「今はバブルなのでは?」増える現金を運用したいけど踏み切れない33歳男性

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、33歳、会社員の男性。共働きで高収入の相談者。貯まっていく現金を運用に回したいといいますが、今の株式市場の状況が読めず、踏み切れないといいます。FPの秋山芳生氏がお答えします。

現金が貯まる一方で、資産運用に積極的に回したいのですが、今の「過熱市場(?)」の中で資金を突っ込むのにも抵抗があり踏み切れません。どう資産を増やしていけば良いでしょうか?

【プロフィール】

・男性、33歳、会社員、既婚

・同居家族について:妻(27歳)は正社員(いわゆる一般職)

・住居の形態:持ち家(マンション・集合住宅)

・毎月の世帯の手取り金額:90万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:350万円

・毎月の世帯の支出の目安:34万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:17万円

・食費:5万5,000円

・水道光熱費:1万5,000円

・教育費:2万円

・保険料:2万円

・通信費:5,000円

・車両費:2万5,000円

・その他:3万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:56万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:350万円

・現在の貯蓄総額:3,300万円

・現在の投資総額:1,500万円

・現在の負債総額:4,200万円


秋山:ご質問いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナー兼FP YouTuberの秋山芳生です。現金貯蓄が増えているが、株価が上がり続けている市場の中で、資産運用にどれだけ回したら良いのかというご質問ですね。たしかに、NYダウは2021年に入り3月も4月も過去最高を更新し、S&P500も4,000ポイントを突破し伸び続けています。日本においても、TOPIXも1,800〜1,900ポイントと、バブル期以来の高値圏にあります(※2021年5月1日現在)。今、投資金額を増加するのは「高値掴み」の可能性もあるので、慎重になりますよね。このような株式市場でどのようにしていくべきかを一緒に考えていきたいと思います。

高収入なのに無駄遣いの少ない家計!

まず、家計状況や資産状況を確認していきたいと思います。手取りの月収が90万円と、かなり高い状況です。加えて350万円のボーナスがありますね。共働きとのことですが、内訳がわからなかったので、仮に、奥様が一般職で毎月25万円の手取りボーナス50万円として、相談者様の毎月の手取りが65万円+250万円のボーナスとして考えていきます。その場合は、おそらく相談者さまは1,500万円ほどの年収があると想定されます。

負債の4,200万円は住宅ローンだと思います。仮に今後お子さんが生まれて奥様が産休・育休に入ったり、専業主婦になったりしても、住宅ローン月17万円は十分に返済していけるでしょう。家計の内訳を見ていくと、保険が2万円と高い状況です。貯蓄がしっかりとあり、医療費の支払いが可能であれば医療保険は不要と思います。住宅ローンの団信に入っており、奥様も働いていらっしゃることを考えると、死亡保険も不要ではないでしょうか? また必要な場合も少額で良いでしょう。資産形成目的で貯蓄系の保険に入っている場合は、リターンが少なく手数料が高いので、投資信託などの純粋な投資商品にしたほうが良いでしょう。

ただ、全体的な印象は、年収が高いわりに無駄遣いの少ない筋肉質な家計と思います。

貯蓄の合計が3,300万円で、うち1,500万円運用資産とのことですので、1,800万円の現金と、1,500万円の金融商品として見ていきます。資産の内訳で現金が多いので、この現金の部分をどのように投資に回していくかということと、毎月の黒字のキャッシュをどのように運用にまわしていくべきかを考えていきたいと思います。

現在の成長は「バブル」なのか?

この一年、インデックス投資やグローバル分散投資をしている方は、コロナショック後の急成長で資産が大きく増えた方が多いと思います。経済活動がシュリンクしている中で、株価が大きく伸びていることから「バブル」という見方をする人もいますが、現状の経済状況がバブルなのかどうかは、歴史が証明すると思いますので、私にもわかりませんし、株価の急落や不況は定期的に起こります。ただ一つ言えるのは、10年後20年後の株式市場は今よりも大きくなっている可能性が高いということです。

世界経済は発展し続けてきました。この経済発展の原動力は世界の人口増加と、人口あたりの生産性が上がり続けていることが挙げられます。2021年現在78億人とも79億人とも言われています。人口は増え続けて、2055年には100億人を突破していると言われています。

そして、これらから10年20年後の生産性は、5G や6G、自動運転やドローン、AI、量子コンピュータ、ゲノム治療やIPS細胞の実用化などにより、現在とは比べ物にならないほど拡大していきます。このように経済が拡大していくことは、1年単位では実感しづらいですが、10年、20年単位では確実な変化となって現れます。世界全体に投資をして資産を拡大することは、この人類の成長を自分のものにすることとイコールです。

短期目線では、この株価の動向は上がったり下がったりします。また、これから暴落も何度も起こると思われますし、金融不安や政治不安などによって数年にわたり不況になっていくこともありえます。投資は短期目線ではうまくいかないことが多いのですが、10年、20年という期間を前提に経済の拡大を自分のものにする長期投資こそが投資の本質だと思います。

