【海外ライターのF1コラム】疑問点だらけの“スプリント予選”。エキサイティングな週末は実現するのか

 長年F1を取材しているベテランジャーナリストのルイス・バスコンセロス氏が、2021年F1において合計3戦に導入されることが決まった土曜スプリントレース(正式名称“スプリント予選”)について考察した。FIAが4月26日に発表したリリースを見る限り、多数の問題点が見えるとして、バスコンセロス氏は懸念を示している。

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 F1のモータースポーツ担当マネージングディレクターであるロス・ブラウンは、2022年に新たな技術レギュレーションを導入する前に、週末の新フォーマットを試すことを強く希望してきた。彼の願いがかない、2021年シーズンの3戦に限り、土曜にスプリントレースを行うことが決定したわけだが、長年F1を追ってきた情熱的なファンのなかには、これを受け入れられない思いでいる者もいるはずだ。

 ブラウンもF1のCEOであるステファノ・ドメニカリも、ファンからのネガティブな意見を真剣には受け止めず、単に新しいものへの拒否反応として扱うことだろう。だが、この新規則を分析すればするほど、天候が手を貸さない限り、新プランが裏目に出る可能性が高いという思いが強くなる。

 もちろん、私たちは先入観を持たずにこの3戦に臨む必要があるが、すでにシーズン開幕後だというのに、新フォーマットを実施する3戦のうち1戦しか確定していないことには違和感を覚える。今年は、開幕戦、第2戦と、グリッド上ベストのドライバー同士が素晴らしい優勝争いを繰り広げた。スプリントレースを導入するグランプリがこれ以上にエキサイティングなものになるという感触を、残念ながら私は持つことができない。

 新フォーマットの金曜は、午前にフリープラクティス、午後に予選が行われる。2020年のイモラの土曜のような感じだ。そして土曜午前のFP2では、FIAの26日の発表によると、タイヤ1セットを使用できる。ピレリの発表ではセット数に制限はないとされており、この点は不明瞭だが、1セットしか使用できない場合は、意味のある作業を行うことが難しく、ただパワーユニットとギヤボックスのマイレージを消費する形になりかねない。

2021年F1エミリア・ロマーニャGP ピレリタイヤ

 土曜のスプリントレースではピットストップの義務はないため、トラブルが発生しない限り、どのマシンもノンストップで走り切るだろう。100kmのレースはシルバーストンでいえば16周、モンツァでは17周に当たり、ピットストップのロスを取り戻す余地はないからだ。

■なぜ今年、新フォーマットを試さなければならないのか

 日曜のレースでは、通常では予選トップ10のドライバーはQ2で使用したタイヤでスタートしなければならないが、スプリント予選フォーマットのメインレースでは、スタートタイヤを自由に選べる。FIAの説明では「決勝では残りの2セットのタイヤが使用される」とあり、ピレリの説明では「最低ふたつのコンパウンドを使用し、最低1回のピットストップを行わなければならない。ピレリが指定するふたつの義務タイヤを決勝用にキープしなければならない、という規則は有効」とある。

 FIAの意味するところが、「使用できるタイヤが2セットのみ」ということであれば、必然的に全車が1回ストップとなる。これは面白い展開を生まず、誰もが避けたいと思っている事態だ。土曜のレースでアクシデントに見舞われた者が下位グリッドに沈むことはあるものの、全員が理想的なタイヤでスタートし、同じようなタイミングでピットストップを行い、オーバーテイクができないというのであれば、どのようにしてショー的要素を改善できるのか、謎である。新フォーマットを取り入れるなら、ドライバーに戦略の選択肢をいくつも提供できるものでなければならない。しかしピットストップのない土曜レースと1回ストップの日曜レースとなれば、エキサイティングな要素はゼロである。

2021年F1第2戦エミリア・ロマーニャGP セルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)

 不可解な要素はまだある。なぜこの新フォーマットを今年試すのか、ということである。F1とFIAは、2022年に導入する次世代マシンの規定を、接近戦を促進し、オーバーテイクを可能にすることを目標に定めたはずだ。そうであれば、なぜ、将来必要なさそうなフォーマットを今年3回試す必要があるのだろう。もしかして、彼らは、来年のマシンが現行マシンと同様、バトルするのが困難なものになると予想しているのか。そうであれば、今年無理やり新フォーマットを試そうとしているのも頷ける。

 レースごとにフォーマットを変更すると、ファンの混乱と怒りを呼ぶことになるし、複雑すぎて新しいファンを獲得することもできないだろう。

 日曜レースのポールポジションに就くのは、必ずしも最速のドライバーではないかもしれない。それは、F1世界選手権が始まる前からの伝統を投げ捨てることに他ならない。ポールポジションの定義にも議論の余地が生まれる。予選で最速タイムを記録した場合にカウントされるのか、スプリントレースで優勝してメインレースを一番前からスタートする場合にカウントされるのかを決める必要がある。

 FIAは、土曜のレースを“スプリント予選”と名付けた。この名称についても思うところがある。ドライバーが通常の予選よりはるかに多くの周回を走り続けるこのセッションを“スプリント予選”と呼ぶのは誤りであると、私は思う。

2021年F1第2戦エミリア・ロマーニャGP 通算99回目のポールポジションを獲得したルイス・ハミルトン(メルセデス)

 ルイス・ハミルトンは予選で最速ラップを記録したことで99回にわたってポールポジションを獲得してきた。しかし新フォーマットの3戦で日曜決勝のためにポールポジションを確保するには、何周も何周も走ってトップでフィニッシュしなければならない。そう考えると、“スプリント予選”よりも“マラソン予選”と呼ぶ方がしっくりくると、私は感じるのである。

執筆:Luis Vasconcelos/Grandprix.com

2021年F1第2戦エミリア・ロマーニャGP スタート練習

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