【MLB】「こういう勝ち方をしたかった」 菊池雄星を初勝利へ導いた巧妙な配球術

マリナーズ・菊池雄星【写真:AP】

苦戦していたアストロズを7回1安打無失点、今季初勝利を挙げた「こういう勝ち方をしたかった」

■マリナーズ 1ー0 アストロズ(日本時間30日・ヒューストン)

マリナーズの菊池雄星投手が29日(日本時間30日)、4月最後の登板となった敵地でのアストロズ戦で7回1安打無失点7奪三振の快投。今季5登板目にして初勝利(1敗)を挙げた。過去6登板で0勝2敗、防御率6.46の相手を、7回1死まで無安打無失点と翻弄した。チームの連敗を「4」で止めた菊池は「充実感があります。こういう勝ち方をしたかったというものが出せたんじゃないかなと思います」と率直な気持ちを表した。

前回23日のレッドソックス戦では5点を失い今季最短の4回2/3で降板。初黒星が付いたその試合後、菊池は言った。

「優位なカウントを作っていければ、もっと選択肢は増えていたと思います」

投手にとって、ストライク先行の優位なカウントを作り、ウイニング・ショットへの選択肢を広げることは理想だ。その過程にある「配球」と「組み立て」の作業には“駆け引き”という妙味もある。ただ、優位なカウントの作り方は、投手それぞれの技量と考え方で異なってくる。積極果敢に「追い込む」意識の強さが配球に表れていた菊池も、この日は違っていた。

「95、96(マイル)で常に行けたので、バッターは意識してくれたと思う。それに、チェンジアップと、内に入ってくるカットと外から入るスライダーでうまく散らすことができたと思います」

右打者8人を並べた強力打線に、最速96マイル(約155キロ)の速球を見せ球に使い、150キロ近いカットボールを主に内角へ配し、140キロ前後のチェンジアップ、130キロ台前半のスライダーを外角低めに散らした。

「緩急自在」の快投の背景には、優位なカウントを“どう作ったか”が映っていた。

「今日は、ファウルを打たせるカットと結果球にするカットで、出し入れが上手くできたと思います」

頭脳的な投球に生かされたベンチからの観察眼「これまでの3試合で」

水が砂地に染み入るように短い言葉がすんなりと腑に落ちた――。「追い込み」型だった従来の配球に、菊池は「稼ぐ」、「まとめる」の意識を高め、挑んでいった。

根拠のある“禁断の配球”も試みた。それを支えたのが、セットポジションからの“間”だった。

3回2死一塁の場面。直近3試合で4安打の1番アルトゥーベと対峙。外角のスライダーで二ゴロに仕留めたが、菊池は“時間差”を巧みに使った。セットポジションから2球目の始動まで約8秒の静止。3球目を前にして約6秒のホールドから牽制を挟むと、最後に仕組んだのは、仕切り直したセットからの“間”。約3秒のクイックで始動した。3段階の巧妙な技で、菊池は打者に心的揺さぶりをかけ続けた。

この頭脳的な投球には、ベンチからの観察眼が生かされていた。

「これまでの3試合で、真っすぐを、“イチ、ニイーノ、サン”で振って結果を出していると感じたので、(ボールを)長持ちして、遅い球を投げればいい反応をしてくれるんじゃないかなって。コーチと話し合ったのではなく、あの時、そう感じてやりました」

タイミングを真っすぐに合わせたアルトゥーベは、大きく体勢を崩しバットを止めた。その初球の見逃し方も根拠にして、ウイニング・ショットから逆算したとも捉えられるスライダーの3球勝負は「同じ変化球を3球以上続ける」危険をはらむ配球だったが、大事な局面で、見事に答えを導き出した。

過去2年、走者を出してから崩れる投球が顕在化していただけに、観察力と洞察力を合わせた好打者との駆け引きは、今後に大きな意味を持たせるものになった。

「ボール自体はいい」と言い続けて来た菊池雄星が、メジャー46登板目で投球の幅を広げる新たな生面を開いたのは確かだった。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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