憧れのラッパーから応援歌、復活期すBMX中村輪夢  東京五輪で金メダル期待の19歳

自転車BMXパークの中村輪夢(右)とANARCHYさん=京都府宇治市(C)Naoki Gaman/Red Bull Japan

 日本が生んだBMXパークライダーの最高傑作で、開幕が迫る東京五輪で金メダルを期待される19歳の中村輪夢(なかむら・りむ、ウイングアーク1st)。昨年9月に競技人生初の大けがを負う逆境に立たされたが、憧れの人気ラッパーから贈られた応援歌が完全復活への力になっている。(共同通信=大島優迪)

 ▽左足かかと骨折

 東京大会で五輪初採用されるBMXフリースタイル・パーク。「バンク」と呼ばれる斜面やスノーボードのハーフパイプに似た「ランプ」などが設置された人工施設で、制限時間内にジャンプや回転など技の難易度や独自性を競う。けがのリスクと隣り合わせのアクロバティックな空中技が醍醐味で、若者を中心に欧米で人気が高い。

 中村は元BMX選手の父辰司(たつじ)さんの影響で3歳から乗り始め、日本男子ではただ一人、世界の第一線で戦う。辰司さん手作りの台で小学校入学前から練習に没頭し、15歳で第1回全日本選手権の初代王者に。19年11月のワールドカップ最終戦で日本男子初優勝を遂げ、種目別も初制覇するなど五輪へ順風満帆だった。

中村輪夢

 ところが昨秋、東京五輪開幕まで300日を切ったタイミングでライディング中に左足かかとを骨折。すぐに手術し、松葉づえを突く生活となった。地元の京都にある専用施設で1日5~6時間の練習を積む日常から一転し「当たり前が当たり前でなくなった。乗れなくなったら、こんなにきついんか」と落ち込んだ。

 ▽発奮材料に

 中村の所属マネジメント会社代表の塚田邦晴(つかだ・くにはる)さんは「間近で輪夢を見ていて、肉体的にも精神的にもつらそうだった」と振り返る。どうにか励まそうと、中村が憧れる京都出身の人気ラッパー、ANARCHY(アナーキー)さんの力を借りられないかと思い立った。

 中村は中学生の時、同郷のアナーキーさんが経済的に恵まれない環境からはい上がったことを知り「生き方がすごい」と尊敬。その成功物語を、自転車一筋で世界に挑む自身に重ね合わせ「もっと頑張ろうという気になる」と発奮材料にしている。

大けがから復帰し、技を見せる中村輪夢=京都府宇治市(C)Naoki Gaman/Red Bull Japan

 憧れのアーティストが発する歌詞やアップテンポな曲は、危険な技に挑戦する恐怖心を紛らわせ、気持ちを高める支えになる。「音楽があるとないとで自分の気持ちも違うし、ライディングの質も違う」と言い切る。

 「今こそアナーキーさんの曲が必要だと思った」と塚田さん。中村に内緒でアナーキーさんに楽曲のコンセプトを伝えて制作を依頼し、快諾された。

 ▽胸に響いたフレーズ

 4月中旬、アナーキーさんが書き下ろした新曲「HIGH AIR」がユーチューブに公開された。曲名は中村が持ち味とする3メートル超の跳躍技に由来する。挫折や恐怖心を克服し、再び高みを目指せるように、との思いが込められた。

 中村は新曲が完成した際にアナーキーさんとサプライズで対面。「僕にとって音楽は大事な存在というか、なくてはらないもの。アナーキーさんに書いてもらったのは本当にうれしい」と感謝。「僕以外にも、けがや病気で苦しんでいる他の人にも届いたら」と願う。

跳躍する中村輪夢と見守るANARCHYさん=京都府宇治市(C)Naoki Gaman/Red Bull Japan

 サビは「弱音、吐いてもいいんだよ」と呼び掛ける。これまでは練習で頑張っているところや弱い部分を「見せないでいいと思っているし、見せたくもなかった」と気丈に振る舞ってきた中村だが、このフレーズが胸に響いた。「言葉で言われるより、音楽のフレーズに乗っていると『あー、そっか』という気持ちになる。少しは力を抜くのも大事」と心境が変わった。

 1月以降、リハビリを継続しながら少しずつBMXに乗り始め、現在は負傷前と同じ練習量を積めるようになるまで回復した。5月15、16日に開催される復帰戦のジャパンカップ(茨城県境町)は五輪前の数少ない実戦の場となる。「自分が盛り上げたい。いつも通り、かまそうと思う」と気合をみなぎらせている。

アナーキーさんが書き下ろした新曲「HIGH AIR」のミュージックビデオはこちら

https://www.youtube.com/watch?v=Q4hNvyVYrmE

中村輪夢とアナーキーさんが対面した様子を撮ったドキュメンタリーはこちら

https://www.redbull.com/jp-ja/episodes/possible-s1-e2

© 一般社団法人共同通信社