<金口木舌>まっすぐな樹木

 野球の投手が球を投げるとき、体の軸がぶれないことが重要になる。軸足で根を張るように大地を踏み、頭の先まで木のように幹を伸ばすイメージで、強固な軸ができる

▼日米通算200勝を達成した野茂英雄さんが、大リーグデビューを果たしたのは1995年5月2日。大きく体をひねるトルネード投法で有名だが、投球開始の動きはまさに大樹。しっかりとした体の軸を基礎にして、力強い投球につなげている

▼同じトルネード投法で沖縄を沸かせたのは、興南高校で2010年の甲子園大会を制した島袋洋奨(ようすけ)さん。大事にしているのは「根」をはぐくむこと。「満開の桜もいつか散るが、根っこがしっかりしていればもう一度咲く」というのは、恩師の我喜屋優監督の教え

▼大学とプロでは思うような結果を残せず苦しんだが「全てが財産になった」と言う。どんなときも野球に傾ける思いを貫き、自らの足場を固める力に変えた

▼野球の指導者を目指し、現在は母校のコーチとして汗を流す。これまでの経験も伝える決意で、今後は学生の成長を後押しする立場になる

▼島袋さんは確固たる根っこを広げ、新たな花を咲かそうと努力を続けている。地に足をつけ、自らの軸を曲げることなく道を切り開いていく。アスリートが描き出すそんな姿に、困難な時代を生きるヒントがあるかもしれない。

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