【高校野球】コロナ禍で“完全実力主義”やめた 坂本勇人ら育てた名将が練習量を減らした訳

明秀日立・金沢成奉監督(中央)【写真:川村虎大】

「心の補欠を作らない」コロナ禍で改めた考え

高校野球の春季茨城県大会で、明秀日立は30日、岩瀬日大との3回戦(ノーブルホームスタジアム水戸)に9-2で7回コールド勝ちを収めた。チームを率いるのは、光星学院(現・八戸学院光星)の監督時代に巨人・坂本勇人ら多くのプロ野球選手を育てた金沢成奉(せいほう)監督。その名将はコロナ禍の時代に直面し、「完全実力主義」の方針から大きく舵を切った。

昨夏、甲子園をかけた茨城大会が中止になり、代わりに開催された県独自大会。選手全員に出場機会を与えるため、ベンチ入り人数の枠が撤廃された。明秀日立は3年生全員を出場させ、ベスト4まで進出。準決勝以降は打ち切りとなったため、3年生は負けなしで最後の夏を終えた。その時、選手たちが見せたやり切った表情が忘れられない。

「3年生全員を使って、いい結果を出すことができた。その時のやり切った顔を見て、3年生中心でやっていこうと感じるようになりました。今年は通常通り20人のベンチ入りなので、全員を出すことはできませんが、『心の補欠を作らない』ということを意識しています。自分は補欠だからいいやではなく、全員が試合に出ることを考えさせるのが第一。これは去年からそうしています」

「強面の僕にも意見を言える」感じた生徒の成長

全員野球で勝つ方針に転換し、練習面でも改革を施した。1週間のうち、月曜日は休養日、木曜日は生徒主体で各自の課題に取り組む自主練習に設定。「週2日、生徒に考えさせる時間にしようと。自分も今までは練習あるのみという考えだったんで、勇気出して決断しました」。休ませるのにも、覚悟が必要だった。

チームは変わった。この日、コールド勝ち目前の7回にエース・飯田真渚斗投手(3年)を交代させ、孫大侑也投手(3年)に託した時だった。ベンチで選手たちが発した言葉に、成長を垣間見た。金沢監督は言う。

「球数制限もある中で、飯田を温存したかった。そしたら、永井(龍樹・3年)は『飯田で行きたい』、須貝(将希・3年)は『孫大でいこう』と(意見を言ってきた)。結果としては、須貝の方にしたんだけどね。今までは、意見を言うこともなかったし、聞くこともなかった。強面の私にもちゃんと言えるようになりましたね(笑)」

コロナ禍は世界を大きく変えたが、指導者の考え方も大きく変えた。“心の補欠”がない真の全員野球こそ、新たな時代の旗印になるのかもしれない。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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