西村担当相が「マスクつけても感染」を認めたのに…「マスクしていれば濃厚接触者じゃない」の定義を変更しない菅政権の無責任 

西村やすとしオフィシャルサイトより

昨日4日までの全国の重症患者数が1114人で過去最多となったように、深刻さが増している新型コロナの感染拡大。菅義偉首相は本日、「短期集中」と位置づけていた緊急事態宣言の延長を「今週中に判断する」と述べたが、一方、福岡県や徳島県、北海道が「まん延防止等重点措置」の適用を要請するなど、感染拡大は全国規模となってきている。

だが、緊急事態宣言を延長するか否かという判断を下す以前に、この連休中も菅首相のコロナ対応の杜撰さ、支離滅裂ぶりが浮き彫りとなっている。

それは、新型コロナ担当の西村康稔・経済再生担当相が連休中に口にしはじめた「屋外でマスクを付けていても感染する」という問題だ。

西村大臣は2日の会見で「屋外だから大丈夫ということではありません。これまでは3つの密を回避すればいい(と言ってきたが)、ところが1つの密だけでも感染が広がっているケースもある」と言い、さらに「屋外でマスクを付けていても感染が確認される事例の報告が相次いでいる」と言及した。

ちょうど1年前の昨年5月4日、当時の安倍晋三首相が「感染拡大を予防する新たな生活様式」として密集・密接・密閉の「3密」を回避することを国民に提唱し、菅首相も耳にタコができるほど「マスクの着用や手洗い、3密の回避」と繰り返してきた。

ところが、「3密」を回避しても感染は起こると、ここにきてコロナ担当の大臣が明言したのである。

いや、それ以上に重要なのは、「屋外でマスクを付けていても感染が確認される事例の報告が相次いでいる」という発言だ。

●聖火リレーで陽性者が出ても「マスクを着用していた」という理由で濃厚接触者なし

現在、関西圏や首都圏で拡大し、今月中にも全国で主流になると言われている変異株感染者のウイルス排出量は従来型の100〜1000倍にもなるという海外の論文もあるように、感染力はこれまでと比べ物にならない。実際、中高生が屋外でマスク着用の上で会話して感染したという事例をはじめ、換気はもちろんのこと、マスク着用やアクリル板の設置もおこなっていた社内で感染するという事例が報告されている。

換気がなされた屋内だけではなく屋外であっても、マスク着用で感染が起こっている。この事実を受けて、まず早急に見直すべきは「濃厚接触者」の定義の変更だろう。

現状、厚労省が示している濃厚接触者の定義は、「陽性者の発症2日前から、必要な感染予防策をせずに手で触れ合った、または対面で互いに手を伸ばしたら届く距離(1m程度以内)で15分以上接触があった場合」だ。厚労省は〈マスクの有無、会話や歌唱など発声を伴う行動や対面での接触の有無など、「3密」の状況などにより、感染の可能性は大きく異なります。そのため、最終的に濃厚接触者にあたるかどうかは、このような具体的な状況をお伺いして判断します〉としているが、マスクが着用されていた場合は濃厚接触者ではないと判断している自治体は多い。

実際、4月27日に聖火リレーが実施された鹿児島県霧島市は1日、沿道で観客が密集しないよう呼びかけるプラカードを持つ業務に当たっていた職員3人が新型コロナに感染したと公表したが、市は3人がマスクを着用していたため「沿道の市民らに濃厚接触者は確認されていない」としている(読売新聞4日付)。

また、変異株は従来型とは違って子どもを含む全世代が感染しやすくなっていると指摘されているが、大阪府豊中市の小学校で起こったクラスターは、濃厚接触者にあたらないと判断された児童の陽性が確認されたことから全児童にPCR検査を実施したところ、新たに12人の児童の感染が確認されている。だが、学校で陽性者が出ても「マスクを着用していた」というだけで濃厚接触者にはあたらないとして、同じクラスの児童・生徒に検査を実施していないケースも数多い。

