憲法記念日

 「不要不急の往来自粛を」-国道のメッセージ板に見慣れた文字が並んでいる。〈どうしても必要というわけではなく、急いでする必要もないこと〉-改めて辞書を引いてみたら、載っている意味まで少し申し訳なさそうに見える▲新型コロナの流行が始まって以降、「不要不急」は繰り返しやり玉に挙がってきた。ただ、差し迫った用件に見えない用事や取りやめても支障のなさそうな外出にこそ、実は“その人らしさ”や個性が色濃く潜んでいる。それも分かったこの1年▲きょうは憲法記念日。13条に〈すべて国民は、個人として尊重される〉とある。「不要」や「不急」を一律の物差しで測らない-と真っ先に約束しているように読める▲今は感染防止が最優先、自分の都合ばかり言うまい、と私たちはとても行儀よく、もの分かり良く過ごしてきた。もっと厳しい行動制限が必要、緊急事態に備える国家的な仕組みが必要…そんな声まで聞こえる。しかし、そんな態度を逆手にとられてはたまらない▲道路の電光掲示をもう一度見上げてみる。〈自粛を〉は標語なのか、お願いなのか、指示なのか。誰が発したメッセージなのか、その表示もない。雑だ▲何を根拠に、何の権限で? 時々思い出したように口をとがらせて問う、その姿勢も忘れずにいたい。(智)

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