日本でもキャリア女性の卵子凍結サポートは進むか?試験導入した企業も

仕事などを理由に今すぐではないけれども、いつかは妊娠して出産したいと考える女性に注目されているのが卵子凍結です。しかし日本産科婦人科学会 は、健康な女性の卵子凍結については様々なリスクがあるとして推奨しておらず、希望する女性は自費で大きな金額を負担する必要があります。

一方、米国のFacebookやappleでは、数年前に女性社員の卵子凍結に関する費用を会社が負担する福利厚生制度を導入しました。日本でもこうした動きは続くのでしょうか。

妊活・不妊治療・卵子凍結のクリニック検索サイト「婦人科ラボ」を運営する株式会社ステルラの代表取締役・西史織さんに詳しく話を聞きました。


スカイマークが試験導入

――御社は2020年2月に、スカイマーク株式会社へ卵子凍結・不妊治療の福利厚生プラットフォームの試験導入を開始したと伺いました。詳しく教えてください。

西:不妊治療・卵子凍結の福利厚生サービスを、試験的にではありますが国内で初めて企業向けに提供しました。 弊社の法人向けサービスでは、子供を望むすべての人が最良な選択肢を選べるお手伝いをしております。
具体的には、卵子凍結に関する情報提供や提携クリニックの紹介、産婦人科医や不妊カウンセラーへのオンライン相談窓口などを通して、従業員の働きやすい環境作りを支援しています。

――スカイマーク株式会社以外に、他社も導入は続いているのでしょうか。

西:残念ながらまだ導入していただいた企業はありません。しかし、企業向けのセミナー依頼は増えています。管理職向けセミナーでは、基本的な不妊治療や卵子凍結に関する医療知識のほか、不妊治療のスケジュールなどを伝え、従業員が妊活と仕事の両立をしやすいように理解促進を目的としています。従業員向けのセミナーでは、仕事とライフプランの両立、女性のホルモンバランスの変化、年齢による疾患、妊娠適齢期などを医師からお伝え しています。

米国では人材獲得の一手段に

――米国では、会社の福利厚生として卵子凍結や不妊治療が認められている現状があるのでしょうか。

西:具体的な数やデータはわかりませんが、サンフランシスコの企業にヒアリングした際には、現地では企業が社員のライフプランに関することを福利厚生として支援するのはスタンダードになっていると聞きました。

優秀なミレニアル世代(1980年代序盤~1990年代中盤に生まれた世代)にずっと働いてもらうために、彼女たちの重視するワークライフバランスを大事にしないといけなくなっているのです。

ちなみにFacebookは、卵子凍結の費用補助を福利厚生として導入した後の4年間で、女性従業員割合が向上したと発表しました。また米国で卵子凍結サービスを提供するCarrot Fertilityによる調査では、4割の人が、卵子凍結や不妊治療に対する費用補助を行う企業への転職を希望するという結果も出ています。

弊社が20代~40代の働く女性に調査したアンケート結果でも、「不妊治療等に対する費用補助制度があることは企業にとって有利に働くか?」という質問に、約5割が「転職に有利に働く」と回答しました。こうした福利厚生は優秀な人材獲得や離職率の低下に大きく貢献することは明らかです。

日本で進まない理由

――日本でそうした福利厚生が進まない理由はなぜですか

西:「社員のプライベートなことにどこまで踏み込んでいいのか」と悩んでいる管理職が多い印象です。「福利厚生は男女問わずに享受できるものである べきなのに、女性ばかりが優遇されるのでは」と心配する声もあります。妊活に関する知識や理解がないことに加え、会社としてリスクヘッジを重視するあまり、慎重になりすぎている面も大きいのではないでしょうか。

なぜ拒否感が生まれるのか

――卵子凍結自体への拒否感も日本では男女問わず、まだまだ強いと感じますか

西:女性でも「医療の力を使ってまで子どもをほしいと思えない」と、ネガティブな印象を持っている人もいるでしょう。ただセミナーや現場の先生から話を聞くと、「20代はの仕事に邁進してキャリアを積む。でも妊娠・出産には年齢による限界があるから、若い時の卵子を凍結し、仕事が落ち着いた数年後に妊娠を目指す」と理論的に説明すると、男性のほうが ロジカルに理解する傾向が強いそうです。

若いうちからライフプランを考える

――若年層の女性が卵子凍結を選択するのは日本ではまだまだハードルが高いと思います。しかし、卵子凍結は30代前半までに行うほどメリットが大きいようです。若いうちからライフプランを考えられるようになるには、どうしたらいいと思いますか?

西:10代のうちから性や生殖に関する 知識を正しく理解することが必要かなと思います。年齢によって卵子の状態は変わります。 若くても簡単に自然妊娠ができるわけではないこと、高齢出産のリスク難しさ、多くの働く女性が仕事と妊娠の両立に悩んでいること、一方で卵子凍結という選択肢も あるということなどを知ってほしい。

日本人女性の婦人科受診率は先進国の中でも最低レベルで、子宮頸がんや乳がんの検診率は米国のおよそ半分です。そうした中で、若年層がいきなり婦人科を受診したり専門クリニックに相談に行ったりといったことは難しいとは思います。まずは自分の体や将来のライフプランに目を向け、情報や知識を得ることから始めてほしいと思います。

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