衆院解散総選挙はいつ? 最新版3つのシナリオ(選挙コンサルタント・大濱崎卓真)

シナリオ1 東京都議選と同日の投開票(6月22日公示〜7月4日投開票)

現在考えられる最も早い投開票は、東京都議会議員選挙との同日選挙です。東京都議会議員選挙は6月25日告示・7月4日投開票と決まっていますから、同日選挙とする場合には6月22日公示となります。

東京都議会議員選挙との同日選挙を最も望んでいるのは、自民党東京都連です。3月18日には、東京都連の大御所議員でもある下村博文政調会長が「菅義偉首相の立場で考えれば、選択の幅として都議選と一緒ということも頭の隅にあるかもしれない」と述べています。前回の都議選では都民ファーストの会の躍進を許した自民党ですが、昨年の東京都議会議員補欠選挙では自民党が4戦全勝するなど勢いはあり、衆院同日選にすることで得票を伸ばすねらいがあります。

一方、最も望んでいないのは公明党でしょう。公明党の石井幹事長は3月18日の記者会見で、「オリンピック直前の時期に全国で選挙を行い、終了後に特別国会を開くことなどを考えると現実的な選択肢ではない」と述べるなど否定的な見方を示しています。創価学会の設立の経緯から伝統的に東京都議会議員選挙を重要視する公明党ですが、過去3回の都議選では(第一党が民主、自民、都民ファとめまぐるしく変わる中)23議席をしっかり確保してきたことからも、今回も安定的な選挙をしたいという考えが透けます。ところが近年では保守分裂の選挙において公明党が保守系候補から離反する動きが情勢調査などからみられるほか、公明党支持者の高年齢化やコロナ禍における運動力低下も指摘されており、これまでにない厳しい戦いが予想されます。

現実的には、これに加えてコロナ禍の影響を考える必要があります。緊急事態宣言は5月31日まで延長となっていますが、この日までに緊急事態宣言が必ず終わる保障はありません。緊急事態宣言を延長したり区域変更をする場合には、国会への報告が必要となっていおり、現在も宣言の発出や延長、区域変更の場合には衆議院・参議院それぞれの議院運営委員会で事前報告がなされています。仮に6月に入っても延長や区域変更がなされるようなことであれば、報告先となる衆議院が解散していれば(仮に参議院だけに報告をするとしても)立法府への報告が疎かになるということにもなりますから、望ましくない形と言えるでしょう。

 

シナリオ2 お盆明けの解散総選挙(8月24日 or 8月31日公示〜9月5日 or 9月12日投開票)

次の可能性は、お盆明けの解散総選挙でしょう。菅総理は4月23日の記者会見で「総裁としての任期の中で機会を見て、衆院解散・総選挙を考えないといけない」と述べました。自民党総裁選の任期について問われた質問で、自ら衆院解散総選挙に触れたことからも、菅総理は総裁任期中の解散総選挙に前向きなのでは、と捉えられています。

ただ、8月中の衆院解散・総選挙は非常に例が少ないのも事実です。戦後、衆院解散が8月となったのは昭和27年の「抜き打ち解散」と平成17年の「郵政解散」のみです。特に8月6日の広島原爆の日、8月9日の長崎原爆の日、8月15日の終戦記念日の5日間を挟む形での衆院選挙は戦後一度もありません。麻生政権における解散で自民党が大敗した平成21年の「政権選択選挙」も、7月21日に解散したにもかかわらず公示は8月18日と、現行憲法上最長期間(解散から投票まで40日)に設定されました。これは自民党が大敗した東京都議会議員選挙の影響を遠ざけることも理由としてあったほか、やはり原爆の日、終戦記念日を挟む形での総選挙を忌避したいという考えがあったと言えるでしょう。

政府は自治体に対して、コロナワクチンの接種のうち、65歳以上の接種は7月末までに終わらせてほしいと要請を出しています。このことからも、8月上旬に解散をし、8月末からの選挙戦という流れを想定しているのではないか、という推測に繋がっています。

冒頭に戻りますが、菅総理としてはこの形の選挙であれば、総選挙で自民党が勝利(「勝利」の基準をどこに置くのかがまた問題になりますが、「自公で3分の2」などが設定ラインではないでしょうか)し、直近の選挙で勝ったばかりの総裁を変える必要はないという総裁交代不要論に繋げていきたいという思惑があります。衆院選投開票後直後に自民党総裁選を告示すれば、総裁選への立候補見送りが相次ぎ、無投票となる可能性も否定できません。

ただし、ここまで述べてきたことをひっくり返すことになりますが、この日程は東京オリンピック・パラリンピックと日程が重複します。貴重な外交の場でもある東京五輪期間中に、衆院解散総選挙を行うことは現実的に難しいでしょう。そうなると、このシナリオ2は「東京五輪延期もしくは中止」の条件付きシナリオとなるはずです。もちろん、菅総理が東京オリンピック・パラリンピックの開会中に強行する可能性もありますし、更に1週間遅らせて、パラリンピック閉幕直後の9月7日公示〜9月19日投開票とするプランも考えられるでしょう。

 

シナリオ3 任期満了直前の解散(10月12日公示〜10月24日投開票)

最後に考えられるのは任期満了直前の解散です。今春には自民党国会議員事務所に以下のような記載がされているペーパーが出回りました。

・9月7日 自民党総裁選挙告示
・9月20日 総裁選挙投開票日(総裁決定)
・9月22日 首班指名
・9月27日 解散
・10月12日 総選挙公示日
・10月24日 総選挙投票日

この日程は、現在の衆院議員の任期を考えれば、理論上最も遅い形での解散総選挙です。総裁選挙を行い、新総裁の誕生(含む、菅総裁の続投)を経て、解散総選挙に臨むことができます。また、パラリンピックの閉幕後に総裁選を行い、その結果を経て解散総選挙となれば、9月は総裁選に関する報道が相次ぐことで、自民党に有利に働くということも言えます。

ただ、鍵となるのは総裁選の行方です。自民党総裁選は、昨年の安倍総裁の任期途中による辞任とは異なり、任期満了によるものですので、党員投票なども行われる見込みです。総裁選には菅総裁も出馬する見込みですが、このほかにも前回出馬した岸田氏、石破氏をはじめ、河野氏、小泉氏らの立候補も噂されていますし、西村氏、下村氏、野田氏らの名前も上がっています。菅総理の内閣支持率は必ずしも高くなく、一時期は急激に低下するような現象も見られたことから、総裁選は総裁選で注目となるでしょう。既に派閥間での牽制もはじまっていますが、これら一連の動きが報道されることが自民党にとってプラスなのであれば、もしくは東京五輪が開催されれば日程上、シナリオ3となる可能性も十分にあるでしょう。

いずれにせよ、シナリオが非常に限られてきたのは事実です。コロナ感染状況やワクチン接種の状況、さらに東京五輪の開催可否というパターンによってこの中のシナリオのどれになるのか、引き続き注目していきたいと思います。

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