希望のトーチ

 中学1年のとき、学校に行けなくなったが、なぜかクラブ活動の陸上だけは続けられたという。仲間も温かく見守ってくれた。高校生のいま、コーチ、先生、家族、仲間に走る姿を見せたくて、その青年はランナーを志望したらしい▲聖火リレーがきょうまで県内を巡る。走る姿をネットで流す画面では、ランナーの「志望動機」も同時に読める。長崎で被爆した81歳の方は「核なき世界」を願って走る、と記している▲難病で長い入院生活を経験し、今は看護師という男性は、人に生きる希望を届け、「コロナに勝つぞ」と誓っていた。トーチの炎は、その人が胸にともす願いや希望の火なのだと知る▲リレーは多くの人を元気づけるはずだが、では、これで五輪開催の機運が高まるのか、確かなことは言い難い。リレー初日の到着地、長崎市ではコロナ感染が広がり、県独自の緊急事態宣言がきょう出される▲全国的に第4波が収まる気配はない。なのに菅義偉首相は、五輪を「コロナに打ち勝った証し」「世界の団結の象徴」として開くのだと、勇み足の大義を言いっ放しにしている▲何のために開くのか、真正面から語られないまま「とにかくやる」方へとひた走っている。それとは対照的に思えるからか、聖火ランナーが掲げる願いや希望の火がやけにまばゆい。(徹)


© 株式会社長崎新聞社