<社説>国民投票法成立へ 改憲前提のザル法見直せ

 自民党をはじめとする改憲勢力にとっては「一歩前進」だろうが、果たしてそうか。 6日に衆院憲法審査会で可決された国民投票法改正案のことだ。「問題点が無数にあるザル法」(照屋寛徳衆院議員)とまで酷評される。

 最大の問題は投票率の下限が定められていないことだ。少数の「大きな声」によって最高規範である憲法を変えてよいはずがない。改憲を前提とした議論は封印し、改正案自体を見直す必要がある。

 通常の法律は過半数の賛成で改正できるが、憲法を変える発議には衆参両院で3分の2以上の賛成が必要となる。

 これほど厳しい要件を定めるのは、基本的人権など国民を守る憲法が多数決の論理に流されないためだ。憲法に関わる国民投票は、有権者の大半が認めたときに初めて効力を発する制度であるべきだ。

 仮に国民投票の投票率が30%だった場合、70%の賛成を得たとしても国民の20%が改憲案を認めたにすぎない。それで国民の信任を得たといえるのか。最低投票率を定める規定は絶対に必要だ。

 自民と立憲民主の合意により公平性を担保する広告規制などが検討事項として付則に盛り込まれた。ただし「3年をめど」とするものの実現するかは不透明だ。投票自体を困難にしかねない共通投票所設置も改正案に含まれる。こうした課題が法そのものへの懸念を生んでいる。

 資金力のある政党や団体が著名人を起用したテレビCMを大量に発信すれば、世論を望む方向に誘導できる。一方で資金力に乏しい側は十分に主張が届かない。

 表現の自由との兼ね合いもあり、規制は最小限にとどめるべきだが、最も公平性が求められるべき国民投票で一定の歯止めは必要だ。

 利便性向上をうたう共通投票所は、商業施設などへの設置を想定している。だが、設置によって小規模の投票所が閉鎖されては本末転倒だ。交通弱者らの投票機会を奪うことにつながりかねない。

 秋までに実施される総選挙をにらんだ政党間の駆け引きで、国民投票の手続きが決まるのは問題である。改憲の中身まで議論するのは論外だ。

 自民党の下村博文政調会長は改憲に絡めて「コロナのピンチを逆にチャンスに変えるべきだ」と述べ、野党から批判を浴びた。

 自民党改憲案にある緊急事態条項の導入を念頭に置いたものだ。これまでの政府の感染症対策を検証せず、一足飛びに改憲と結び付ける発想は「火事場泥棒」と評されてもやむを得まい。

 自衛隊の役割拡大や私権制限を拡大する自民党案が実現すれば、基地機能の強化や防衛施設周辺の土地利用規制など沖縄に甚大な影響が及ぶ。

 国民のものである憲法を未来にどう引き継ぐか。国民の声を正確に受け止める仕組みづくりは十分な時間がいる。拙速な議論は避けるべきだ。

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