福山市民に親しまれているグルメといえば「関東煮」や「肉めし(肉丼)」があります。
どちらも福山中心部にあった大衆食堂 稲田屋が有名でした。
でも稲田屋のほかにも関東煮・肉めしが人気の店があるのです。
それが福山市北部・御幸町(みゆきちょう)にある「大衆食堂 服部屋(はっとりや、以下 服部屋)」。
昭和30年代より営業し、地元で愛されている老舗の食堂です。
しかも服部屋は関東煮・肉めしに加え、中華そばも人気。
服部屋の中華そばは、ほかの食堂やラーメン店では味わえない、独特の味わいです。
大衆食堂 服部屋の魅力や歴史を紐解いていきます。
服部屋は福山市御幸町で昭和30年代から続く老舗の大衆食堂
服部屋は、福山市の北部にある御幸町の大衆食堂です。
もともと昭和30年代に、御幸町中津原(なかつはら)で営業を始めました。
そして平成26年(2014年)8月に、約1.7キロメートル西、中津原の西隣の地区・森脇(もりわけ)に移転。
昭和の雰囲気を残した店舗から、新しい建物へ一新しました。
新しい店舗は幹線道路沿いで、駐車場も広いので、旧店舗より行きやすくなっています。
服部屋は長年にわたり地元のかたに愛され、さらに近くを通る仕事中のかたのごはん処としても人気です。
今では市外から訪れるほどのファンもおり、岡山県倉敷市などから食べに来る家族客もいるそう。
服部屋の建物は新しいですが、店内はまさに大衆食堂といった趣です。
店内は10人がけのテーブル席が3卓、4人がけの座敷が3卓あります。
テーブル席は、1人や少人数の場合は基本的に相席となります。
1人でもグループや家族連れでも、気軽に食事ができるのが服部屋の魅力です。
服部屋のメニュー
価格は消費税込。 令和6年(2024年)1月時点の情報
服部屋は大衆食堂ですが、単品メニューが中心です。
ほかにも「日本そば」が2種類、「うどん」は3種類。
このうち中華そば・肉日本そば・肉うどんには、甘く炊いた肉が具材として入っていて、人気です。
また中華そば・うどん・そばなどの麺類と、ミニ肉めしのセットメニュー「ミニ肉めしセット」もあります。
牛すじ煮もありました。
そのほか、おでんも人気です。
おでんの具も豊富で、選ぶのも楽しみのひとつ。
このほか、セルフサービスで「むすび」(130円)と「漬物」(30円)も。
肉めし・めしを注文した場合は、漬物は無料になります。
服部屋のメニューは、どれも甘くて昔懐かしい味わいなのが特徴です。
福山中心部にあった大衆食堂 稲田屋と同じような、福山の地域に昔から根付いた郷土の味が楽しめます。
服部屋の注文方法
服部屋は、セミセルフサービスを取り入れています。
そこで服部屋での注文方法を紹介しましょう。
なお、支払いは食後です。
関東煮・おでんは、その場で盛りつけて出してもらえます。
それ以外は、注文したら空いている席に座って待ちましょう。
できあがったら店員に呼ばれます。
厨房前まで取りに行き、自分で料理を席まで運びましょう。
返却口は、厨房に向かって一番右側にあります。
食器を返却したら、返却口のすぐ左側にある勘定場で支払いをしてください。
服部屋では一部メニューの持ち帰りが可能!
