笠岡諸島 白石島トレッキング ~ 巨石と瀬戸内海の絶景に出会う山歩き

瀬戸内海の島なみの風景を、鳥のように空から眺めてみたいと思いませんか。

笠岡諸島・白石島には、標高約150メートルの尾根沿いにトレッキングコースが続きます。

山を歩きながら、360度ぐるりと瀬戸内海の絶景を堪能できるのです。

空気が澄んだ日には、鳥取の大山(だいせん)や四国の石鎚山(いしづちさん)まで見える眺望の良さ。

また、トレッキングコースにはおよそ30人もの人が登れる巨石や、碁盤の目のような割れ目がある珍しい山肌も。
自然が生み出す造形美に驚かされます。

白石島で暮らす天野 正(あまの ただし)さんと一緒に、白石島トレッキングを満喫してきました。

笠岡諸島 白石島について

白石島ってどんな島?

笠岡諸島は岡山県南西部、瀬戸内海に浮かぶ大小31の島々です。

そのなかで人が暮らしている有人島は7島で、そのうちのひとつが白石島

白石島は笠岡諸島のなかでは、北木島に次ぎ2番目に大きい島です。

また、高島に続き2番目に笠岡市本土から近い島でもあります。

笠岡市の港から船に乗って、到着までは約35分(高速船だと約25分)。道中、しっかり島旅を満喫できます。

今回は笠岡市街地にある住吉港を出発する普通船に乗り、約35分後、白石港に到着しました。

白石島といえば、国指定重要無形民俗文化財の盆踊り「白石踊(しらいしおどり)」が有名。

白石島の御文庫内

源平合戦で流れついた戦死者たちを島民が弔ったのが起源といわれている、歴史ある踊りです。

ひとつの音頭に合わせていくつもの踊りを踊るのが特徴で、男踊り、笠踊り、女踊り、扇踊りなど13種類もの異なる振付けがあります。
全国的にも珍しい踊りです。

白石島の御文庫内

2020年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため中止となりましたが、今でもお盆行事として、毎年8月13日から16日に公民館広場や白石島海水浴場で白石踊を踊る風習は続いています。

そして、「白石島には海水浴で行ったことがある」という人もいるかもしれません。

澄んだ海が美しい白石島海水浴場には、約500メートルにわたって砂浜が続きます。

砂浜のそばには民宿や海の家が並び、夏は多くの家族連れでにぎわいます。

そのため、白石島といえば「夏」、特に海水浴のイメージがあるかもしれません。

けれど、夏以外にも楽しめるトレッキングもおすすめなのです。

白石島トレッキング

トレッキングとは、山の景色を楽しみながら歩くこと。

山頂を目指し、登ること自体が目的の「登山」に対し、トレッキングは山頂を目指すことにこだわらず、山歩きを楽しみます。

白石島の中央部は標高約150メートルの尾根が続き、眺望がよくトレッキングにぴったり。

白石島で生まれ育った天野 正さんと一緒にトレッキングを行ないました。

天野 正さん

白石踊の継承活動にも携わり、白石島公民館長も務める天野さん。

天野さんにとって、白石島の山は幼いころからのあそび場です。

白石島の今昔をたくさん教えてくれました。

白石島でトレッキングを行なう場合の注意点は、以下のとおりです。

  • 滑りづらい靴、動きやすい服装で行く
  • 飲み物を持って行く
巨石にも登れます。滑りづらい靴、動きやすい服装で行きましょう。

今回は以下のルートで歩きました。

  • 白石島海水浴場
  • はと岩
  • 大玉岩
  • 仏舎利塔
  • 白石島港
「笠岡諸島ガイドマニュアル 白石島」より。ピンク色の線が今回のルート。

白石島トレッキングのマップやパンフレットは、白石島港の近くの土産店などで手に入ります。

かかった時間は、トレッキング初心者がゆっくり歩いて約4時間でした。

途中、お昼ごはんを食べたり、写真をたくさん撮っているので、同じルートでももっと早く終了する人もいると思います。

2~3時間が目安とのことです。

白石島でもっとも標高が高い立石山までの道のりは中級者向けとのことで、今回は行きませんでした。

正面に見えるのが立石山(大玉岩より撮影)

