吉田美和の歌詞が女性に支持されてドリカムが爆発的に売れた理由とは? 1989年 11月22日 ドリームズ・カム・トゥルーのセカンドアルバム「LOVE GOES ON…」がリリースされた日

バブルでイケイケ! ドリカムのデビューは昭和から平成に変わった1989年

Hi, How’re You Doin’ ?

元号が平成になって初めての春、1989年3月21日にドリームズ・カム・トゥルーはアルバムとシングル同時発売でデビューした。この言葉はデビューアルバムの1曲目のタイトルであり、ワンフレーズでもある。

手元の『PATI-PATI Vol.55(CBSソニー出版、1989年7月号)』の見開き広告ページにはデビュー当時のドリカムの魅力がこれでもか、と文章化されていた。

 夢なんか、あっというまにかないます
 日本全国で、なぞの「ドリカム現象」発生
 最新シングル「APPROACH」洗練発売中
 はまった人から幸せになっています ライブツアー開始

… と、1989年7月、8月に開催される東京・日本青年館、大阪・MIDシアター、名古屋・芸術創造センターでのライブが告知され、また、「聴くたびに、恋をしそう。レギュラーラジオ番組放送中」と吉田美和さんがDJをつとめるFM横浜、文化放送、FM802の各番組も紹介されている。

どれもこれも躁状態400%。元号が平成に変わり、それまで暫く続いた昭和天皇崩御までのうっすらとした抑圧が解け、バブルでイケイケドンドンな時代にぴったりフィットしていた。それにしても31年後の今見てみると、異常なほど眩しい。

頭と耳にこびりついて離れない。吉田美和のパワフルな歌声

わたしがドリカムを知ったのも、他の多くのアーティスト同様にラジオ経由だ。大阪で1989年6月に開局した FM802『FUNKY STUDIO 802 MUSIC GUMBO』。毎週月曜22時からは、やたらとテンションが高くて明るく前向きなお喋りをする吉田美和さんが、ドリカムの曲を聴かせる時間。開局当時によく流れていたのは “洗練発売中” と銘打たれた2枚目のシングル「APPROACH」。1986年にスウィング・アウト・シスターがリリースして全世界で大ヒットした「ブレイクアウト」を思わせるリズムと吉田美和さんのパワフルな歌声が、頭と耳にこびりついて離れない。

同級生から2年遅れた大学4回生の初夏。振られっぱなしの就職活動、アルバイト、大学の授業や実習、頼まれてセッティングした医学部6回生と女子大4回生のお見合いの女衒、「俺、シンガポールに転勤になってん」と大阪のカーディーラー勤務の彼氏に振られたりと、振り回されるように忙しい日々を過ごすわたしは、部屋のラジカセやカーラジオから聴こえる吉田美和さんのお喋りと彼女たちのサウンドや歌に否応なしに引き込まれた。そしてたくさんの元気をもらった。

アルバムを聴くと、わたし自身が中学の頃から聴いてきたブラックミュージックやポップスをかみ砕き、消化反映したナンバーがテンコ盛り。かくしてファーストアルバム『Dreams Come True』はウォークマンやカーステレオの常連テープとなった。

よりエモいバージョンとなった「うれしい!たのしい!大好き!」

最初はサウンドとお喋りから入ったドリカムだが、次第に吉田美和さんが描く詞に注目するようになった。あるあるを丁寧に拾って言葉に落としこむ、恋する女の子の気持ちと日常をリアルに切り取る彼女の詞は、1曲で1つ読み切りの漫画が描けそうなくらいだ。

そんなリアル感のある詞が弾けた1曲に「うれしい!たのしい!大好き!」がある。これも「APPROACH」同様スウィング・アウト・シスター「ブレイクアウト」風味の効いた明るくリズミカルなサウンドとヴォーカルが印象に残るナンバー。最初はシングル「うれしはずかし朝帰り」のカップリングで1989年9月1日に発売された後、同年11月22日にリリースされたセカンドアルバム『LOVE GOES ON…』では “EVERLASTING VERSION” としてイントロ部分にエモーショナルなヴォーカルがオンされ、コーラスもミックスも多少違う、よりエモいバージョンとなっている。シングルよりもアルバムバージョンのほうがより “うれしい!たのしい!大好き!” 感が強い。

この曲の2コーラス目に、こんな言葉が載っている。

 わかっていたの前から
 こうなることもずっと
 私の言葉 半分笑って聴いてるけど
 証拠だってちゃんとあるよ
 初めて手をつないでから
 その後すぐに私の右手
 スーパーでスペシャルになったもの

なんて微笑ましいんだろう。スーパーでスペシャルって何ですか、このダダ洩れ感。

もちろん他にもっとキレイな言葉を当てることはできるけれど、こんなに心のうちを表現できるだろうか。あっけらかんと、ザッパーンと、ビッグウェイヴをぶちまけているのが、吉田美和さんの詞が当初女性に支持されて、その後ドリカムが爆発的に売れた一因だとわたしは思うのだ。

好きな人とは手をつなぎたい! 願わくば、これからも永遠に…

好きな人との接触というと、“Kissからはじまるミステリー” もあるが、最初は “手をつなぐ” からだろう。好きな人とはじめて手をつないだときのあのドキドキ感、手をずぅっと洗わずにおきたいと思う気持ち。好きな人と何かの拍子に手が触れたとき、大好きなアーティストの握手会で握手できたとき “手を洗わない!” と瞬間的に思った人は男女問わず多いだろう。だからCDを何枚も購入してアイドルとの握手会に臨むというビジネスが、あんな規模で商業的に成り立っていた。

2020年のコロナ禍以降、フィジカルな触れ合いは控えるものとなってしまっている。濃厚接触も控えなければならない。状況によっては好きな人と会うこともできず、まして手を触れるなんてもってのほかというご時世、それだけに、いま、「うれしい!たのしい!大好き!」の歌詞はとても貴重で愛おしく思えるのだ。

“Hi, How’re You Doin’ ?” と自由に会える世界で、好きな人に逢って、ふたりが望めばキスしたり、その先もできる。だれかの “スーパーでスペシャル” になるチャンスを、これまで神様は誰にでも平等に与えてきた。

願わくば、これからも永遠にそうあって欲しい。

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※2020年5月6日に掲載された記事をアップデート

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