開幕5戦5勝の巨人・高橋よりデータでは凄い…セイバー指標で選ぶセ月間MVPは?

ヤクルト・村上宗隆【写真:荒川祐史】

データで裏打ちされた“開幕ダッシュ”の選手は?

スタートダッシュに成功した選手をデータで探り出し、3、4月の「月間MVP」をセイバーメトリクスの指標で選出してみる。選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。【鳥越規央】

まずは3、4月のセ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。

○阪神:20勝9敗0分
打率.259、OPS.740、本塁打31、援護率4.00
先発防御率2.38、QS率72.4%、救援防御率3.64

○巨人:16勝10敗4分
打率.258、OPS.754、本塁打34、援護率4.59
先発防御率3.14、QS率73.3%、救援防御率3.44

○ヤクルト:14勝10敗4分
打率.246、OPS.728、本塁打31、援護率4.26
先発防御率4.42、QS率32.1%、救援防御率2.91

○広島:13勝15敗2分
打率.260、OPS.696、本塁打23、援護率3.53
先発防御率3.56、QS率50.0%、救援防御率3.14

○中日:11勝15敗4分
打率.227、OPS.591、本塁打11、援護率2.73
先発防御率3.08、QS率53.3%、救援防御率2.13

○DeNA:6勝21敗4分
打率.227、OPS.611、本塁打20、援護率2.96
先発防御率5.34、QS率25.8%、救援防御率4.25

スタートダッシュに成功したのは、阪神と巨人。この2チームで特筆すべきは、先発投手陣の充実だ。6回以上登板かつ自責点3以内で記録される「クオリティスタート(QS)」の割合が、両チームとも70%以上、7回以上登板かつ自責点2以内で記録される「ハイクオリティスタート(HQS)」の割合も阪神41.3%、巨人46.7%と平均の2倍以上の数値を記録している。また阪神の場合、先発が5回以上登板した試合が29試合中27試合という安定感を示している。

ヤクルトの攻撃陣は、上位2チームに引けを取らないほどの得点力を示している。また救援投手陣の防護率も2点台と貢献しているが、先発投手陣の防御率が4点台、QS率も32%。初回失点率が39.3%であるがゆえに、試合を有利に進められない現状がある。

中日はチーム防御率2.78と投手陣の健闘が光り、救援防御率はリーグ1位の2.13。しかし、援護率が2.73と防御率を下回っているため、苦戦を強いられている。11本塁打はリーグ最下位で、2番目に少ないDeNA(20本)の半分程度となっている。

3・4月の“月間新人王”は阪神・佐藤輝明ではなく…

セ・リーグの月間MVPは今月12日に発表予定。ここでは、セイバーメトリクスの指標による3、4月の月間MVP選出を試みる。

【打者部門】
打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。各チームのwRAA上位3人は以下の通り。

阪神:サンズ8.64 マルテ7.48 糸原健斗6.31
巨人:ウィーラー11.55 坂本勇人8.93 梶谷隆幸5.20
ヤクルト:村上宗隆14.85山田哲人11.73 塩見泰隆6.33
広島:鈴木誠也13.08 菊池涼介9.51 羽月隆太郎4.56
中日:ビシエド2.14 大島洋平2.04 木下拓哉1.55
DeNA:佐野恵太7.88 牧秀悟7.63 オースティン2.58

3、4月の打撃3部門のトップは以下の通り。

打率:菊池涼介.358
本塁打:村上宗隆、山田哲人10本
打点:岡本和真24打点

菊池、村上、山田は、wRAAのチーム上位3人の中にいるが、岡本の名前はない。打点は前を打つ打者の出塁率に依存する指標で、セイバーメトリクスによる個人評価の観点とは違うということがわかる。ちなみに岡本のwRAAは2.67でチーム内でも6位となっている。

3、4月で最もチームに貢献したことを示している選手は、ヤクルトの村上だろう。チームがコロナ禍で主力選手の離脱もあった中、全試合で4番として出場。10本塁打、長打率.703、OPS1.138、wRAA11.75でリーグ1位となり、山田とともにヤクルト攻撃陣の核として貢献した。出塁率.457もリーグ2位、打率.297もリーグ8位と好成績で、3、4月のセイバーメトリクス指標によるMVP打者部門に推挙する。