一方、西村大臣は3日に生出演した『ひるおび!』(TBS)で「濃厚接触者の範囲を広げている」と発言。たしかに厚労省は4月23日付で自治体に対し「三つの密になりやすい環境や、集団活動をおこなうなど濃厚接触が生じやすい環境にある職場におけるクラスター発生時の検査は、濃厚接触者に限らず、幅広い接触者を対象に検査をおこなうように」という通知を出している。だがそれは、「感染者と部屋が同一、座席が近いなど距離が近い」「寮などで感染者と寝食や洗面浴室などの場を共有する生活を送っている」「換気が不十分、三つの密、共用設備の感染対策が不十分などの環境で感染者と接触した者」といったもので、学校の問題は含まれていない上、「屋外でマスクを付けていても感染する」という感染力の強さに十分対応したものとはなっていない。

政権与党である自民党が党の職員や国会議員と同居家族を対象にPCR検査を実施した一方で、市井では学校や職場で陽性者が出ても「マスク着用の有無」だけで検査がおこなわれないという矛盾。しかも、いまは感染力の強い変異株が拡大しており、明日には連休が明け、学校や職場が再び動き出す。コロナ担当の西村大臣が「屋外でマスクを付けていても感染する」と明言した以上、早急に濃厚接触者の定義を見直し、行政による検査対象の幅を広げるべきだ。

ところが、菅首相は「屋外でマスクを付けていても感染する」という事実を踏まえ、国民に向けて新たな対策を打ち出すということをまるでしようとしないのだ。

●逆に大混雑を招いた鉄道会社への減便要請は、官邸主導だった 菅首相の支離滅裂

とりわけ、こうした菅首相の支離滅裂な姿勢が表れていたのは、人流を抑える目的でおこなわれた鉄道会社への減便要請だろう。要請を受けて連休中の平日だった4月30日にJR東日本や首都圏の私鉄などで朝の通勤時間帯で減便が実施されたが、その結果、大混雑が発生。ネット上でも「ホームに人が溢れかえっている」「減便のせいで満員電車で通勤」などという声があがったが、4月23日付の読売新聞によると、このトチ狂った減便要請は〈内閣官房主導で、鉄道業界を所管する国土交通省との事前調整なしに進められた〉もの。国交省幹部も「連絡は何も来ていない。新型コロナウイルス感染症対策推進室(内閣官房)が頭越しに働きかけたようだ」とコメントしていた。つまり、官邸主導だったのだ。

菅首相の滅茶苦茶な対策はこれだけではない。インドで見つかった変異株感染者はすでに東京都内でも見つかっているが、この変異株は感染力が強いだけではなく、「日本人に多い白血球の型による免疫が効きにくくなる」とも指摘されている。にもかかわらず、インドが水際対策強化対象国に指定されたのは5月1日になってのこと。さらに、いまだに入国後の隔離期間は3日間しかとっていない。

このように、早急に対応すべき変異株対策をまったく打ち出さず、むしろ悪化させるような対策のままでいる菅首相。それどころかこの連休中は、日本会議系の改憲集会に寄せたビデオメッセージではコロナをダシにして改憲による緊急事態条項の必要性を強調したほか、衆院選を睨んで菅首相が頼りにしている選挙プランナーの三浦博史氏をはじめとする選挙関係者や、松田公太・クージューCEOや北見尚之・リストグループ代表といった経営者との面会を繰り返していた。さらに、どう考えても緊急事態宣言の延長をするしかない状況でありながら、「判断が難しい」などと寝言を言っていた始末なのだ。

繰り返すが、いま菅首相がやるべきは、正式な会見を開き、これまで魔法の呪文のように「3密の回避」や「マスク会食」を唱えたことを撤回し、「屋外でマスクを付けていても感染する」という事実を踏まえて、濃厚接触者の定義の見直しをはじめとする抜本的な対策を打ち出すことだ。ところが、菅政権がいま力を注いでいるのは「私権制限ができないから感染が拡大する。改憲が必要」などと必死に喧伝することだけ。これで国民の安全を守れるわけがない。最低最悪の安全保障・危機管理だ。

危機感が圧倒的に欠如し、実効性のある臨機応変な対策を何ひとつとれない。この3回目の緊急事態宣言下であらためて、菅首相の無能ぶりがはっきりしたと言うべきだろう。
(水井多賀子)

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