金型の製造を手掛ける横浜の町工場が、目新しいフェースシールドを開発した。フレームを首に掛けて装着できるため、髪形や化粧が崩れず、飛沫(ひまつ)の拡散も最小限に防ぐ。ものづくりに対する使命感が生んだ新製品は、テレビや映画の制作現場から引っ張りだことなり、今や本業をもしのぐ売れ行きを示す。
女性モデル2人が掲載されたパンフレットからは、洗練された雰囲気が漂う。「顔に、触れない。髪形も、崩さない」。そんなキャッチコピーとともに、大高製作所(横浜市都筑区)は今年2月、首掛け型のフェースシールド「レイヤード」を発売した。
「いい製品だからこそ、ブランディングには力を入れている」
大高晃洋社長(47)はそう話す。創業から35年を過ぎて初となる新規事業。それでもPR会社と契約を結ぶなど、広告宣伝費は惜しまない。追加の費用を投じ、独自の販売サイトまで開設した。
絶対的な自信の根底に、高い機能性がある。ものづくりの技術を注ぎ込み、縦34センチのシート部分を胸元まで覆う形状に改良。飛沫が下方向へ飛び散りやすい弱点を克服したという。
その効果は一目瞭然だ。大手空調会社の協力を得て、飛沫の飛散状況を「可視化」した検証動画を制作。試験者がレイヤードを着けて発声する様子を撮影し、「拡散をほぼブロックできる」(大高社長)と実証した。
斬新な首掛けスタイルと性能の両立が、コロナ禍でもメークを崩したくないという需要をつかむ。NHKの連続テレビ小説「おちょやん」の撮影現場をはじめ、映画やファッションショーの現場から注文が相次いでいる。
わずか数カ月で販売個数は2万個に迫り、レイヤードの売り上げが本業の金型製造を上回る月も出てきた。
「小さな町工場に『第2の柱』が育った。四六時中、改善点を考え抜いた成果かな」