ロッテ唐川侑己はなぜ抑えられるのか? 140キロ前後でも打たれない理由

ロッテ・唐川侑己【写真:荒川祐史】

2020年にセットアッパーとして大車輪の活躍を見せた唐川侑己

ロッテの唐川侑己投手は2007年の高校生ドラフト1巡目で指名を受けて以来、マリーンズ一筋13年の現役生活を送ってきた。地元・千葉県出身ということもあり、若手時代からファン人気も高い唐川。早くから1軍の舞台で台頭して将来を嘱望されたが、その後は相次ぐケガに苦しみ、なかなか本来のポテンシャルを発揮できない時期が続いていた。

しかし、2018年のシーズン途中に、それまでの先発から中継ぎに転向したことが一つの転機となった。同年には中継ぎとして登板した21試合で自責点1、防御率0.36という抜群の成績を残し、リリーフ適性の高さを示した。2019年はやや安定感を欠いたが、2020年は7月末の1軍昇格以降素晴らしい投球を見せ、勝ちパターンの一角に定着。最後まで離脱することなくフル回転し、チームの上位進出にも大きく貢献した。

喫した失点はわずかに4で、失点を許した試合は3試合だけ。実に32試合中29試合で無失点と、数字の面でもその安定感は際立っていた。FA権を所持していたこともあり、シーズンオフにはその動向が注目されたが、ロッテへの残留を選択。頼れるセットアッパーの残留に、胸をなで下ろしたファンも多いことだろう。14年目となる2021年もここまで15試合に登板し11ホールド、防御率0.57(※5月2日現在)と安定した成績を残している。

今回は、そんな唐川がこれまでに残してきた成績をはじめ、セイバーメトリクスの観点による各種の指標や、2020年のコース別、球種別の被打率といった数字を紹介。各種の成績をもとに、唐川が驚異的な安定感を示している理由に迫っていきたい。

ロッテ・唐川侑己の通算成績【画像:パーソル パ・リーグTV】

ストレートと同じ球速帯で変化するカットボールが投球の軸に

まず、唐川がこれまでのキャリアにおいて残してきた、各種の成績について見ていこう。

2010年から2012年、そして2016年と、先発として防御率2点台を記録したシーズンが4度あり、先発投手としても高いポテンシャルを有していたことが分かる。当時は球速こそ140キロ前後ながら、独特の軌道や切れを持ち合わせるストレートを軸に、速球と同じような速度で鋭く変化するカットボール、緩急をつけるカーブやチェンジアップを交え、打者を打ち取っていくスタイルを持ち味としていた。

しかし、相次ぐケガが登板機会のみならず、生命線だったストレートの威力を奪っていくことに。故障の影響で球速がさらに低下したことで、ストレートとの微妙な違いで打者を幻惑する効果を生んでいたカットボールや、軸となる2球種との球速差ありきだったカーブやチェンジアップといった変化球の効果も減少し、打ち込まれるケースも増加していった。

球威が復活した2016年には復活の兆しを感じさせたが、2017年、2018年と2年続けて先発としては結果を残せず。しかし、先述したリリーフ転向によって速球とカットボールがコンスタントに140キロを記録するようになった。新たな持ち場に適応し、再び投手陣の中心的存在の1人となりつつある。

ロッテ・唐川侑己の各種指標【画像:パーソル パ・リーグTV】

奪三振率は低く打たせて取る投球が唐川のスタイル

続けて、セイバーメトリクス的な観点から、各年度における投球を分析していきたい。

先述の通り、唐川は目を見張るほどのスピードボールや、落差の大きい変化球を武器とする投手ではない。そのため奪三振率という点では、若手時代から現在まで高い数値は記録していない。特に2012年は統一球の影響で打球の飛距離が出なかったこともあり、奪三振率3.40と非常に低い数値に。それでも、防御率2.66と投球内容そのものは安定しており、打たせて取る投球が機能していたことの表れと言える。

次は「BABIP」という指標に目を向ける。この指標は、本塁打を除くインプレーの打球が安打となった確率を示すものであり、その特性上、打たせて取る投球が機能していたかを示す数字にもなる。

BABIPは投手自身によってコントロールできる要素が少なく、運に左右される傾向が強い指標とされている。また、特定の期間において平均値の.300から大きく外れる数値となった場合、その後は逆の方向に収束していきやすい傾向がある。ただし、投手の実力が不足しており、痛打を浴びやすいというケースもあるため、あくまで各選手のキャリア平均の値を参考にすべきである、という見方もある。

唐川が記録しているキャリア平均のBABIPは.299。先述した考え方でいえば、これが“基準値”となる。実際、BABIPがこの数値を大きく上回っていた2008年、2014年、2015年、2019年の防御率はいずれも芳しいものではなく、スタイルの通り、味方の守備に左右されるケースが少なくはなかったことがうかがえる。

唐川の投球はロッテ守備陣の堅さにも要因が?

