トヨタ、ハイパーカー時代初レースを8号車が制す「一筋縄ではいかない戦いだった」と中嶋一貴/WECスパ

 ル・マン・ハイパーカー(LMH)規定がトップカテゴリーに採用された2021年シーズンのWEC世界耐久選手権が5月1日、スパ・フランコルシャン・サーキットでの第1戦スパ6時間レースで開幕し、同規定下に新設されたハイパーカークラスに参戦するTOYOTA GAZOO Racingは8号車トヨタGR010ハイブリッド(セバスチャン・ブエミ/中嶋一貴/ブレンドン・ハートレー組)が初レースで優勝をするとともに、ポールポジションからスタートした僚友7号車トヨタGR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ-マリア・ロペス組)も3位となり、デビューレースでワン・スリー・フィニッシュを果たした。

 WECに新しい風を吹き込む“ハイパーカー時代”の開幕戦は、随所でドラマチックなバトルが展開されるレースとなった。現地時間13時30分に晴天の下でスタートが切られたレースは、前日の予選でポールポジションを獲得した7号車が隊列の先頭を切ってスタート。その背後につけたブエミの8号車は11周目にコンウェイを交わして首位に浮上する。

 レース開始から50分過ぎに迎えた最初のピットストップで、早くもドラマが起こる。首位から2番手に後退し僚友よりも先にピットに入った7号車は、ピットアウト時に手間取りタイムを失ってしまう。また、翌周にピットインした8号車も給油時に「最低35秒間は給油ノズルが刺さっていなくてはならない」という規則よりも早くノズルを抜いてしまったことから、次のピットストップ時に30秒間のストップペナルティを科された。

 両車2度目のピットイン後、トヨタの2台はライバルである36号車アルピーヌA480・ギブソン(アルピーヌ・エルフ・マットミュート)に先行を許し、一時は30秒近く離される。しかし、レースの折り返しを迎える直前には、これを猛追するロペス駆る7号車が1.7秒差にまで接近し、ライバルにプレッシャーを与える。
 
 そんななか、7号車は最終コーナーのバスストップ・シケイン入口でGTカーと接触。車両フロント部に軽微なダメージを負ってしまう。その後、ロペスから替わった可夢偉がレース残り2時間を切ったところでコースオフを喫すると、マシンはグラベルに埋まり自力での脱出が不可能な状態となった。

 このアクシデントでトップから丸々1周の遅れを取った7号車は、GT車両との接触に対するドライブスルーペナルティを受け優勝争いから脱落することに。終盤は3位を走行し1周遅れの総合3位でフィニッシュした。

 一方、チームメイトの8号車はブエミからハートレー、さらに一貴へとつないでいくなかでアルピーヌを逆転する。最後のピットストップでふたたびブエミに交代すると、レース最終盤も安定した走りでライバルを寄せ付けず、最後は1分07秒196のギャップを守ってトップチェッカー。見事、新車トヨタGR010ハイブリッドのデビューウインを飾った。

8号車トヨタGR010ハイブリッドのピット作業

■クラッシュを回避も、「厳しいレースになってしまった」と小林可夢偉

「TOYOTA GAZOO Racingのハイパーカーでの最初のレースで勝てたことを誇りに思います。なかなか一筋縄ではいかないレースでしたが、ドライバーとしてやるべきことをこなしました」と語るのは、8号車をドライブした一貴。

「我々はチームとして決勝レースで本当に良い仕事ができたと感じています。チームとすべてのクルーとともにこの勝利を祝いたいと思います」

 7号車の可夢偉は「スタートは良かったのですが、厳しいレースになってしまいました」とコメント。

「コースアウトした際、タイヤをロックさせてしまいましたが、車両を何かにヒットさせることは避けられました」

「不運にもこの時にグラベル上で動けなくなってしまい、レスキューカーにコースに戻してもらうまで待たなければなりませんでした。それまで僕たちのペースは良く、充分に勝利を狙える位置にいただけに残念です」

1位と3位表彰台を獲得したTGRのドライバーたち。左からセバスチャン・ブエミ、中嶋一貴、ブレンドン・ハートレー、マイク・コンウェイ、ホセ-マリア・ロペス、小林可夢偉

 TOYOTA GAZOO Racing WECチームを率いる村田久武代表は、開幕戦が「チームにとって予測のできないドラマチックな展開」になったと述べた。

「(コロナ禍の影響で)世界的に大変な時期にもかかわらず安全にレースできる機会を与えてくれたWECとレース主催者に感謝いたします。我々はいくつかの難しい問題に直面しましたが、メカニック、エンジニア、またドライバーたちの大変な努力のおかげで、表彰台の中央で耐久レースの新時代を迎えることができました」