服部屋では、一部のメニューが持ち帰りできます。
持ち帰りメニューは、以下のとおりです。
- 肉めし
- 関東煮
- おでん
- おでん弁当
なお、店内飲食とは価格が異なります。
また店内飲食は予約ができませんが、持ち帰りに限り事前に電話注文ができます。
あらかじめ注文しておけば、持ち帰りがスムースにできますね。
おすすめのメニュー紹介
数ある服部屋のメニューのなかから、人気のメニュー、店おすすめのメニューを紹介します。
「中華そば」は服部屋独自の味わい
服部屋のおすすめで、なおかつ一番人気のメニューが「中華そば」(730円)です。
服部屋の中華そばは、醤油味。
しかし、一般的な中華そば・醤油ラーメンとはひと味違います。
多くの中華そば・ラーメンには、チャーシューがトッピングされていますよね。
服部屋の中華そばは、チャーシューの代わりに甘く炊いた肉が載っているのです。
スープを飲むと醤油辛さはなく、甘めの味わいが広がり、そのなかに魚介の風味が香ります。
さらに肉にシッカリと染みている濃く甘い味が、スープにも広がっているようです。
肉を食べると、甘い味わいと肉のうまみがダイレクトに楽しめ、クセになります。
さらに、具材のモヤシのシャキシャキ感とみずみずしさがよいアクセントになりました。
麺は太めで、モッチリとした食感です。
服部屋の中華そばは、懐かしい甘い味わいと魚介の風味のきいたスープが独特で、ほかでは味わえないと思いました。
「肉めし」は甘く煮込まれた味付けがやみつきに
「肉めし」(小盛 530円、並盛 650円、大盛 800円)も長い間お客さんから高い人気をほこる、服部屋の代表メニューです。
船町商店街にあった大衆食堂 稲田屋の「肉丼」のような、甘い味付けがシッカリと染み込んだ牛肉がごはんの上に載っています。
肉には、シッカリと甘い味付けが染み込んでいます。
さらに、脂身の甘みも感じられました。
服部屋の肉めしは、牛細切れ肉を使っているそうです。
ほかの具材として、細切りのタマネギやニンジンが入っています。
そして、上から刻みネギ。
タマネギにも甘い味がシッカリと染みていてい、タマネギ自体の甘みもあり、2種類の甘さを感じました。
シンナリとしているが、わずかにシャキッとした食感があります。
またニンジンのホクホクとした食感や、ネギのシャキシャキ感がアクセントになっておいしいです。
服部屋の肉めしの濃い甘さは、どこか懐かしい味わい。
ごはんの味と非常にマッチし、箸が止まりません。
また、肉めしと一味トウガラシの相性は抜群です。
ちなみに肉めしは、沢庵(たくあん)つき。
また肉めしは、プラス150円で大盛にできます。
「関東煮(串)」は牛の肺と豚の小腸の2種が一串に
中華そば・肉めしと並んで服部屋を代表する人気メニューが「関東煮(かんとうに)」(1本 160円)。
服部屋では「串(くし)」とも呼ばれます(以下、関東煮)。
肉めしと同じく、稲田屋の関東煮のように牛・豚の内臓肉を串に刺し、濃く甘い味付けで煮込んだものです。
福山市民の心の味ともいえる関東煮を、服部屋でも楽しめます。
別名「フワ」と呼ばれる肺のフワフワとした食感と、小腸のプニっとした弾力のある食感の、2種類の食感が楽しめておもしろいです。
噛みしめるごとに口の中に広がる、甘くて懐かしい味わい。
たまりません。
シッカリと煮込まれているのがわかります。
また、一味トウガラシをかけるのもおすすめです。
甘い味わいのなかに、ピリッとしたアクセントが生まれます。
私は関東煮を串から外し、白米の上に載せて食べるのも好きです。
なお服部屋では、関東煮は持ち帰りでも人気があります。
「おでん」は中までシッカリと甘い味が染みている
服部屋では「おでん」(各 140円)も人気があります。
おでんの種類は豊富なので、選ぶ楽しさも魅力ではないでしょうか。
- とうふ
- ごぼう天
- だいこん
- こんにゃく
- ちくわ
- ひら天
- がんも(がんもどき)
- 玉子
取材時はこのなかより、とうふ・ごぼう天・だいこん・こんにゃくを注文しました。
服部屋のおでんは、関東煮と同じように濃く甘い味付けです。
そのためおでんの汁は、濃い焦茶色。
そしておでんの各具材も、濃い焦茶色に染まっています。
具を割ってみると、どれも中まで茶色く染まっていました。
よく煮込まれて、味がシッカリと具に染みているのがわかりますね。
実際に食べてみると、どの具も本当に中のほうまで甘い味わいが染みています。
具材そのものの味に甘い味が付いて、よりおいしくなっていました。
服部屋のおでんは、ほかとは違う、クセになる味わいです。
「肉うどん」は肉のうまみと甘い味付け・ダシの風味が楽しめる
