トップ快走中に黄旗追い越しでペナルティ。悔しさを抑えきれずしゃがみ込むARTA福住仁嶺【第2戦富士決勝】

 富士スピードウェイで開催されたスーパーGT第2戦決勝。2年ぶりとなった500kmレースは、数多くの波乱が生まれ、最終的にAstemo NSX-GTが優勝を飾った。しかし、その裏では上位を走りながらも不運に見舞われるチームが多かったのだが、なかでも一際悔しい思いをしたのがARTA NSX-GTの福住仁嶺だった。

 今回のARTAは、第1・3スティントを福住、第2スティントを野尻智紀が担当した。1周目でトップに立ったものの、序盤に入ったセーフティカーが解除されたタイミングでau TOM’S GR Supraの先行を許し2番手に後退。さらに第2スティントに入って一時は4番手まで後退したが、野尻がポジションを挽回していった。

 実は、これまでのARTAはレースペースに不安を抱える部分があったというが、今回は予選と決勝でセットアップを大きく変えるなど、様々な試みを行い、感触としても良いものをつかめたという。

「今回は予選と決勝で、ここまでセットアップを分けて走るというのは、今までやったことはなかったので、今回それをやってうまくいった部分もありました」

「昨年の流れで不安要素はありましたけど、全くそういう感じの動きはなくて、クルマ的にはすごい良かったです」

「でも、もう“少しここはこうしたい”みたいな部分も多少はあるので、そういうところも少しずつ改善できれば、ロングでは強いクルマに仕上げられるなと思います」

 最終スティントではAstemoの塚越広大とのサイドバイサイドのバトルを制し、トップに浮上した福住。そのまま逃げ切りたいところだったが、序盤に争ったauの坪井翔が2番手に浮上し、残り30周を切ったところで1秒差に詰め寄ってきていた。

 なんとか相手に隙を与えずに逃げていた福住だったが、93周目にTOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GTがトラブルでコカ・コーラコーナーの内側でストップ。これにより2コーナーからコカ・コーラコーナーまでイエローフラッグが振られていたのだが、その区間内でGT300車両を追い越してしまったのだ。

「1コーナーを曲がって、GT300の車両が外側に避けてくれて、内側から抜いていこうとしました。2コーナーのマーシャルポストはだいぶ向こうの方にあるんですけど、そこで僕が(コースの)内側にいたので、うまく見えなかったです。

「内側から抜いていったからプリウスが止まっていたのも知らなかったんです。その後のポストでグリーンフラッグが振られていたので、そこで『抜いちゃったかも』と気づきました」

しかし、時すでに遅し。残り11周のところでドライブスルーペナルティが通達され、福住はすぐさまピットへ。最終的に8位でレースを終えた。

 レース後、パルクフェルメでマシンを降りると、悔しさを抑えきれず、その場でしゃがみこんでしまった福住。ヘルメットをかぶったままピットに戻ると、しばらく控え室にこもりっぱなしだった。その後も、8号車のドライバーやエンジニアを囲んでもミーティングもあり、彼に話を聞けたのも、日が暮れた後のタイミングだった。

 福住が黄旗追い越しをしてしまった2コーナーは緩やかに右に曲がって行くのに対し、マーシャルポストは左側に位置していた。さらにGT300をイン側から抜いていたため、ポストのフラッグを確認が難しい状況にもあった。

 加えて、直前のAstemoとのバトルの際に若干の接触があった影響でマシンバランスもおかしくなっている部分があり、坪井が追い上げてきている中で思うように走ってくれないマシンと格闘しながらの状態だった。そしてプリウスが止まったのがテレビ映像に映し出されたのも、福住がちょうど現場に差し掛かる直前のタイミングだった。

“タラレバ”を言い始めれば切りはないのだが、福住はこういった場面でもしっかりと危機回避できる力をチーム全体でつけていかないといけないと語った。

「映像にはプリウスが止まった瞬間が映ったんですが、ちょうど僕がそこ(2コーナー)にいく直前のことだったんですよね。でも、その瞬間に無線で言ってくれれば“ハッ”と気づけた部分もあったかもしれません。誰かのせいとか、誰かを責めるとかではなくて、そういうところも細かく(対策を)していかないと、せっかく調子が良い時に無駄なことをしてしまうことになるのではないかなとは思います」

「チーム全体でどうやったら強くなれるのか、というのをより一層考えることができたと思います。まだまだ僕たち全員で出来ることは何かというのが、新たに気づくことができた1日でした」

「あと、あの場所にいてしまった流れを……今回の長いレースの間に作ってしまったと思います。僕自身、細かいミスがたくさんありましたし、ピットインのタイミングとか、その他にもタイミング的にあまりうまく行かなかったところもあって、少しずつタイムを稼げたところもいっぱいあったと思います。そういうミスをしていなければ、ああいった場面に遭遇しなかったかもしれません」

「本当にうまく噛み合わないと……レースで優勝できないと思います。今日の17号車は、みんなのトラブルやミス、FCY(フルコースイエロー)のタイミングも含めて、全部を利用してトップにクルマを運んでいます」

「僕たちは今まで、前からスタートして前でゴールすることはできていますけど、後ろからスタートして勝つというのは、あまりないです。そういうのって、本当に小さな積み重ねがまだ出来ていないと思うし……本当にレースって、コンマ何秒を争う世界なので。また、洗礼を受けたって感じですね」

 とはいえ、黄旗追い越しのことについては、悔やんでも悔やみ切れない様子の福住。いつも取材の時は「悔しい!」と口にするのだが、今回の悔しいは、いつもとは明らかに違う重たい雰囲気があった。

「まぁ、結果だけを見ると……僕自身はなかなかヘコんでいますけど、今日もそうですし、この前(SF第2戦鈴鹿)も一番前からスタートしたので……。でも、終わってしまったことだし、自分のミスではあります。『見えなかった』とはいえ……あの場所にいる以上は僕のミスだと思うので。なかなか……速くても結果を残せないってことですね」

 本音としては早く帰って、今回のレースのことを忘れてしまいたいところだろうが、福住は、この状況を脱するため、目標としている勝利を掴むため、現実と向き合って解決策を見出そうと踠いている様子が……逆に痛々しくも感じた。

2021スーパーGT第2戦富士 ARTA NSX-GT(野尻智紀/福住仁嶺)

© 株式会社三栄