良かったです。結果、引っかけさせて内野ゴロに打ち取れる場面があったので良かったです。次回以降にも有効に使っていければと思います」と手応えありげだ。

1-1の同点で迎えた6回、先頭のマーティンに9号ソロを浴びるも中村奨、安田、角中を3者連続三振に切って取る余力があった。味方の愛斗が同点4号ソロを放った直後の7回にも、2死二塁のピンチを迎え、西口投手コーチがマウンドへ駆け寄るシーンがあったが、「お前に任せた」と続投指示。代打・井上を遊ゴロに打ち取って信頼に応え、今季最多の122球でマウンドを降りた。

昨季はオープン戦で快投を続け、先発の柱として期待されたが、ふたを開けてみれば、19試合3勝4敗、防御率6.13に終わった。パドレスのダルビッシュ有投手を一回りスリムにしたような体形で、「細ダルビッシュ」とも呼ばれる。

異名にふさわしい潜在能力の持ち主だが、制球難が大成を妨げてきた。歯車がかみ合えば、リーグを代表する投手に化けてもおかしくない。まさかの珍事が本格的なブレークのきっかけになるなら、もう誰も文句は言わない。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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