その一方で、BABIPが.200台だった2011~2012年、2018年、2020年はいずれも防御率2点台以下と、やはり味方が打球をアウトにしてくれる可能性の高い年の成績は、かなり優秀な数字となっていた。2009年~2010年、2016年のように、BABIPが平均値付近でも一定以上の数字を残していたシーズンも少なくはないが、2020年に関しては、極端に悪い数字となっていた2019年の反動に近い側面があったかもしれない。

ここで確認しておきたいのが、昨季のロッテのエラー数がパ・リーグ内で最少だったという点だ。チーム全体の投手陣が記録したBABIPも.293と、平均値である.300を下回る数字を記録。昨季のマリーンズが高い守備力を有しており、失点数自体を少なからず減らしていたことが、これらの数字かにも示されているのではないだろうか。

奪三振を狙うというより打たせて取る投球がスタイルの唐川にとっては、2020年のマリーンズは、自身の持ち味を大いに生かせる環境だったということになる。投手のBABIPは年によって変化するものではあるが、この堅い守備が2021年も継続されれば、残留を決断した唐川にとっては、大きなアドバンテージとなるかもしれない。

また、9イニングごとに記録する四球の数を示す指標である「与四球率」では、1点台を5度記録し、平均値も2点台前半と、キャリアを通じて優秀な結果を残している。2015~2016年は3点台と制球力の悪化が見られたが、この数値もリリーフに回ってからは改善の傾向が出ている。制球難から崩れる可能性が低いというのも、セットアッパーとしては頼もしい要素だろう。

9イニングを投げた際の平均被本塁打数を示す「被本塁打率」においては、良いシーズンと悪いシーズンがはっきりと分かれている。2015年、2017年、2019年と、被本塁打率が1点台を超えるシーズンにおいては、いずれも防御率がかなり悪化していた。2019年は年間わずか6四球と優れた制球力を発揮していただけに、本塁打の多さが防御率の悪化につながったのは否めないところだ。

その点、2020年の唐川は年間を通して被本塁打がわずかに1本であり、88.2回で2本塁打しか許さなかった2016年に次ぐ高水準の数字に。与四球率が過去2年間に比べて悪化しながら防御率を大きく向上させた理由としても、一振りで大量失点を喫する本塁打のリスクが極めて少なく、それによって、1失点が2度、2失点が1度、残りの試合は全て無失点と、炎上するケースが皆無だったことも大きいのではないだろうか。

ストレート、カットボール、チェンジアップで全体の88%を占める

続けて、昨季の唐川が記録した、結果球における各球種の割合について見ていきたい。

先発時代はストレートを投球の軸にしていたが、リリーフ転向後はカットボールを多投するスタイルに変化。それに加えて、決め球に用いるチェンジアップと、「曲がらない」ことによってカットボールとの違いを活かす真っ直ぐ、他のボールとの球速差のある落差の大きいカーブといった球種を交え、結果球としてはスプリットの割合が少ない、というスタイルになっている。

次に、唐川が2020年に記録した、球種別の被打率を確認したい。

なんとストレートの被打率が.000。年間を通してストレートを投じた際には1本もヒットを打たれていないという、驚異的な数字を残していた。ただ、2020年の唐川は速球を投じる割合が9.3%とかなり少なく、投球の軸となるカットボールがあるからこそ、打者にとっても打ちにくくなる球種だったといえる。その投球術の効果のほどは、上記の被打率が物語っている。

また、全体の50%を超える割合を占めたカットボールも被打率.224と、ピッチングの中心にふさわしく、安定して頼れる球種となっている。そこに被打率.125のチェンジアップを交えた配球が、2020年の唐川のピッチングを支えていたといえる。この3球種のいずれかを投じる可能性は実に全体の88.1%に及んでおり、それぞれの球種が持つ特性の違いもあって、打者にとっては攻略が難しくなっていることがうかがえる。

その一方で、先発時代は機能していたカーブと、空振りを奪うための球と言えるスプリットの2球種は、いずれも極端に悪い被打率となっていた。このあたりにも、リリーフ転向に伴うモデルチェンジの結果が表れているといえるか。打者の目先を変える効果のあるカーブは9.7%と一定以上の割合で投じているが、先述の通り、より信頼できる球を多く用いながら打者を幻惑するというアプローチは、十二分に成果を上げていると言えそうだ。

ロッテ・唐川侑己のコース別被打率【画像:パーソル パ・リーグTV】

安定した制球や投球バリエーションの変化が唐川を支える武器に

最後に、昨季の唐川が記録したコース別の被打率についても見ていきたい。

ど真ん中では痛打を浴びているものの、それ以外のコースでは真ん中低めを除き、いずれも.250以下という安定した数字を記録している。ストライクゾーンの中で勝負しても打たれるリスクは低いということであり、むしろ、ボールコースに外れる球が打たれるケースが散見されるという点が特徴的だ。

また、ストライクゾーン内に被打率.000のゾーンが3つあり、.125以下のコースも2つ存在している。打たれる可能性が非常に低いコースを多く備えているというのも、唐川投手の投球の安定感を支えている要素だろう。投手から見て右側のコースはいずれも被打率.100と、総じて得意としていることがうかがえる。

このゾーンには決め球のチェンジアップを投じて打ち取るケースが多かったが、真ん中の高さにカットボールを投じるケースもいくつか存在。この場合は右打者にとってはフロントドア、左打者にとってはバックドアとなり、やはり打者にとっては厄介なボールとなりうる。こういった、主力の球種とのシナジーも、このゾーンを得意としている要因の一つといえそうだ。

安定した制球、投球バリエーションの変化、痛打される割合の減少、味方の堅い守備。2020年の唐川投手が目を見張る安定感を維持し続けた理由は多岐にわたるものだ。若手時代とは異なる投球スタイルを身に着けた唐川投手だが、目を見張るスピードボールや大きく変化する球はなくとも、打者を手玉に取っていくという点は今も昔も変わりない。

先発時代からのモデルチェンジを成功させ、リリーフとして主力の座へと返り咲いた唐川。地元出身の生え抜き右腕が2020年に見せた大活躍は、ファンにとっても喜ばしいものとなったことだろう。「いつもありがとうございます 優勝しよう 力をください」。2020年、唐川がロッテの公式ホームページにおいて「マリーンズファンへ一言」という項目で残した言葉だ。自らがまだ経験したことのない、悲願のリーグ優勝に向けて。千葉のファンに愛され続ける成田の希望の星は、今季もチームのためにその右腕を振り続ける。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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