「肉うどん」(620円)もファンが多いそう。
さらに、生卵がトッピングされた「肉玉うどん」(680円)もあります。
取材時は、肉玉うどんを注文しました。
濃い焦茶色のツユは、魚介のダシの風味が広がり、牛肉から染み出た甘みも楽しめます。
もちろん牛肉は、シッカリと濃く甘い味わいが染み込んでいました。
肉のうまみとツユの味わいのコンビネーションが最高です。
うどん麺は太め。
柔らかめのしなやかな麺です。
麺にツユがからみ、そこへ肉のうまみ・甘みが加わってなんともいえないおいしさになります。
生玉子を割ると、玉子の風味とまろやかさで、また違ったおいしさになりました。
長年にわたり、御幸町の地域で愛されている大衆食堂 服部屋。
店主の栗原秀幸(くりはら ひでゆき)さんに話を聞きました。
服部屋の店主・栗原 秀幸さんにインタビュー
長年にわたり、御幸町の地域で愛されている大衆食堂 服部屋。
店主の栗原秀幸(くりはら ひでゆき)さんに開業の経緯や店の歴史、店を継承した理由、今後の展望などの話を聞きました。
インタビューは2021年5月の初回取材時に行った内容を掲載しています。
昭和30年代に八百屋から食堂へ転業
──開業の経緯や店の歴史を教えてほしい。
栗原(敬称略)──
私で三代目の店主となります。
初代店主は、もともと八百屋をしていました。
昭和30年代になり、今後は八百屋よりも飲食店のほうが安定した運営ができるだろうと考え、大衆食堂に転業したと聞いています。
当時は現店舗から県道を東へ約1.7キロメートル行った場所、中津原地区にありました。
八百屋の店を大衆食堂に改装して、店を始めたそうです。
詳しい話は伝えられていないのですが、初代は仕入れなどで福山中心部を訪れていました。
そのため、当時営業していた大衆食堂の稲田屋さんによく通っていたと聞いています。
稲田屋さんにインスパイアーされたのか、稲田屋さんにアドバイスしてもらったのかは定かではありません。
ですが、稲田屋さんからは何かしらの影響を受けているでしょうね。
関東煮や肉めし(肉丼)は初代のころからありますが、稲田屋さんと同じような関東煮・肉めしを扱っているのは、やはり稲田屋さんの影響があるからだと思います。
ちなみに店名の「服部屋」は、初代の出身地・服部(福山市駅家町北部)が由来です。
地域に愛されている味を守るため、先代から店と味を継承する決意を
──栗原さんが店を継ごうと思ったのは、なぜ?
栗原──
実は、私は初代・二代目の店主と血縁関係はないんです。
私は、服部屋の常連客でした。
また、かつて私の祖父が豆腐店をやっていて、服部屋に豆腐を卸していたんです。
そんな縁もあって、幼いころから服部屋に家族でよく食べに行っていました。
家族ぐるみのお付き合いがあり、先代店主には小さいころよくかわいがってもらっていましたね。
小学校のとき土曜日の授業が午前中で終わったあと、兄弟や友達といっしょに自転車をこいで服部屋にしょっちゅういっていたのは、良い思い出です。
私は決まって中華そばを食べていましたね。
大人になっても、たびたび服部屋に食べに行っていました。
そんなある日、二代目の店主から高齢で後継者もいないので、近い将来店を閉めることになるだろうという話を聞いたんです。
その話を聞いたあと「物心ついたころから親しんでいた味をなくしたくない」「地域に根付いた店を後世に残したい」という思いがだんだんと強くなっていきました。
当時私は車両系の技術者として働いていたのですが、一念発起して退職。
服部屋を継承しようと決意しました。
そして服部屋の店主に、店を継承させてほしいとお願いしたんです。
──それはかなり思い切った行動だ。
栗原──
そうかもしれませんね。しかも、私は飲食店経験がありませんし。
でも、店主には無事に了承してもらうことができ、それから約一年間店主の下で働きながら修業しました。
働きながら、料理のつくりかたはもちろん、飲食店のノウハウなどいろいろなことを手取り足取り教えていただきましたね。
そして平成26年(2014年)8月、ついに私が店主になり、服部屋を継ぐことになったんです。
私が店主になると同時に、現在店がある森脇地区に店を移転することにしました。
というのも、現在店がある土地はかつて祖父が豆腐店をしていた場所。
豆腐店はかなり前にやめていましたが、土地はまだ我が家が保有していたんです。
この土地を活用しようと思い、移転しました。
移転して駐車場が広くなり、お客様も来やすくなったと思います。
移転後、しばらくは先代も手伝いに来てくれまして、大変助かりました。
店と味を守るため、日々試行錯誤の繰り返し
──栗原さんが継いでから工夫したことなどはある?
