<社説>こどもの日 健やかな成長、保障せよ

 昨年に続き、コロナ禍の「こどもの日」となった。自宅にこもりがちな日は増え、休校などにより居場所は減った。子どもたちの孤独の深刻化が危惧される。子どもの命が奪われる事態は過去に幾度も起きている。 生まれる先は選ぶことができない。だからこそ、健やかに成長し、幸せになる権利は全ての子どもにある。政府や自治体は、その機会を保障しなければならない。

 収束の見えないコロナ禍による影響は、各種統計に表れている。2020年に自殺した全国の小中高校生は過去最悪となる479人で、前年比140人増だった。政府は今年12月にも、全世代における孤独・孤立に関する全国実態調査を実施する。孤独を感じるようになったきっかけや、社会との交流の有無などを調査項目とする。調査の実施や結果を待たずに、並行して早急な対策が必要だ。

 20年に虐待の疑いで、警察が児童相談所に通告した18歳未満の子どもは10万6960人で前年比8.9%増となり、初めて10万人を超えた。上間陽子琉大教授は、「住」の重要性を指摘している。子どもたちが安全に暮らせる場所を提供するのは行政の責務だ。

 20年における県警の大麻取締法違反の摘発者数は147人で、このうち未成年の摘発者数は全体の17.6%に当たる26人と過去最悪。今年に入り、県内の高校生が覚醒剤取締法違反や大麻取締法違反の容疑で逮捕された。

 那覇少年鑑別所の嘱託医を務めている西村直之医師(精神科)は「逮捕されたのは子どもだけれど、薬物を渡したのは誰か。子どもの知識不足が招いた事態ではない。教育しないといけないのは、大人だ」と指摘する。大人たちは自らの問題として受け止め、襟を正さなけばならない。

 沖縄の子どもの貧困率は29%を超え、全国の倍。コロナ禍に伴う経済の落ち込みで、教育格差につながる負の連鎖を断ち切らねばならない。学びの機会を維持できる支援も必要だ。

 菅義偉首相は「こども庁」の創設に意欲を示し、自民党は次期衆院選の目玉公約として掲げる方針である。幼稚園や保育所といった就学前の子どもの政策や、虐待や貧困など福祉に関わる所管官庁を一元化することで、少子化問題の解決を目指すとしている。だが、そもそも国民は新たな組織の設置を必要としているのか。求めているのは、コロナ禍における子どもの安全や学びの保障、待機児童など、依然として横たわる課題の速やかな改善だ。逼迫(ひっぱく)している現場から先に、人と予算を充てるのが筋だろう。

 子どもたちの健やかな成長は、子育てしやすい環境の裏付けがあってこそ。迫る危険から子どもらを守り、正の連鎖につなげよう。国や県、市町村などの自治体、そして大人の責務である。

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