ちなみに、“月間新人王”を設けるとしたら、DeNAの牧秀悟を推挙することになる。開幕から「3番・一塁」として、31試合中30試合にスタメン出場。本塁打6、OPS.859はチームトップ。打点22は村上宗隆と並んでリーグ2位。阪神のルーキーで出場機会の多い佐藤輝明や中野拓夢と比較しても、傑出している。

牧秀悟(DeNA):wRAA7.63
打席数126 OPS.859、本塁打6 打率.288 出塁率.333

中野拓夢(阪神):wRAA3.90
打席数56 OPS.871、本塁打0 打率.340 出塁率.411

佐藤輝明(阪神):wRAA1.70
打席数113 OPS.771 本塁打7 打率.245 出塁率.289

公式の月間MVPは5戦5勝の巨人・高橋らが候補だが…

【投手部門】
投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す「RSAA」を用いる。チームの守備能力と切り離した投手個人の失点率を推定する指標となっている。ここでのRSAAは「tRA」ベースで算出。tRAとは、被本塁打、与四死球、奪三振に加え、投手が打たれたゴロ、ライナー、内野フライ、外野フライの本数も集計している。各チームのRSAA上位3人は以下の通り。

阪神:ガンケル3.61 西勇輝3.55 スアレス2.42
巨人:中川皓太4.07 今村信貴3.81 高木京介1.61
ヤクルト:近藤弘樹4.03 清水昇3.08 奥川恭伸1.31
広島:大瀬良大地5.81 栗林良吏4.34 コルニエル3.85
中日:柳裕也5.96 又吉克樹4.45 R.マルティネス3.31
DeNA:山崎康晃3.63 伊勢大夢1.55 砂田毅樹1.37

公式の月間MVPでは勝利数や防御率が大きく寄与するため、有力候補は2人に絞られるだろう。

高橋優貴(巨人)
5試合 5勝0敗 防御率1.80 奪三振19 奪三振率4.89 被本塁打2
WHIP1.11 QS率100% K/BB1.19

ガンケル(阪神)
5試合 4勝0敗 防御率1.78 奪三振24 奪三振率7.12 被本塁打1
WHIP0.89 QS率80% K/BB3.43

しかし、高橋の名前が巨人のRSAA上位3人の中にない。tRAは被本塁打、与四死球、奪三振の他に、打たれたゴロ、ライナー、内野フライ、外野フライで評価するため、内容の良し悪しが反映されることになる。同じチームの今村信貴と比較すると以下の通りになる。

今村信貴(巨人)
防御率1.62 WHIP1.08 援護率3.08
被本塁打3 与四球8奪三振35 K/BB4.83 BABIP.321
ゴロ58 内野フライ3 外野フライ35 ライナー3 GB/FB1.41

高橋優貴(巨人)
防御率1.80 WHIP1.11 援護率5.45
被本塁打2 与四球16 奪三振19 K/BB1.19 BABIP.204
ゴロ51 内野フライ13 外野フライ35 ライナー9 GB/FB0.89

防御率、WHIPともに今村の方が良い数値に。また、与四球、奪三振の数や比率、打たれた打球の質も、今村の方の評価が高い。勝利数は高橋5に対して今村は2だが、これには援護率やBABIPの差が寄与していると考えられる。

tRAによる投手評価で最もセ・リーグで高い数値を残したのが、中日の柳裕也だ。

柳裕也(中日):tRA5.96
登板5 2勝1敗
防御率2.08(リーグ5位) WHIP0.85(リーグ2位)
QS率80%(リーグ4位タイ) 被打率.194(リーグ5位)
奪三振率10.85(リーグ1位) K/BB7.83(リーグ1位)

柳は3、4月に47奪三振。2位の今村、大野雄大の29に大きく水をあけ、リーグ1位だった。また四球も6しかなく、奪三振と与四球の比であるK/BB7.83もリーグ1位。ゴロとフライの比率であるGB/FBも1.16とゴロの割合が多いことがわかる。内容の良い投球であることを評価して、セイバーメトリクス目線で選ぶ3、4月の月間MVPに推挙する。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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