栗原──
「ミニ肉めしセット」をつくったのは、私です。
当店は歴史が古いので、若いときから通ってくださっている年配の常連さんもいます。
当店では、中華そばと肉めしを両方たのんで、ガッツリ食べるかたも多いんです。
「若いときは中華そばと肉めしを食べられたけど、年をとったから難しい。でも、どちらも食べたいから悩むわ」という声をよく聞くようになりました。
そこでお客様の声を反映して、中華そばとミニサイズの肉めしをセットにしたメニューをつくりました。
あわせて、うどん・そばのセットもつくっています。
あとは、サイドメニューとして「牛すじ煮」を出しました。
これは、もともと従業員のまかないとして食べていたものなんです。
実際に出してみたら、好評でした。
それに、おでんの具材も増やしてみました。
あと、店舗新築移転にあたってお客様の入りやすい店、過ごしやすい店を意識しました。
駐車場を広めに取っているのもそのため。
もともと当店は営業職や作業員・ドライバーなど、外で働くかたの利用が多いんです。
移転後は、それに加えて女性客やお子様連れの家族客がかなり増えましたね。
──ほかに、味や調理の面などでは?
栗原──
味や調理面でも、マイナーチェンジは試行錯誤しながら続けています。
先代から受け継いだものを守りながらも、さらに自分なりの研究をしていかないと守っていけないのではないでしょうか。
下準備や仕込みの時間など、先代のときも長かったのですが、私の代になってもっと長く時間をかけてやっています。
私は飲食店経験はありませんでしたが、実際にやってみると楽しいし、ついいろいろと試してみたくなるんです(笑)。
前職は技術者ですが、料理人も何か共通するものがあるのでしょうか。
案外、料理人は私の性分に合っているのかもしれません。
──大衆食堂といえば定食が定番だが、服部屋は単品メニューが中心なのは?
栗原──
これは先代・初代の時代からですね。
というのも、初代は今でいう食品ロスに厳しいかただったそうです。
昔は定食や刺身などもあったそうですが、ロスが多く出るメニューはじょじょにやめていったと聞いています。
結果、残ったのが現在メインとなっているメニュー。
少数精鋭のメニューですね。
服部屋の看板と味を守り、後世に伝えていく
──今後の展望があれば、教えてほしい。
栗原──
当店は、大衆食堂。
文字どおり庶民のための飲食店です。
ですから、お客様が来店しやすい店であり続けたいと思います。
そのため、価格は高くなりすぎないようにしていくのがモットーです。
あとは服部屋を継がせていただいた以上、地域に根付いた服部屋の看板と味を守り、後世に伝えていくこと。
正直、今は自分の仕事で手いっぱいです。
ですが将来的には、私のあとの時代も服部屋の看板と味を守っていく後継者を育てていきたいなと思っています。
地元で長く愛されてきた大衆食堂 服部屋
昭和30年代より、半世紀以上にわたり地元で愛されてきた大衆食堂 服部屋。
服部屋の店と味を守るべく大きな決断をした店主の栗原さんは「お客様が来やすい店」であり続けたいと語りました。
その言葉のとおり、服部屋には仕事中のかたから地元のかたまで、老若男女多くのお客さんでにぎわっています。
もちろん、初代・先代から受け継がれた中華そばや肉めし・関東煮も絶品です。
服部屋の懐かしい味わいの中華そばや肉めし・関東煮を、ぜひ食べてみてください。