「レースウイーク中も困難な状況が多数ありましたが、チームは決してあきらめない姿勢を貫きました。実際に可夢偉は、コースを外れ、グラベルにスタックしてしまった後も、わずか数周でトップ車両を追い抜き、この姿勢を体現してくれました」

「今日のレースは、我々の次世代レーシングハイブリッド技術の力強いスタートになりましたが、引き続きGR010ハイブリッドの改善を続け、学び続けていきます」

「今回のスパは、決して順風満帆なレースウイークではありませんでした。ただ、改善すべき点を浮き彫りにできたので次戦前、とくにル・マンの前までにしっかり対応をしていきます」

 歴史的なスパ・ラウンドで2台揃っての表彰台獲得を果たしたトヨタが迎える次戦WEC第2戦ポルティマオ8時間レースは6月11~13日、ポルトガルのアルガルベ・サーキットで行われる。

* * * * * * *

 WEC第1戦スパ・フランコルシャン6時間レースを戦い終えたTOYOTA GAZOO Racingドライバーのコメントは以下のとおりだ。

■7号車トヨタGR010ハイブリッド

●小林可夢偉

「今日はいくつかのトラブルがありましたが、まだまだGR010ハイブリッドの性能を最大限に引き出すための学習途上だということがわかりました。いいパフォーマンスを示すことはできたと思いますが、まだ改善すべき点がいくつか残っています」

●マイク・コンウェイ

「レース中盤まではとても順調だっただけに、このような結果に終わりとても残念だ。いくつかのトラブルに見舞われ、優勝争いからは脱落してしまった。ドライブスルーペナルティだけなら取り戻せた可能性もあったが、可夢偉のコースオフで周回遅れになってしまったことで表彰台が精一杯だった」

「我々はディフェンディングチャンピオンとして、勝利でシーズンのスタートを切りたかったので残念な結果だが、みんなよくやってくれたと思う。素晴らしいパフォーマンスを見せた8号車と、GR010ハイブリッドのデビュー戦で勝利を勝ち取るに値する仕事を成し遂げたチームに祝福を贈りたい」

●ホセ-マリア・ロペス

「まずチームとしての結果には満足している。最初から決勝まで、浮き沈みの激しいレースウイークだったが、重要なのはシーズンの開幕戦で、2台が表彰台に上がり、TOYOTA GAZOO Racingが勝利を挙げられたということだ」

「8号車は素晴らしいレース展開をしていた。我々7号車は、充分に勝てるペースだと感じており、レースでも序盤はやや優位に戦うことができた。しかし、いくつかのアクシデントでそれを失ってしまったんだ」

「GTカーとの接触は後悔している。とても難しい状況だった。今日の結果からは学ぶべきことは沢山ある。我々には今日のレースで勝てるスピードがあったということをポジティブに受け止め、次戦以降も頑張りたい」

ポールポジションからスタートした7号車トヨタGR010ハイブリッド

■8号車トヨタGR010ハイブリッド

●中嶋一貴

「コース上での追い抜きは非常に難しく、ミスをしやすい状況で、アルピーヌや何台かのLMP2カーといった強力なライバルと戦うのは容易ではありませんでした。そんななかで、ミスなく自分たちの役割をうまくこなすことができ、満足しています。一時はどうなるかと思っていただけに、素晴らしい結果です」

●セバスチャン・ブエミ

「ハイパーカー時代の最初のレースで勝つことができて最高の気分だ! このレースに臨むにあたっての、我々へのプレッシャーは大変なものだったからね。7号車がポールポジションを獲得し、8号車が勝てたというのは素晴らしいことだし、僕たちがそれを成し遂げられて本当にうれしく思う」

「この大変な挑戦に向けて、チームはこの数週間ハードワークをこなし、多くのテストを重ねてきたが、そのすべてがこの勝利で報われた。しかし、まだまだ多くの面で改善が必要なことも分かっており、まだスタートは切られたばかりだ」

「やるべきことは沢山あり、すぐにでも戻って作業を始めなければならないが、今日は少しだけ勝利を祝いたいと思う」

●ブレンドン・ハートレー

「この新たなハイパーカー時代を勝利でスタートすることができて素晴らしい気分だ。挑戦なくしてこの結果はなかった。ドライバーとしてはとにかくミスを犯さないことを心掛け、周回ごとに学ぶことがあった」

「トヨタGR010ハイブリッドでの、ダブルスティントの対応やコース上のトラフィック対処といった、昨年までのクルマよりもとても難しくなった課題についても、さらに理解を深めていかなくてはならない」

「とはいえ、この初勝利は本当にうれしいよ! チャレンジングなレースだったが、とても楽しめた」

ジャン・トッドFIA会長とグータッチを交わすブレンドン・ハートレー
3位となった7号車トヨタGR010ハイブリッド
デビューウインを果たした8号車トヨタGR010ハイブリッド

© 株式会社三栄