五輪目指す〝看護師ボクサー〟津端ありさの複雑胸中「派遣依頼?地域医療は誰がやるんでしょうか」

東京五輪の開幕まで残り80日を切った。新型コロナウイルス禍は終息の見通しが立たない一方、大会組織委員会は看護師500人とスポーツドクター200人の招集を画策。国民の猛反発を招いている。そんな中、本紙は医療従事者とアスリートの二足のわらじを履く「看護師ボクサー」の津端ありさ(27)を直撃。疲弊する医療現場、アスリートが夢見る五輪――。その両方を誰よりも知る立場から複雑な胸中を語った。

いまや東京五輪の開催に反対する意見は国民の約8割にも上る。その大きな要因の一つが、ひっ迫する医療体制への危惧だ。大阪はすでに医療崩壊寸前で、開催地の東京都も緊急事態宣言の延長がささやかれている。

とても五輪どころではない状況で、組織委は先月に日本看護協会に看護師500人の確保を依頼。さらに日本スポーツ協会を通じてスポーツドクター約200人をボランティアで募集して物議を醸している。

その一方で「何とか開催を」と一縷(いちる)の望みにかける人々もいる。4年に一度の祭典に命を燃やしてきたアスリートだ。看護師とアスリートの〝二刀流〟でもある津端は「どちらの立場も分かるので、本当に複雑ですね」と胸中を吐露した。

現在、津端は東京・豊島区のライフサポートクリニックに勤務。看護師として多忙な日々を送りながら、週5日の夜練習で汗を流す。昨年末まで西埼玉中央病院(所沢市)に勤務しながら、東京五輪女子ボクシングのミドル級代表を狙ってきた。競技に本腰を入れるため夜勤のない現クリニックに転勤したものの、直後に世界最終予選(今年6月予定)の中止が決定。東京五輪の夢はついえたが、3年後のパリ五輪を目指して奮闘を続けている。

組織委による看護師500人の派遣依頼についてどう考えているのか?

「もともとコロナ以前も決まった時間に帰れませんでしたが、今はコロナで大きな負担がかかり、現場はいっぱいいっぱい。さらに五輪に派遣となると、自分たちが働いている地域医療は誰がやるんでしょうか。それが率直な感想ですね」

同クリニックはコロナ患者の受け入れをしていない。「コロナ病棟以外の看護師は多少の余裕があるのでは」との意見もあるが、津端は真っ向から否定する。

「今までコロナの病棟で見ていた患者さんを、他の病棟が受け入れている状況。例えば自分の担当が消化器でも、他の内科の患者さんも見なければいけない。様々な患者さんがどんどん自分の病棟に入って来て本当に大変。今のクリニックもギリギリの状態で回している感じです」

医療現場の窮状を肌で感じつつも、津端にはアスリートとして五輪開催を願う気持ちもある。その葛藤をこう語る。

「一緒に合宿で頑張ってきた子たちは今もメダルを取るために頑張っている。その姿を近くで見ていると、五輪を開催してほしい。でも、地元に帰れば看護師の友人はみんな疲弊して働いている。その姿を見ると、これ以上の負担はかわいそうだなって…」

最後に「五輪開催に賛成か、反対か?」と酷な質問をぶつけると、熟考した末に「本当に難しいです。その答えは分からないです」。

果たして国際オリンピック委員会は最終的にどんな判断を下すのか。

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