投資をするなかで起こる心理的葛藤

ところが、「長期で運用すれば大丈夫」と、頭ではわかっていても、資産運用をしていると、日々の値上がりに一喜一憂してしまうものです。資産が増えればうれしく、そして、下がれば嫌な気分になります。

行動経済学と言われる学問の中の有名な理論に、「プロスペクト理論」と「アンカリング効果」というものがあります。

「プロスペクト理論」は、損失回避理論とも言われ、たとえば、

A:100%の確率で100万円が当たる
B:50%の確率で200万円当たり、50%の確率で1円ももらえない

という2つのくじ引きが選べるとして、どちらを選ぶか?という質問に対して、Aを選ぶ人が圧倒的に多いという調査結果があります。このクジの期待値はどちらも100万円になり同じなのですが、Bを選ぶと半分の確率で1円ももらえなくなってしまうことがあるのでその損失を回避する意識が働くというものです。人には、とにかく損失を嫌う傾向があるので、冷静な判断ができなくなってしまうというものです。

「アンカリング効果」は、例えば「このツボは10万円より安いと思いますか? 高いと思いますか?」と聞くと、値段の基準が10万円をもとに考えます。ツボは1億を円超えるかもしれませんし、1,000円しないものかもしれませんが、「8万円かな……いや15万円くらするかも?」などと、10万円を前提に近似値を考えてしまいます。

これは、株価が規定されて自分の資産額が増えると、その増えた状態を基準に株価が上がった・下がったと考えてしまうことです。高値を経験するとそこにアンカリングされて、プロスペクト理論とあわさると、高値から損をしたという気分になってしまうことがあるのです。

株価が下がっているときに上記の感情や思考に支配されると、資産を売却して避難する気持ちが働いてしまいます。もちろん損切りをするということは、短期投資の個別株などでは避難行為としても重要なのですが、グローバル分散の長期投資の場合は、売って逃げないことが重要になります。

「稲妻が輝く瞬間」を逃さないために

安いときに買って、高いときに売ることが投資では重要になってきますが、いつが高くて、いつが安いのかを見極めるのは非常に難しいです。また、株価が下がっても当該金融商品を売らずに長期で持ち続けられるようにすることが肝要です。なぜなら、自分にとって「これ以上さがったら怖いから売りたい」と思うタイミングは、他の多くの投資家にとって絶好の買い場になることがあるからです。

チャールズ・エリス教授による投資の名著、『敗者のゲーム』によると、株価が大きく上昇するタイミングを「稲妻が輝く瞬間」という言い方で表しています。例えばS&P500の2,000年までの72年間の分析をおこなったところ、大きく上昇した5日間を除くと、得られた利益は半減していたということです。この「稲妻が輝く瞬間」は、金融不安があって株価が暴落している直後にあることも多く、市場から退場しないことが大切です。売り買いの回数が多ければその分、税金や手数料も発生しますので、長期目線で気持ちを大きく構えて、短期での価格の推移にまどわされないようにしましょう。

現金と投資の割合をどうやって決める?

理想的な現金と投資の割合ですが、基本的な考え方は生活防衛費(生活費の6〜12カ月分など)と、当面のライフイベントの費用(入学費や、住宅購入の頭金など)を現金で持ち、それ以上の現金は、運用しないでいるとインフレ負けするので投資に回したほうが良いというものです。この考え方は、理屈では正しいのですが、実際に株価が大きく下落した場合に現金保有率が高い状態とくらべて、精神的なダメージが大きくなることがあります。ご自身の資産がいつまでにいくら必要かを考えて、必要以上のリスクは追わないことも必要です。この、リスクの許容度は、人によって異なります。年齢、収入、資産、家族構成、によっても大きくリスク許容度は異なりますので、ご自身の状況を考えて無理に投資にまわして現金比率を下げる必要はないかもしれません。

価格変動リスクをコントロールするためには、「ドルコスト平均法」を採用するとよいでしょう。毎月一定金額を定期的に購入することで「良いときも、悪いときも買うことができる」ので、取得価格が安定するというものです。一括投資ではなく、時間分散をしながら、毎月一定額を積み立てていくことで価格の振れ幅の体感は小さくなり、安定感や安心感は増していくと思います。

そして、リスクコントロールの一番の方法は、値動きの異なるアセットクラスへの分散投資です。基本は、株式系のインデックス投資信託と、現金の割合でリスクコントロールすることですが、現金で寝かせていることにインフレリスクを感じるようであれば、米国債券や金などの株とは別の値動きをする資産をもつことも良いでしょう。

投資を続けるための4つのポイント

以上をまとめると、現在の株価が高くても、4つのポイントをおさえることで投資を続けていただければと思います。

1)10年20年先を見据えて、拡大が信じられるものへ投資しましょう
2)プロスペクト理論という損失回避の行動をとりがちなので、自分の精神状況を把握して不合理な資産売却をしないように気をつけよう
3)大きな株式上昇がいつ起こるかは不明なので、金融市場にいつづけることが大切
4)毎月一定額を一定のタイミングで資産購入することが重要

以上を意識しながら、ご自身のリスク許容度を意識して、生活防衛費や使う予定のある現金を除いた金額は、徐々に運用商品に変えていっても良いと思います。以上、参考になれば幸いです。

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