また、時間がないかたは、最短で見晴らしのいい「はと岩」まで行き、Uターンして帰るのがおすすめです。
往復1時間程度で楽しめます。

はと岩

ドキドキわくわく! 白石島トレッキング

白石島海水浴場からスタート

白石島港から白石島海水浴場までは約750メートル。西へ歩いて約9分です。

海の風景を眺めながら歩いて行きましょう。

白石島海水浴場の砂浜をまっすぐ進むと、左手に「中西屋旅館」が見えてきます。

中西屋旅館に向かって右手の道が、山への入り口となっています。

随所に木でできた道しるべがあるので、目印にして歩きましょう。

トレッキングルートの入り口付近には、QRコードが入った白い看板が。

読み取ると天野さんが出演する白石島トレッキングについての動画を見ることができます。

八十八カ所祠

途中、道しるべがないけれどおすすめのルートを天野さんに教えてもらいました。

白い建物を左に進むと、木が生い茂る道に入っていきます。

以前は段々畑が広がっていた場所なのだそうです。

昔は薪を燃料にしていたため、山の木はもっと少なかったのだとか。

1947年~1955年、白石島は白石島村として独立した自治体でした。

その頃は約2,400人もの人が暮らしていたそう。

2021年3月末現在、白石島の人口は約420人

風景はがらりと変わっていることでしょう。

右手に祠(ほこら)が現れました。

白石八十八カ所霊場のひとつです。

島内には巨石の傍らに建立された祠が多くあります。石と信仰が結びついているのです。

しばらく林の中を歩いていると、尾根に抜けました。見晴らしがいい道が続きます。

白石島では約35年前に大きな山火事があり、山の木がほとんど燃えてしまったそう。

そのため背の低い木が多いのも、見晴らしがいい理由です。

はと岩

最初の眺望スポット「はと岩」に到着しました。

大きな石には手足をひっかけるくぼみが彫られており、登ることができます。

天野さんは、慣れたようすで登っていきます。

一方、私は諦めようかと思うくらい難しかったですが、よじ登るようにしてなんとか上までたどり着きました。

足がすくむほど、高い! 断崖絶壁です。

遮るものが何もなく、瀬戸内海を見わたせました。

はと岩からは、おもに北・東の方向を眺望できます。

上から見ると、島の地形もよくわかります。

右手に見える山が番屋。

その名のとおり、西国大名の船を望遠鏡で見つけ「そろそろ来られるぞ、準備しろ」と伝えていたそうです。

高山展望台

次の眺望スポット、高山展望台に行くまでの間に、ベンチに腰掛けてお昼ごはんを食べました。

行き交う船を眺めながら食べるごはんは、最高においしいですよ。

とんびにごはんを獲られないように注意してください。

トレッキングルートの途中には、見晴らしのいいベンチやテーブルがたくさんあります。

歩くのに疲れたら風景を眺めながらひと休みしてください。

しばらく尾根を進むと、高山展望台に到着しました。

トレッキング中に私が一番感動したスポットです。

海を眼下に大きな石がせり出し、石の先まで進むことができるのです。

天野さんは簡単に先まで到達していましたが、私は怖くて進めませんでした。

瀬戸内海らしい多島美の風景がすばらしかったです。

高山展望台からは、おもに南・西の方向を眺望できます。

笠岡諸島の大飛島、小飛島、六島、四国本土に加え、この日は肉眼ではうっすらと石鎚山も見えました。

古来から魚見台(うおみだい)として利用されてきた場所なのだとか。

ここから海の魚の群れを見つけ、手旗で船に合図を送り、漁を助けていたのです。

大玉岩

再び尾根を歩き、アップダウンを繰り返したら「大玉岩」にたどり着きました。

最初によじ登った「はと岩」よりももっと大きく、山の下からもよく見える、存在感抜群の巨石です。

なんと、大玉岩にも登れます。

あまりに大きな石なので「どうやって?」と思いましたが、足を運ぶくぼみに加え、手でつかめる鎖もかかっていたので助かりました。

