【ヴィクトリアM】グランアレグリアに死角はあるか? 藤沢和雄調教師の本音に迫る

ペロッと舌を出してちゃめっ気を見せる余裕たっぷりのグランアレグリア

東京競馬場でのGⅠ5連戦の第2弾は、マイル女王を決める第16回ヴィクトリアマイル(16日=東京芝1600メートル)。昨年の安田記念、マイルCSとマイルGⅠを連勝し、JRA賞最優秀短距離馬に輝いたグランアレグリア(牝5)が不動の主役だ。女傑アーモンドアイさえも撃破した同馬に果たして死角はあるのか? 来年2月末で定年を迎える名伯楽・藤沢和雄調教師(69)の〝本音〟に、厩舎密着の立川敬太記者が迫った。

グランアレグリアの戦歴はいまさら説明するまでもあるまい。桜花賞、安田記念、スプリンターズS、マイルCSとGⅠを4勝。牝馬に先着を許したのは昨年の高松宮記念(1着モズスーパーフレア)と前走の大阪杯(1着レイパパレ)の2度しかない。しかも、その2走は1200メートル、2000メートルでベストディスタンスではなかった。アーモンドアイすら寄せつけなかったのが昨年の安田記念。マイル路線で頂点に立っているのは明白だし、桜花賞以来2度目の牝馬限定戦なら負けられない立場でもある。

話を1年前に戻そう。当時、GⅠ高松宮記念で2着に敗れたグランアレグリアに、次走としてヴィクトリアマイルのプランが出たが、レースから約1か月後の4月27日に、所属するサンデーレーシングが熱発による帰厩の遅れを発表。これを受けて、翌28日に藤沢和調教師が安田記念への直行を明言した。ちまたでは同じノーザンファーム生産のアーモンドアイとの直接対決を避けたのでは? そんなうがった見方も飛んだものだ。

同師に改めて当時の状況を問うと「(アーモンドアイの)国枝(調教師)に聞いてくれよ。ムフフ」とけむに巻かれてしまったが…。いわば2年越しの同レース参戦。堂々たる主役として出走する。ただ、昨年と状況が違うのは、臨戦過程が1200メートルの高松宮記念から2000メートルの大阪杯に替わったこと。ある意味で勝負の分かれ目があるのなら、ここに尽きるのではないか?

そのグランアレグリアは、くしくも昨年回避が決定したのと同じ4月28日に放牧先のノーザンファーム天栄(福島県)から帰厩。調整は至極順調で、5歳春を迎えた〝大人の女〟は、落ち着いた好調教を日々重ねている。5日は美浦で主戦のルメールも見守る中、馬なりで南ウッド6ハロン81・6―37・6―12・9秒をマーク。申し分のない1週前追い切りを終えた。

「落ち着いていたし、穏やかになっているね。大阪杯は重馬場。道中は好位でいい手応えだったけど、4角で追ってからが甘くなってしまった。休み明けでもしっかり調教はできていたが、うまく走れなくて、レースからあがってきた時は(馬が)すごくイラついていたよ。今度は慣れたマイル。順調だし、大丈夫」と藤沢和調教師。

指揮官の言葉にもう少し耳を傾けてみよう。

「大阪杯はちょっとの雨ではなかった。昨年の高松宮記念(重馬場)もそうだったけど、この春先は天気が不安定で大変なんだ。まあ、そのあたりのことは慣れているし、もう心配ない。それに(休み明けを)1回使っているから調整が楽だよね。前走だけでなく、これまでマイル、スプリントにしても強い相手と戦ってきた。思い描いた通りに穏やかになって、いい馬になってきたね。(3歳時のNHK)マイルカップとか、あのころは力み過ぎた走りだったけど、今はそういった面が抜けて、追い出すまで我慢できるようになっている」

もはや、何の心配もいらないのかもしれない。前走の大阪杯は自身初の2000メートルや、3冠馬コントレイルとの初対戦など挑戦者としての立場が色濃かったが、今度は王者として受けて立つ。同馬の実力を誰よりも知る藤沢和調教師の胸中に〝不安〟の2文字は存在しないようだ。今や完成の域。JRAの歴史に大きな爪痕を残してきた泰山北斗は、グランアレグリアとの残された日常を楽しんでいるかのようにも思える。

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