「男らしく生き男らしく逝く」演歌に惚れた北朝鮮中学生の苦しみ

羅勲児(ナ・フナ)と言えば、南珍(ナム・ジン)と共に、1970年代の韓国の音楽業界を席巻し、今に至るまで旺盛な活動を続けている伝説的な歌手だ。

朝鮮戦争の戦火を逃れて北朝鮮から避難してきた「失郷(越南)民」の非常に多い釜山で生まれ育ったせいか、作品の中には、「大同江便り」「平壌おばさん」「錆びた鉄路」など、彼らの心情や南北交流への思いを歌った歌も少なくない。1985年には、平壌大劇場でのライブも行なっている。

北朝鮮の若者の間でも広く歌われている彼の曲だが、昨年12月の「反動的思想・文化排撃法」の成立を受けて進められている、韓流取り締まりキャンペーンのターゲットとなってしまった。

平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、球場(クジャン)郡に住む14歳の中学生3人が4月の初め、保衛部(秘密警察)に逮捕されたと伝えた。

その容疑とは、K-POPアイドルのようなヘアスタイルにしてPVを回し見しながら、羅勲児の「サネ」(男)など、韓国の歌を歌ったというもの。それを見つけた同級生の人民班長(町内会長)の息子の密告で逮捕に至った。

3人は取り調べを受けた後の4月3日、少年労働教化所(少年院)送りとなり、非社会主義行為(風紀を乱す行為)を黙認、助長したとして、3人の家族も道内の(チャンソン)郡に追放される処分を受けた。交通至便で炭鉱が多く比較的豊かな地域から、中国との国境に接する山深い地域への島流しだ。

当局は、郡内の教育部門と住民に対して「帝国主義者どもと不順異色分子どもの敵宣物の浸透に高い警戒心を持ち、徹底的に排撃しよう」という集中講演を行い、思想教育に力を入れている。

その場では「敵どもは今、われわれが社会主義の旗を高く掲げ、よりよく暮らそうとしているのが悔しくて、資本主義遊び品風録画物で感受性の敏感な青少年を無慈悲に染め上げようとしている」などといった内容が語られた。

また、今回の事件にも言及した上で「未成年の学生だからと言って、法的に厳罰にできないと思えば大間違いだ。子を持つ親は、しつけをきちんとしなければ、この3人の少年とその家族のように教化され(懲役に処され)、追放されるだろう」と警告した。

使い古されたレトリックを多用して口角泡を飛ばす当局者を、住民は内心嘲笑っていたことだろう。

保衛部と安全部(警察署)は、郡内の住宅に抜き打ちで家宅捜索を行い、デジタルデバイスの登録、再登録事業を進めると同時に、人民班長と人民班の情報員(スパイ)の活動と役割を高めることに関する一連の方針も下した。

取り調べで「南朝鮮(韓国)の歌の一体どこに惹かれたのか」と聞かれた少年は、「男らしく生きて男らしく逝く」という歌詞に胸に迫るものがあったと答えた、という話が、保衛部の要員から家族、そして一般住民に広がり、羅勲児の歌はどんなにいいものだろうと逆に好奇心を煽る結果を招いている。

「見るな、聞くな」と言いつつ、その理由、内容に触れないことから、むしろ好奇心を煽ってしまうのは、今までにも見られたパターンだ。

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