およそ30人もの人が登れるのだとか。大きな石なので、登りきると足元は安定しています。

はと岩よりも高い場所から360度を眺望できます。

穏やかな海と島々の緑が美しく、癒されました。

昼寝をしたくなるくらい、風が気持ちよかったです。

北側から見ると大玉岩はとがっていて、島なみと一緒におもしろい写真が撮れます。

鎧岩

そのあとは「鎧岩(よろいいわ)」に向かいました。

山肌を進むと、ありました。

これが国指定天然記念物の鎧岩です。

基盤の目のように四角い割れ目がずらりと並んでいます。

白石島の石は花崗岩(かこうがん)です。白く見えるため、白石島の名前の由来になったといわれています。

地中でマグマがゆっくりと固まり花崗岩ができる途中、半花崗岩(アプライト)という別の物質が入りこみ、土地の隆起とともに地表に現れたのが鎧岩です。

大男が着る鎧のように見えることから「鎧岩」と名付けられたのだそう。

ほかにも、白石島では間に模様が入った巨石を見かけることがあります。

▼この模様の部分も半花崗岩(アプライト)です。

まるでアートのようですが、自然が生み出したもの。自然の偉大さを実感します。

しばらく進むと鳥居があり、神聖な雰囲気です。

巨石と大自然への祈りがいたるところに感じられました。

仏舎利塔

ふだんの運動不足がたたって足がガクガクでしたが、無事に山をくだり開龍寺(かいりゅうじ)の境内にある仏舎利塔(ぶっしゃりとう)に到着しました。

白く突き出た屋根が特徴的です。

パゴタというタイ式の塔で、タイから奉納された仏舎利(お釈迦様の骨)と釈迦如来像が祀られています。1970年に建立されました。

3回ずつ鳴らす「幸福の鐘」を鳴らしてみました。

高い鐘の音がよく響きます。

開龍寺

真言宗の開龍寺は、1183年の源平水島合戦による戦死者の霊を慰めるために「弘法山慈眼寺」として創建されたといわれています。

また、境内の奥には弘法大師(空海)の像が。

弘法大師(空海)は806年に唐から帰る際に白石島に立ち寄り、37日間の修行をしたと伝えられているのです。

大師堂には、そのときに島に残していった像が祀られています。

雄大な自然と信仰が重なり、大きな石の間にあるお堂。圧巻です。

奥の院の手前には「不動岩」という岩があります。

岩のくぼみに額を当てて、心の中でお願いごとを三度唱えましょう。

白石島港

開龍寺から白石島港までは約1キロメートル。歩いて約15分です。

帰りのフェリーまで時間があったので、港の近くの「嘉惣次邸・泊まりや」に立ち寄りました。

日本地図を作ったことで知られる伊能忠敬(いのう ただたか)らが、1806年に宿泊した場所なのだそう。

離れは「白石島の御文庫」として天野さんが整理を進めています。

中には白石踊に関する資料や、かつて白石島でよく使われていた糸車などがありました。

今後、白石島の伝統文化を知ることができる場所になってきそうで楽しみです。

帰りのフェリーから、大玉岩を見つけることができました。海の近くにはトレッキングをスタートした中西屋旅館も。

「あそこまで登ったのか! がんばったなぁ」と感じながら帰りました。

おわりに

瀬戸内海と巨石の迫力ある景観が楽しめる白石島トレッキング。自然の雄大さを満喫できました。

道しるべが設置されており、道が広く初心者でも歩きやすかったです。

大きな石に登りやすいくぼみが作られていたり、木の階段が設置されていたりと、昔から島のかたたちが山を愛し、親しんできたことが伝わってきました。

また、弘法大師や源平合戦の歴史が宿る開龍寺は厳かな雰囲気があり、背筋が伸びます。

石と信仰が結びついていることを知り、瀬戸内海の絶景を満喫した自分自身も自然を敬う気持ちになりました。

時間や体力に合わせてコースを短縮したり、寄り道するのも楽しみ方のひとつ。

滑りづらいしっかりとした靴で白石島トレッキングを満喫してください。

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