【レースフォーカス】自己ベストリザルト4位の中上、取り戻した速さが生んだ複雑な感情/MotoGP第4戦スペインGP

 MotoGP第4戦スペインGPで、中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)が復活ののろしを上げた。結果は自己ベストリザルトの4位。3位表彰台のフランコ・モルビデリ(ペトロナス・ヤマハSRT)と0.69秒という僅差でのフィニッシュだった。中上はこの週末前に、ある決断を下していた。
 
 そして、前戦ポルトガルGPで復活を果たしたマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)。フリー走行3回目で大クラッシュを喫したが、決勝レースでは9位でフィニッシュ。いまだ完全復活の途中であることは確かだが、少しずつバイクの改善点にも取り組み始めている。
 

■中上、2種類のシャシー比較という決断

 スペインGP前の木曜日、中上は2種類のシャシーを試すことを明かした。一つは“最新進化版”2020年シャシー、そしてもう一つは2021年シャシーである。理由について中上は「カタールではとても苦戦しました。ポルティマオではカタールよりもよかったですが、まだリヤグリップを失っています」と説明した。
 
 ヘレス・サーキット‐アンヘル・ニエトは中上が得意なサーキットで、2020年には自己ベストリザルトの4位を獲得した場所でもある。カタールでの2戦では大いに苦しみ、第3戦ポルトガルGPではフリー走行2回目で大クラッシュを喫して思うような結果を出すことができていない今季、得意とするサーキットでこれまでの苦戦の原因の一つを洗い出したい、というねらいだったようだ。
  
 なお、ホンダは2020年、特にシーズン前半でこの年ミシュランが投入した新しいリヤタイヤとの適合に苦しんでいた。シーズン後半は上向きになったが、全体としては適合に苦しんだままだった。この問題が今年も尾を引いているのか。
 
 ともあれ、今年に入っては、マルク・マルケスの代役として第2戦ドーハGPまで参戦していたテストライダーのステファン・ブラドルが、そのドーハGP後に「リヤタイヤのトラクションという点で、バイクを改善しなければならないことは明らかだ」と言及していた。総じて、ホンダがリヤ側に改善の必要を感じていることは確かだ。

 金曜日のセッション後、中上はシャシーの比較について「少しだけ、“最新進化版”2020年シャシーの方がいいフィーリングでした。ポテンシャルがあるように思えました」と述べた。

「第一印象としては、“最新進化版”2020年シャシーがいいです。でも、2021年シャシーのことも忘れることはできません。ハンドリング、コーナー進入では2021年シャシーの方がポテンシャルがあります。でも、リヤに対する自信が欠けています。カタールでもポルティマオでも、安定させようとリヤグリップの改善に取り組んできました。けれど、解決策を見つけることはできませんでした」

「“最新進化版”2020年シャシーは2021年シャシーよりもグリップはよかったです。今季、カタールとポルティマオで僕たちが失っていたものでした。昨年の後半のように、ラップタイムも安定しています」

 中上は土曜日以降、“最新進化版”2020年シャシーを使うことに決めた。そして、その決断は功を奏したようだった。フリー走行3回目では今季初めてトップタイムでセッションを終え、予選では2列目5番グリッドを獲得した。

2021年MotoGP第4戦スペインGP決勝 中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)

 迎えた決勝レースでは終盤までアレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)の背後につけ、19周目でアレイシ・エスパルガロ、そして腕上がりによりトップからポジションを落としていたファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)を相次いでオーバーテイク。前を走るモルビデリに0.69秒まで迫る4位でチェッカーを受けたのだった。
 
 今季、自己ベストリザルト。しかし、中上の胸中は複雑だった。決勝レース後、「ピットに戻って泣きました」と明かす。
 
「今日のパフォーマンスはうれしいし誇りを持っています。レースペースはとても速く、リズムをキープできました。最初から最後まで、いいフィーリングだったし、3位までかなり近かったですから」

「レース後は入り混じった感情でした。50パーセントは満足していたのですが、残りの50パーセントは……、がっかりしているわけではないのですが。どう説明したらいいのかわかりません。初表彰台を考え始めていたので、少し残念だったんです」

 それはつまり、悔しい涙が流れるほどの調子のよさを取り戻した、ということでもあるだろう。レースウイークにシャシーを比較するという決断がもたらした結果だとも言えるのかもしれない。中上はシーズン前に行ったインタビューのなかで、今季はチャンピオン争いがしたいと語っている。その目標へ向けた復活ののろしとなった。

■完全復活への道を歩くマルク・マルケス

 マルク・マルケスは完全復活の道半ばにいる。体の状態は完ぺきというわけにはいかず、初日フリー走行2回目では「いつものように走れないと感じた」と言う。体の状態と相談しながら、体力をセーブしつつレースウイークを進めていた。
 
「いつもとは違い、数周だけプッシュした。バイクの上での自分の体の位置を理解するために走ったんだ。そして、すぐに筋肉の力が欠けているように感じた。特に上腕三頭筋と肩の後ろ。そしてひじの位置もいつもとは違っていた」と、フリー走行2回目について語っている。

 そして、フリー走行3回目。マルク・マルケスは大クラッシュを喫した。メディカルセンターのあとに病院へ向かい、心配されたがフリー走行4回目までには戻り、その後のセッションには参加した。さすがのマルク・マルケスも不安だったようだ。
 
「遅かれ早かれ、クラッシュすることはわかっていた」としながらも、「何が起こったのかはっきりと覚えていなかったから、少し怖かった。少し動揺していた」と言う。このクラッシュはマルク・マルケスの予選に影響を与えた。

「フロントにソフトタイヤを履いた。クラッシュしたからだ。ソフトタイヤなら、(クラッシュした7コーナーのような)左コーナーでも安全に感じるだろうと思ったからなんだ。でも、ミスだった。リスクを考えたタイヤを選んだのだけど、パフォーマンスについては考えていなかった。Q1が始まってすぐ、フロント(ソフト)が限界だということがわかった。ピットに入ったけど、もう変更の時間はなかった」

 しかし、こうしたなかでマルク・マルケスは、少しずつバイクについての改善点を感じ始めていた。マルク・マルケスはそのポイントについて、予選後にこう述べている。
 
「昨年と比べて、シャシーが異なるとしてもかなり違ったセッティングで走っている。一つのパッケージからほかのものに変えることはそう簡単なことじゃない。もしシャシーやセッティングで強みがあったとしても、バイクの旋回とリヤタイヤの動きが足りない」

「僕はフロントに集中しているのだけど、リヤタイヤの動きについても理解する必要がある。バイクを起こし、スライドさせるのは僕の強みの一つだから。でも今はそうできない。だから、その部分について取り組んでいる」

 さらに、決勝レース後には「特に僕たちがロスしているのは、コーナーの立ち上がり。通常は速く安定してはしりたいところでロスしている」と言及した。

 マルク・マルケスは第4戦スペインGPを、9位フィニッシュで終えた。自身の回復とともに、少しずつホンダRC213Vの苦戦の原因にも取り組み始めている。マルク・マルケスは確かな復帰の道を歩んでいるようだ。

2021年MotoGP第4戦スペインGP決勝 マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)

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